
2017年にダイキン情報技術大学を設立し、高度IT人材の社内育成に踏み切ったダイキン。その背景と現状をダイキン工業 人事本部の今井達也さんに聞いた。
2016年、自動車業界にGAFAが進出。価格や販売力を競う従来構造から、車に通信機能を搭載し、渋滞予測や自動運転など通信機能を使ったソフト競争が主戦場に。この流れはエアコンにもやってくるとの経営トップの危機意識があった。ソフト競争になれば、ハードであるエアコンは更にコモディティ化が加速するとの危惧が始まりだ。
これからは、お客様に合わせた快適性を提供する高付加価値製品の開発が不可欠。そのとき重要になるのが、データを読み解き、新しいサービスを構想し、実装するデジタル人材だ。しかし、2017年時点で社内の情報系技術者は、全社員の約1%しかおらず、採用も容易ではない。そこで自社での育成に踏み切った。
当社では「データサイエンティスト」を ①ビジネス課題を整理し解決する「テーマ実行力」 ②情報処理、AI、統計学など情報科学を理解し、使う「データサイエンス力」 ③システムに実装・運用する「データエンジニアリング力」、この3つを兼ね備えた人材と定義している。そのうえで、データサイエンティストとしての力と空調や化学の専門知識、経験を兼ね備えた「
全役員・経営幹部から新入社員までの全社員が対象。階層別のカリキュラムを組み、23年度末までに1,500人のデジタル人材輩出を目標に取り組んでいる。新入社員向けのカリキュラムでは、約300人の技術系社員の中から100人を選抜し、2年間は専門教育に専念してもらう。情報系大学院レベルの知識とスキルを身につけることが目標。1年目はAI・IoTの専門講座と空調・化学などの事業関連教育がメイン。2年目は現場で課題を見つけ改善するプロジェクト研修に取り組んでいる。
業務知識を持つ既存社員は、業務に必要なAI・IoT知識を身につける研修を、マネジャー層にはデジタル活用推進人材を各職場にて活かすためのマネジメントを身につける研修を行っている。幹部層向けの講座は昨年度から始まり、新規参入のコンペティターによる事業への影響や新たなビジネスモデル構築について議論している。
製品の不具合事例をAIで分析して早めのメンテナンスにつなげる技術や、画像処理技術、MIを活用し、開発期間の短縮や生産性向上、品質向上などで一定の成果を挙げている。ただ、デジタルを活用したイノベーション創出はまだまだ。顕在化した課題を解決するだけでなく、手つかずの問題を見つけ、新たなビジネスに仕立てていく、そんなイノベーション人材の創出が課題だ。
MI(Materials Informatics)
AIに加え、実験、シミュレーション、データベース、IoTなどさまざまな技術が統合された分野。
ダイキンは成長戦略テーマとして「顧客とつながるソリューション事業の推進」「空気価値の創造」を掲げている。「顧客とつながるソリューション事業の推進」では機器運転データとエネルギーマネジメントを組み合わせ、省エネで快適な空間を提供していく。「空気価値の創造」では室内の温度差にメリハリをつけ集中力を高めるエアコンや、睡眠データを読み解き最適な寝室環境をつくるエアコンなど、既存の枠を超えたイノベーションに挑戦していく。いずれもデジタル人材の力と、培ってきたモノづくりの力が欠かせない。2つの融合で世界と戦い勝ち残るため、全社一丸となって取り組んでいきたい。