吸収剤の開発が進む稲垣教授の実験室
大気中のCO2を直接回収する、「ダイレクト・エア・キャプチャ(DAC)」。ゼロカーボン化の実現に向け、有望視されている技術のひとつだ。創薬技術を生かしてDACの技術開発に取り組む稲垣冬彦・神戸学院大学教授に話を聞いた。
DACとは大気中のCO2を直接回収する技術。CO2の回収・貯留技術には、大きく分けてDACとCCS*があり、どんなガスを回収するかによって異なる。火力プラントの排ガスなど高濃度のCO2を回収するのがCCS、大気中のCO2を回収するのがDACだ。効率を考えると高濃度のCO2を回収するCCSが望ましいが、回収場所と貯留場所が離れているとパイプラインでつないだり、船で運ぶため輸送費がかかるといった課題もある。一方で、DACだと貯留場所近くに装置をつくれば輸送費はかからない。
*CCS(Carbon dioxide Capture and Storage):二酸化炭素回収・貯留技術
もともとCO2回収ではアミンという化合物を吸収剤に使い、アミンを加熱しCO2を取り出す。しかしながら、アミンは親水性が高いため、CO2吸収時に水を一緒に吸収してしまうことから、加熱エネルギーの約8割が水分加熱に使われ、効率が悪くなるという課題があった。私たちが開発したのは、これまでの常識を覆す、水を弾きCO2だけを回収する吸収剤だ。ヒントになったのは創薬技術。薬は水分がほとんどの人の体内で水を弾き、目的の場所で薬の効果を発揮させるために緻密な計算がなされている。吸収剤の開発にはこの技術を応用した。私としては、温暖化を止める薬を開発しているイメージだ。
吸収剤に使われるアミン
地中や海中に埋めるだけでなく、高純度CO2としてドライアイスの材料にすることもできる。例えば、新型コロナウイルスワクチンを運ぶのにドライアイスが必要で、日本はドライアイスを海外から輸入しているが、国産ドライアイスの材料として活用できるとずいぶん助かる。また、実現には時間がかかるが、CO2をメタンやメタノールに変えてエネルギーとして活用する研究も進んでいる。
DACの一番の課題は、低濃度のCO2を大量に回収するためには大量のアミンが必要になること。アミンを大量に使うと施設が大きくなり、必然的にコストが高くなる。コストを抑えるためには、CO2とアミンを効率的に触れさせる工夫が必要なため、この辺りは今後企業と一緒に模索していきたい。
DAC技術開発を進める稲垣冬彦・神戸学院大学教授
私は愛知県出身だが、温かみのある関西弁が好きで神戸の大学に来た。2025年には大阪・関西万博があるので、私たちの研究を関西発のテクノロジーとして全世界に発信できればと考えている。
火力発電所などから出るCO2を回収・貯留するCCSは日本がトップレベルにあるが、DACは海外勢が先行し、日本は遅れをとっている。DACについても私たちの技術で逆転し、世界のゼロカーボン化に貢献したい。