DXの流れが加速するなか、関西電力グループでは各事業のイノベーション、デジタル化を推進し、新たな価値の提供に取り組んでいる。長年培ったインフラ事業者の知見とノウハウを生かし、最先端技術でインフラの保全に取り組む関電発のスタートアップ「Dshift(https://www.dshift.co.jp/)」について、角田恵(代表取締役社長)に聞いた。
Dshift 代表取締役社長 角田 恵
私は入社以来、水力発電設備の建設設計・運転・保守の業務に従事し、その後、気象工学研究所の立上げに携わり、営業、総務、ITなど実務を経験しました。3年ほど前から、AIシステムやドローンを使った技術開発などのプロジェクトマネジメントを担当。火力発電所の煙突を点検するドローンなどさまざまな技術を開発してきました。もともとは、関西電力グループ内で技術展開を図ることが私の使命でしたが、社外の方とのコミュニケーションのなかで、「関西電力グループの技術を使いたい」という要望も多く、社会に広くデジタル技術の外販や、DX導入を支援する組織としてDshiftを立ち上げました。
最先端のデジタル技術で、社会インフラの安全で効率的な保全・点検・管理サービスを提供するとともに、ゼロカーボン社会実現への技術開発、DX導入の支援を行っています。具体的なソリューションとしては、GPSが届かず飛行制御が難しい煙突内部やボイラー炉内を安定的に飛行して点検する高性能ドローンに加え、塵芥(ごみ)、流氷雪などの漂流物や、河川内の釣り人などをAIの画像解析で検知し、水力発電の発電量の最大化を図るシステムを提供しています。高性能ドローンは、火力発電所で使用するために開発したが、点検による運転停止期間の短縮化や、作業員の安全対策にもなると同時に点検コスト削減も図れることから、製鉄所やごみ焼却場など電力会社以外からもニーズを頂いています。
更にAIの画像解析による塵芥(ごみ)検知のアルゴリズムの応用による高度な取水量確保システム導入のニーズも他の電力会社から頂いています。
直近の取組みとしては、洋上風力発電の点検ドローンのサービス化に向け、官庁、発電事業者、風車メーカー、協力会社などと協議を重ねています。
風速15mまで対応できる大型ドローンがカメラを搭載して、陸から20kmの沖合まで自動で飛行し、風車の羽根や支柱などを撮影、帰着後、AIの画像解析で状態を判断するものです。人手による点検では、1基あたり1~2日かかるが、ドローンを使えば2時間程度で点検を終えることができます。
また、洋上風力の適地は日本海側に多いので、冬場は海が荒れ、船を出せない日も多く、風車が設置された海域までたどり着けないことが多発します。そこで波の影響を受けず、耐風性、耐雪性等に優れたドローンを開発しようと考えたわけです。技術開発の主体は関西電力ですが、実証実験を重ね、概ね私たちが思うようなフライトができるようになり、実用化の目途がつきました。あとはオペレーションを精査し、2022年度中のサービス開始に向け準備を進めています。
Dshiftのサービスは自然相手のものが多く、開発したサービスを単純に売るのではなく、ベースとなる技術をもとに、クライアントのニーズや環境にあわせカスタマイズしています。連携するK4Digitalの高度な技術・ノウハウも活用し、案件ごとに社員とともに知恵を絞り出し、デジタル技術の実務適用をお手伝いできることが醍醐味であり、面白さを感じています。
インフラの現場で活躍するデジタル技術を提供するサービス・プロバイダーとして、電力会社以外にもさまざまな企業に技術導入の提案を行っており、違う業種にも私たちのサービスをどんどん広げ貢献できればと考えています。また、ゼロカーボン化の実現にしっかり確実に貢献していくことも電力会社発のスタートアップである我々の使命。今後点検ドローンやAI画像解析を活用したサービスに加え、洋上風力発電向けのメンテナンス技術のサービス化に力を入れるなど、サービス・プロバイダーとしてのデジタルソリューションの提供を通じ、ゼロカーボン化実現による持続可能な社会へのシフトに貢献したいと考えています。