持続可能な社会の実現をめざすサステナブル経営の重要性が高まっている。なかでも企業活動の一環として行われる社会貢献活動は、社会からの信頼醸成、従業員のエンゲージメント向上、新たなビジネスチャンスの創出などの役割を担っている。サステナブル経営に向けた企業の社会貢献について考える──

小野塚 気候変動などの環境問題をはじめとした社会課題解決と企業成長の両立が重視され、持続可能性に軸を置く経営への転換が急務になるなか、本日はサステナブル経営に向けた企業の社会貢献について考えます。まず企業の社会貢献活動に関する現状をどうご覧になっておられますか。

原 米英では基本的に「会社は株主のもの」という考え方なので、大株主の創業者は、思い切り儲けてから、それを慈善活動に寄附するというやり方。でも私の考えは違う。江戸時代の日本や、松下幸之助さん、本田宗一郎さんらの経営は、「会社は社会の公器」、事業自体がCSRなんだと。そこが大きく違います。私もアメリカに40年ほど住んでいますが、会社は株主のものと考えているので、株主が経営陣に対し短期間での株主利益最大化を要求するのが一般的。だから、当期利益が1,000億円あったとしても、その利益の100%以上を株主だけに自社株買いと配当金の形で分配する会社が圧倒的に多い。有名企業はほとんどそう。これ自体がサステナブルでない。株主への極端な利益配分は、企業統治を満たしているとは思えません。
江戸時代の日本の商いの考え方
近江商人の「三方よし──売り手よし、買い手よし、世間よし」や「先義後利」の考え方。
CSR(Corporate Social Responsibility)
企業の社会的責任。

小野塚 私はずっと金融畑を歩み、2010年代以降はESGやサステナブル金融にフォーカスするようになりました。原さんは金融も実業も両方ご存じだと思いますが、お金が回ると実業も回るという良い面もあるかと。
原 銀行や証券などに代表される金融経済の本来の存在意義は、実体経済を支えることです。実体経済が繁栄して人々が豊かになることへの貢献が本筋。一方でタックスヘイブンに拠点を置くヘッジファンドやアクティビストが莫大な利益を上げても日本国には一円も払っていないことに憤りを感ずる人たちは多いでしょう。
小野塚 そこは金融工学、金融高度化で現れた歪みかなと。逆にESGやサステナブル金融の流れは、マネーゲームから転換し、企業が本業を通じて行う社会貢献を支援することで持続可能社会の基盤になると考えます。
原 ESGも悪くはないが、現状の米国流ESGは、株主資本主義を助長。アメリカでは株主への還元総額が利益の100%以上という会社が、ガバナンスに優れた企業と言われる。ESGを追求するなら、当期利益のうち株主配分は3割以下に抑えるようなガイドラインがあっても良いのではないか。Eも、貧富の差を拡大させかねない排出権取引や炭素税を奨励するのはどうか。Sは、あるべき社会の姿だと言うが、各国の歴史、伝統、民族、慣習に基づいて全く違うのに、統一しようとすること自体、限界があるのでは。
小野塚 私は金融の枠組みの中で、過去十数年、ESGの視点から企業を理解しようとしてきました。企業を見るとき、その企業が利益追求だけじゃない、環境負荷や社会格差の是正を考えながら経営をするという意味では、ESGは日本企業にとって有益な指標・視点でもあるのでは?
原 アメリカナイズされ自分で物事を考えることを忘れた経営者にとっては役に立つでしょうが、もともと日本の「会社は社会の公器」、事業活動自体がCSRという考え方の会社にとっては、もっといいことをやっているのに、ESG基準に落とされていることもあるかもしれない。
小野塚 確かにそういう面はある。実は私、京都で文化と芸術の交流拠点を開始しました。そこで思ったのは、企業がどれくらいの目線で経営をしているか──アメリカは四半期単位で、CEOは数十億、数百億の報酬を得て、インセンティブで動く。京都で見たのは、日本企業は100年先に自分の会社が存在しているかどうか、子孫に恥ずかしくないかを目線に経営している。100年後を見据えて、社会の公器として従業員を大切にし地域と対話しながら、中長期的なサステナビリティをめざしているんです。そこに米国流ESGという基準をあてはめるばかりではないように思いますね。

ESG
Environmental(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)を考慮した投資活動や経営・事業活動。
小野塚 事業自体がCSRとして根づいているならともかく、短期利益に結びつきにくい社会貢献活動は、業績次第で縮小もあり得ます。課題と実現方策についてお聞きしたい。
原 会社法等を改正し、株主提案をするための株主資格について株数や期間を増やす。一定数を3年以上持ち続けない株主には、重要案件に関する議決権を持たせないなどとします。高速取引などで短い期間しか保有しない株主に中長期に支える株主と同じ権利を渡すこと自体、問題があります。「会社は社会の公器」という考え方に基づき、従業員への利益配分が株主への配分と少なくとも同じになるようにコーポレートガバナンス・コードを見直してはどうか。
小野塚 決して株主のためだけに会社があるわけではありませんからね。一方、経営自体の課題はどうでしょう?

原 まず、米国流の株主資本主義という考え方を改め、CSRやESGという概念も、自分で考え再定義する。「会社は社会の公器」であることを会社の定款に入れると、すべてが回り始めます。すると、会社を成功に導いてくれる仲間たち、すなわち社員、地域社会、地球、顧客、仕入先、中長期株主──これら「社中」6者に公正に利益を分配するのが当たり前になります。経営は中長期で考え、短期主義を捨てる。だから四半期決算開示は不要です。ただし短期でも利益が出ることは中長期の経営をするために必要です。50年後、100年後まで先を見据えた経営ができるような社風をつくるのです。
もう1つ、中長期で発展し続けるには、新しいことにチャレンジする必要があります。会社は大成功して大儲けできる事業を持つと、胡坐をかいて挑戦することを忘れる傾向がある。そこは徹底してリスクを取って、新しい分野に資金・人材を投下して、失敗してもいいから、新しい事業に挑戦する社風をつくるのがトップの仕事です。
コーポレートガバナンス・コード
上場企業に対して、幅広いステークホルダー(株主、従業員、顧客、取引先、地域社会等)と適切に協働しつつ、不正を防止、中長期的な企業価値向上に向けた取り組みを進めるよう求める行動原則。
社中(Company)
社員、顧客、仕入先、地域社会、地球、そして中長期株主といった、会社の成長を支えてくれる仲間。
小野塚 安住しないでチャレンジし続けるって、難しい。それを経営のしくみに入れ込むって、何をしたらいいですか。
原 これは本当に難しい。初代の経営者がいるときはいいが、次、後継者には実体経済を経験した人間を起用する。製造の経験、販売の経験、苦情を処理して謝りに行った経験、この3つの経験者を据えることが望ましい。
小野塚 それはとても心に沁みます。私は金融業界で30年近くやってきて、今、文化交流施設をつくっています。ビル1棟構えて改築、仕入れ、人材採用と、今までと全く違う次元のリアルな人の命と安全と笑顔が詰まった、手触り感のある仕事に遅ればせながら携わった。実業経験者をトップにするというのは、すごく心に響きました。
原 日本企業は実業の人たちを世界に出して自分で道を切り拓く経験をさせればいい。日本は平和で、これだけ安全な国はない。私が中米で考古学研究をしていたときなんて、ゲリラと政府軍、両方に友達をつくって安全を確保しても、毒ヘビはいるし、マラリアや黄熱病を媒介する蚊との戦いも。そういう経験を通じて学んだこともある。
小野塚 CSRや社会貢献に関し、エネルギー会社はどう考えたらいいか。最後にエネルギー事業者への提言をいただきたい。
原 エネルギー安全保障に貢献する技術開発をする事業群を育成することに力を注いでほしい。つまり燃料を海外から輸入するのではなく、日本国内にある原材料を使ってエネルギーをつくる技術開発を行うのです。
安倍政権の内閣参与のときエネルギーと食料の安全保障は随分気になっていたので、2019年に科学者と一緒に会社をつくった。これは、日本に無尽蔵にある二酸化炭素という原材料を使って、エネルギーや食料をつくろうという試みです。
小野塚 え、どのように?
原 わかりやすくたとえると、バイオものづくり技術で空気中のCO2を食べる微生物を開発したんです。その微生物は空気を食べて、バイオ燃料に変える。燃料製造の実験が成功したので、これから500トン1,000トン、大量培養を始めます。この会社は今、急成長してますが、将来、儲かったら社員に大きく還元する方針です。優れた製品をつくり、社員を豊かにできる会社は、その結果として株主も潤うという公益資本主義理念で経営するのです。
関西電力もエネルギー安全保障に繫がる新分野に投じてはどうでしょうか?日本政府に対しても、積極的に発言し、発送電分離や自由化などの政策を、より良い方向へ導く。エネルギーの安全保障を担う会社として、政策提言力を備えた企業となることを期待します。

小野塚 安定供給については、外国在住経験も多い私としては、日本の停電の少なさや迅速なトラブル対応など、安定した電力供給を実現されていて、何より幸せな状況。それを民間企業が担っているのは素晴らしい。
原 会社は株主のものという考え方だと、サービスや安定供給の前に経費節減。だから民営化や自由化は品質低下に繫がりがち。でも日本の電力会社は、「会社は社会の公器」という精神が根づく公益企業。この伝統は失わないでいただきたい。そして人材育成、新しい分野にどんどん人を出していけば、関電は将来、世界に冠たる会社になります。


小野塚 いろいろお話をしてきて、今日の私の結論としては、CSRや社会貢献は、事業を営む上で現れる社会・環境・経済等への好影響の追求に知恵も労も惜しまないことだと理解しました。それを牽引する経営者を鍛えることが企業に期待されているんだと。
原 企業の社会貢献としては、まず第一に事業自体での貢献、電力の場合は安定供給のための設備投資に資金をしっかり投じる。安いコストのエネルギーを安定してお客さまに提供する。次に、社員の給料を増やす。そして新しい事業分野を切り拓きたいという社員にはチャンスを与える経営が重要です。人を大事にする会社は社員が残ります。もし、社員を鍛えたいと思うのならば、世界で最もふさわしい場所は“香港”です。米中2大覇権国の結節点にあり、ここでは平和ボケは許されません。しかも、シリコンバレーよりも質の高い科学技術が次々と集結する宝の山です。治安は日本以上に良く食べ物もおいしく、社員を送るのに適しています。だからこそ、将来の経営者は“香港のような環境”で経験を積んでいただきたい。
小野塚 一方、社会貢献活動のなかでも、文化的なスポンサードや歴史遺産の清掃・保全などボランティア活動は、利益に直接貢献しないと見えても、やっている従業員に事業上のヒントを与えたり、社会的信頼感を醸成するなど、全て企業価値に繫がると私は理解しています。
原 それは人材への投資。人材を育てる上で、社会と繫がるボランティアはとてもいい投資です。企業資産には流動資産と固定資産があるが、人的資産は載っていない。人材を加えたバランスシートをつくればいい。
私は、公益資本主義を実践し、「世界中に“教育を受けた健康で豊かな中間層”を創りたい」という思いで活動しています。
小野塚 人材はじめブランドや社内ノウハウ、見えない価値、見えない資産を見える化するバランスシートはいいですね。日本企業の欠点は、価値を言語化・見える化しないこと。見える化しないと、なかったことにされる。それと、日本にありがちな“横並び”はよくないが、ベンチマーキングは重要。それをもとに、自社の、自身の差別化戦略を立てればいい。
私自身は「ひとりひとりが幸せを感じられる社会」をつくりたいと思い、日々活動しています。本日は素敵な話をありがとうございました。
公益資本主義
米英型の株主資本主義でも、中国型の国家資本主義でもなく、社会全体の利益つまり「公益」を追求する資本主義。公益とは「私たちと私たちの子孫の経済的・精神的な豊かさ」を指し、会社は「社会の公器」として事業を通じて社会に貢献すべき存在と考える。原氏が提唱。

