ルポ|電化の近未来【堺市|産業技術総合研究所 |ダイヘン|篠原 真毅】
ACTIVE KANSAI
2021.12.27

ルポ|電化の近未来【堺市|産業技術総合研究所 |
ダイヘン|篠原 真毅】

ダイヘン │ 電池切れを気にせずEVが走る!「走行中給電システム」

EVは充電器にプラグを差し込んで充電する手間と時間がかかる。蓄電池の大容量化に期待がかかるが、全く違う発想で解決しようという動きがある。それが「走行中給電システム」だ。イメージは、ちょっと走っては充電する“ちょこちょこ充電”。走行しながら充電するので小容量の電池でも継続走行でき、EVの普及につながると期待されている。昼間、再エネの余剰電力が発生する場合、走行中給電システムに優先して供給する仕組みを整えれば、脱炭素化にも貢献する。

走行中給電システムは、電源ケーブル等を接続せず電気を送るワイヤレス給電の技術をベースに開発。道路に埋め込んだ送電コイルに電流を流して電磁界を発生させ、EVの受電コイルに伝えて充電する。「ワイヤレス給電は、当社がつくっている変圧器、電力機器、半導体製造装置の技術を掛け合わせて誕生した新しい技術領域」とダイヘンでシステム開発を担う築山大輔氏は力を込める。一般道路のバス専用レーンや交差点、高速道路に走りながら充電できる機能の整備が構想されている。大分県にある試験場での実証実験を経て、既に無人工場の自動搬送車で実用化されているほか、2025年の大阪・関西万博会場で、電動モビリティと走行中給電システムを組み合わせたデモンストレーションを予定している。

街なかに走行中給電システムを埋め込んだインフラを整備するには課題も多い。道路に埋設された送配電線やガス管などの機能を損なわない設備の敷設に加え、電磁界の発生による他の電子機器への影響や人体・生態系へ影響のない運用が必須条件となる。

「技術開発、道路、エネルギーなどのパートナーと一緒に一大プロジェクトとして開発を進めていきたい」と鶴田義範・ダイヘン充電システム事業部事業部長。電池切れを気にせず、走り続けられる未来に向け、プロジェクトは加速している。

走行中給電システムのイメージ

走行中給電システムのイメージ

大分県での実証実験

大分県での実証実験

左/鶴田 義範、右/築山 大輔
左/鶴田 義範
ダイヘン 充電システム事業部 事業部長
右/築山 大輔
ダイヘン 充電システム事業部 技術部 主事
https://www.daihen.co.jp/

篠原 真毅 │ 「宇宙太陽光発電」宇宙から電力を安定供給

夢のエネルギーと見られていた宇宙太陽光発電が前進の兆しを見せている。宇宙太陽光発電研究を先導する、京都大学生存圏研究所・篠原真毅教授が手がけるのは、地上から3万6000km上空の静止衛星軌道に衛星を打ち上げ、太陽光パネルを設置、発電した電気をマイクロ波に変換して地上に送電するという壮大な計画だ。

一辺が2km程度ある太陽電池で100万kW、原子力発電所1基分の電力を発電し、直径2kmのアンテナで地上の受電サイトに送電する。宇宙では24時間発電でき、地球に送るマイクロ波は雨風の影響を受けないのでエネルギーの減衰もほぼない。地上での太陽光発電の設備稼動率14~15%に対し、宇宙での設備稼動率は90%以上と安定的に電力を供給できるのが最大の特長だ。篠原教授の試算によると「30年間運用して1kWh当たり8~9円で売電できればビジネスとして成り立つ」という。宇宙放射線や宇宙ごみの衝突によって少しずつ性能が劣化するが、パネルの平均寿命は30年程度で、地上での法定耐用年数17年の倍近く長く稼動できる。マイクロ波による健康影響についても世界的な安全基準をクリアしている。

課題は宇宙空間での太陽光パネルの設営。太陽電池とアンテナを合わせて総重量1万トン程度になり、部材輸送のためロケットを1000回程度往復させて組み立てる必要がある。実用化には輸送量を減らすための電池の効率アップと輸送用ロケット打上げのコスト削減が必須だ。

宇宙太陽光発電イメージ図
宇宙太陽光発電イメージ図

宇宙太陽光発電イメージ図

一方、マイクロ波によるワイヤレス送電技術はIoTデバイスへの無線給電等で既に実用化しているが、篠原教授が科学顧問として参画し、関西電力グループのK4 Venturesと資本業務提携しているSpace PowerTechnologiesでは、より多くの電力を無線で送るワイヤレス電力伝送システムの実用化を目指しているという。「電源プラグを挿さなくても電子機器や機械に充電できるワイヤレス送電が普及し、さらに技術開発が進めば、いずれ100万kWの宇宙太陽光発電にも生かせる」と篠原教授は期待を込める。国の宇宙基本計画が示す商用化の目標は2050年、政府は22年度から宇宙空間に太陽光パネルを展開する実証実験を開始する。宇宙にソーラーファームが誕生する日が近づいている。

篠原 真毅
篠原 真毅
京都大学 生存圏研究所 教授
1968年千葉県生まれ。
96年京都大学大学院工学研究科電子工学専攻博士後期課程修了。
同年京都大学超高層電波研究センター助手、
2004年京都大学生存圏研究所准教授を経て、10年より現職。
http://space.rish.kyoto-u.ac.jp/shinohara-lab/index.php
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