
ひとりの人間の数十年の命を紡ぐために、一体どれくらいの命をいただいているのか。改めて感じることで、「いただきます」という感謝の気持ちが芽生える。食材の生命はもちろん、生産者、料理人、ひいては食材を生み出す地球環境にも思いを馳せることは、他者への優しさや利他の心につながる。それは今の時代に必要なことだろう。
一生分のたまご
日本人ひとりが一生で食べる卵の数は、約28,000個。
その量は世界トップクラスで
年間300個以上を消費し続けている。
©EART MART/Expo2025
いちばん食べられる魚
地球でいちばん食べられている「イワシ」は
地球でいちばん多くのいのちを支えている。
©EART MART/Expo2025
大阪・関西万博シグネチャーパビリオンのプロデューサーを務めるにあたり、「いのち」の象徴として、私たちに最も身近な「食」をテーマに選び、パビリオン「EARTH MART」を構想した。前半の「いのちのフロア」は、普段いただく食べ物を通じて、いのちへの感謝が生まれるような仕掛け。後半の「未来のフロア」には、未来に向けてよりよく食べるためのヒントを散りばめ、最新のフードテックとともに日本の伝統食を並べた。自然の素材だけで長期間保存できる梅干しや、フグの毒を抜く技術など。日本人にとって当たり前の食文化だが、海外の人から見れば素晴らしいフードテックだ。そんな食の知恵を世界とシェアすれば、食糧問題の解決にも役立つかもしれない。万博は、まだ見ぬ未来を見せる一方、過去の価値あるものに気づき、未来に本当に必要なものは何かを考える場でもある。
UMEBOSHI~BANPAKU-ZUKE~2025→2050
ここで作る梅干し「万博漬け」。
ただし樽を開けるのは2050年。
いわば「食のタイムカプセル」だ。
©EART MART/Expo2025
味を記憶し、再現できるキッチン
世界中で調理過程のデータが共有される未来。
料理の楽しさも、技術も、文化も記憶され、時空を超えてゆく。
©EART MART/Expo2025
食べるってなんだろう。改めて考え、行きついた答えは「食べることは、地球という食卓を囲んで一緒に生きること」。パビリオン出口では、「Welcome to EARTH MART」の言葉で送り出す。会場を出た後の各々の生活が、本当のEARTH MARTという意味だ。万博が、食やいのちについて考えるきっかけとなり、「いただきます」に、これまで以上に心を込めることにつながればうれしい。