ChatGPTなどAI技術進化によりDXの波が加速度を増して社会に押し寄せており、ビジネスの在り方が変わりつつある。各地のDXの現場を巡った。
トラックドライバーの人材不足に加え、2024年4月からドライバーの時間外労働が年間960時間に制限された。一方、通販等の拡大により、宅配便の取扱い個数は増加の一途。22年度は50億588万個と過去最高を更新した。
ラストワンマイルを担うドライバー業務を低減しようとDXに取り組んでいるのが佐川急便だ。「増える荷物を少ないマンパワーでいかに捌くかを念頭に、ドライバー業務の省力化に取り組んできた」とデジタル企画部部長の南部一貴さん。
まず着手したのが、手書き配送伝票のデジタル化だ。AIで手書き文字を自動で読み取るシステムを開発。「伝票のデジタル化がDXの第一歩だった」と南部さんは振り返る。
2022年には「夜積みアプリ」を導入。荷物の積み込みを前日の夜間に終えておけば、当日の集配業務がよりスムーズにできる。このため、トラックの荷台内部を6つの区画に区切り、ドライバーが住所に応じて荷物を荷台のどの区画に積むかをあらかじめ業務端末の夜積みアプリに登録しておく。夜勤の夜積み担当者が伝票のバーコードをスキャンすると、荷台内のどこに置けば良いか一目でわかるようになっているので、登録されたルールに従って荷物を積んでおくことができる。「ドライバーは効率よく配達できるよう、時間帯指定の荷物を手前に置くなど積み込みを工夫している。積み込みスタッフに対し以前は紙で指示を出していたが、大雑把な指示しかできず、結局ドライバーが積み直していた」と南部さん。アプリ導入により積み直しが大幅に減り、労働時間削減に繋がった。現在はトラックへの荷物の積み込みを自動で行うAIロボットの検証も進めているという。
将来的なドライバー不足を見据え、熟練度や経験にかかわらず、新人であっても誰もが業務を遂行できる環境の実現にも取り組む。配送伝票バーコードを読み込むと、配送地域の地図と最も効率的な配送ルートが表示されるアプリを開発。地図は対象住所付近まで行くと戸別の住宅地図に切り替わるしくみで、経験の浅いドライバーや繁忙期の応援ドライバーでも迷うことなく配送できる。
中継センターでも効率化が進む。関東の複数の中継センターをSGホールディングスグループの大規模物流施設「Xフロンティア」内の佐川急便大型中継センターに集約し、荷物の仕分けをすべて自動で行い省人化を実現。Xフロンティアでは1時間当たり約10万個の仕分け処理ができるという。
今後は、さらなる自動化・省人化はもちろん、ドローン配送の実用化など、新たな取り組みも進めていきたいと話す南部さん。「今後ドライバー不足はより深刻になる。そんな状況でも、お客さまが安心して荷物を送ったり、受け取ったりできるようにすることが、われわれの責務。今後も省人化・業務負荷低減に繋がる物流DXを拡張させていきたい」と笑顔を見せた。
「ゾンビカレーメシ」、ゾンビメイクをした俳優が街中でカレーメシを配りSNSで話題をさらう——日清食品グループで導入するグループ専用の生成AI「NISSIN AI-chat」が提案したプロモーションアイデアの一つだ。生成AIの全社的な導入のきっかけは、23年4月3日の入社式で、同社の安藤宏基CEOが自らChatGPTで生成したメッセージを披露したこと。かねてよりDXを進めていたデジタル化推進室では、すぐさま希望者を募り生成AIプロジェクトチームを発足。短期間で開発を進め、プロジェクト発足から1カ月足らずの4月25日にNISSIN AI-chatを公開した。
「公開しただけでは変革は進まない。生産性向上につなげるため、利用促進活動を同時に進めた」と話すのは、室長を務める山本達郎さん。まずは成功事例をつくるため、グループ内で最も人数が多い日清食品の営業部門で活用に向けた研修と効果検証を始めた。
リリース当初は30%弱だった営業部門の利用率を向上させたのが、プロンプトテンプレートの開発だ。これは、誰が使ってもAIがクオリティの高い回答を返すようにするもので、売り場提案やプロモーションといった販促用のアイデア抽出から、市場やターゲットの情報収集まで、用途に合わせたテンプレートを用意。その結果、営業部門の利用率は70%を超えた。成功事例を横展開することで全社利用率も50%を超え、部門によっては90%を超えるところも出てきている。 NISSINAI-chatを活用することで、営業部門やマーケティング部門を中心に3万時間以上の業務改善効果を見込んでいる。「今では商談のロールプレイングにもNISSINAI-chatを活用。AIが顧客役でうまくプレゼンできれば点数があがっていくしくみ。いつでも簡単に実施でき、スキル向上にも役立っている」と山本さん。
現在は、AIと全社統合データベースの連携やAI利用を前提とした業務プロセスの確立を視野に、活動を進める。デジタル活用で、飛躍的な生産性向上を実現し、競争力を高めるため、日清食品グループは歩み続ける。