電力安定供給と脱炭素化を実現する夢の「宇宙太陽光発電」
ACTIVE KANSAI
2022.3.15

電力安定供給と脱炭素化を実現する夢の「宇宙太陽光発電」

宇宙空間に太陽光発電所をつくり、地球に電力を送る。そんな壮大な計画を先導する京都大学生存圏研究所・篠原真毅教授に、宇宙太陽光発電計画の現在地や海外動向を聞いた。

宇宙太陽光発電とは?

宇宙空間に設置した太陽光パネルで発電を行い、地上に伝送して電力として利用するシステム。地上の太陽光発電は、夜間は発電できず、天気によって発電量が左右される。一方で宇宙太陽光発電なら、昼夜を問わず発電でき、安定的に電力供給ができる。太陽光発電の弱点である稼動率の低さを、宇宙で発電することで解決できるのが最大のメリットだ。

地球への送電方法は?

私たちは電力をマイクロ波に変換して送電するよう考えている。マイクロ波とは、周波数300MHzから30GHz程度の電磁波で、電子レンジや携帯電話、飛行機の運航や気象観測レーダーなどに利用されている。マイクロ波で地上に送ると、雨が降っていてもほとんどエネルギーが減衰しないまま、静止衛星軌道3万6000kmから0.02秒ほどで地上に届く。

地上で発電するよりもコストがかかるのでは?

宇宙太陽光発電は設備を打ち上げるロケット代がかかるが、それを補う設備稼動率の高さがある。試算では日本では地上の太陽光発電稼動率は14~15%だが、宇宙での稼動率は90%以上。8〜9円/kWhで売電し30年運用すればビジネスとして十分成立する。

海外の動向は?

アメリカと中国で研究が進んでいる。アメリカでは空軍研究所とカリフォルニア工科大学にそれぞれ約100億円ともいわれる予算がついており、本腰を入れて取り組んでいる。
中国も重慶に宇宙発電研究所をつくり、「2030年にメガワット級の試験的な宇宙太陽光発電所の建設を開始し、2050年までにギガワット級商業宇宙太陽光発電所を建設する技術力を培う」という目標を発表しており、研究を加速させている。

日本の動きは?

国の宇宙基本計画が示す商用化の目標は2050年、政府は2022年度から宇宙空間に太陽光パネルを展開する実証実験を開始する予定。また、2025年度には別の衛星実験でマイクロ波送電の実証にも取り組む予定だ。
SFっぽいので、「夢があっていいね」と言われるが、今の技術で十分可能。ただ、部品輸送等のイニシャルコストを下げるため、部品を減らす、安いロケットを開発するなど解決しなければならない課題はある。

今後の抱負は?

宇宙太陽光発電を支える技術の1つである、マイクロ波による無線送電システムの地上利用を推進し、将来的に宇宙太陽光発電実用化につなげていきたい。現在スマートフォンには置くだけで充電できる機能があるが、これはデバイスと充電パッドをぴったりくっつける必要があり、真の無線給電とはいえない。私が技術顧問を務め、関西電力グループのK4 Venturesと資本提携しているSpace Power Technologiesが考えているのは、離れていてもマイクロ波をキャッチして電気に換え、充電される無線給電システム。現在、総務省で電波法改正を含めた議論が進んでおり、制度が整えば、宇宙太陽光発電実用化に向けても一歩前進する。ビジネスの場で研究をブラッシュアップし、宇宙からの電力供給実現に繋げたい。

篠原 真毅
篠原 真毅
京都大学 生存圏研究所 教授
1968年千葉県生まれ。
96年京都大学大学院工学研究科電子工学専攻博士後期課程修了。
同年京都大学超高層電波研究センター助手、
2004年京都大学生存圏研究所准教授を経て、10年より現職。
http://space.rish.kyoto-u.ac.jp/shinohara-lab/index.php
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