2022-8-24

- 北アルプス飛騨山脈の北部を、立山連峰と後立山連峰に分断する黒部峡谷。日本一深いV字峡谷の間を縫うようにして走っているトロッコ電車。その運行を担うのが、関西電力グループの黒部峡谷鉄道株式会社である。
- 同社で車掌の中山氏、運転士の村澤氏、窓口業務を担う土開氏の3名に、それぞれの業務経験から仕事のやりがいや、黒部の魅力などについて話を伺うとともに、黒部峡谷にトロッコ電車が走ることになった歴史的経緯を紹介する。

とにかくお客さまに笑顔で乗車してもらい、喜んでいただきたい
-多くのお客さまにとって、非日常の大自然の中を走るトロッコ電車ですが、皆さんの普段の業務で心がけていることを教えて下さい。
- 村澤
- 私は運転士免許を取得して間もないのですが、安全最優先で少しでも快適にお客さまにご乗車いただけるよう、運転技術の向上に努めています。また、出発前の駅のホームなどでお客さまとコミュニケーションを取ることを心がけています。観光目的や登山目的、また電車好きの方や親子連れなど、さまざまなお客さまがご乗車されます。皆さまからいただくご質問などにはできるだけお答えしたいと思っていますが、時にはその場で答えられず悔しい経験をしたこともあり、今でも黒部峡谷に関することや鉄道に関することなど、日々勉強しています。
- 中山
- 私の入社当時は電車に乗務する女性社員はおらず、入社後しばらくして、初めて車掌を務める女性社員が出てきました。その姿を見て、私も「電車に乗務したい」と会社に希望を伝え、車掌業務をさせていただけることになりました。お客さまとの応対は難しいときもありますが、ご要望にお応えできて喜んでもらえると本当に嬉しく思います。マニュアル通りの対応ではないところに楽しさがありますね。車掌業務に就いて同僚・後輩への教育をすることはもちろん、村澤さんのように、若い運転士の方と一緒に乗務する機会も増えています。マニュアル一辺倒ではなく、自身の経験も踏まえた臨機応変な対応の重要性も教えてあげたいと心がけていますね。
- 土開
- 私は入社して2年目で窓口業務しか経験ありませんが、1年目はマニュアルに沿った対応をこなすだけで精一杯でした。でも、窓口はトロッコ電車に乗るのを楽しみにお客さまが最初に来られるところです。業務に慣れてきた今は、当たり前のことかもしれませんが、どんなに忙しくても笑顔で応対することを常に心がけています。
一方で、トロッコ電車は席ではなく車両ごとの予約制なので、自分の好きな座席に座りたいと窓口に早くから並んでおられるお客さまもいらっしゃるなど、受付処理のスピードが求められることもあります。私も、中山さんのように臨機応変な対応ができるよう、知識・経験を積んでいきたいですね。
黒部峡谷鉄道のトリビアを紹介!
-トロッコ電車の運行期間(例年4月~11月)以外、どんな業務をしていますか?
- 中山
- 冬場は、次のシーズンの営業運転開始に向けて、社員直営で車両整備を行いますが、実は技術職の社員以外もその車両整備に参加します。営業職や、運転士、車掌も基本的には技術職ではないのですが、冬場に一緒に整備作業をすることで車両に関する知識が増え、日常業務での異常の早期発見につながるといったメリットもあります。

-大自然の中を走るトロッコ電車ですが、動物などを見かけることはないのですか?
- 村澤
- 動物が先住民と言える場所(笑)なので、運転士からは猿やカモシカなどの動物を見かけることはあります。ただし、動物との接触事故はないと思います。街中の電車とは違ってスピードがそれほど速くないため、動物に気づいてから減速が間に合うことや、トロッコ電車は音が大きく、大抵はその音に驚いて逃げていくからかもしれません。
-宇奈月駅の2階にひときわカラフルな飾りがありましたが?
- 土開
- あれは、人気アイドルの「ももいろクローバーZ」の特製ヘッドマークやトロッコオリジナルグッズにサインいただいたものを展示しているものです。ももクロの皆さんが、2019年に黒部市でライブ「ももクロ春の一大事2019 in 黒部市」を開催された際に、黒部峡谷トロッコ電車とのコラボ企画として、このヘッドマークをつけて運行したもので、今でも記念に飾っています。ももクロ好きの方はぜひ一度お越しになって見てみてください!

そもそもなぜ、黒部峡谷にトロッコ電車が?
-黒部と言えば、元々、人をよせつけない秘境と言われていました。しかし、現在は多くの方が訪れる観光スポット。トロッコ電車が走るようになった経緯を紹介します。
黒部峡谷鉄道の歴史は大正時代、黒部川水系の電源開発に使用する「資材運搬用」のために鉄道の敷設工事が開始されたことに始まります。「日本の屋根」といわれる北アルプス連峰の山々に挟まれた黒部峡谷は、人々をよせつけない秘境の地でした。しかし黒部川は、水量が豊かで急峻な河川であるため、水力発電に極めて適した条件を備えていました。
黒部峡谷で本格的な電源開発を始めたのは、高峰譲吉博士が1919(大正8)年に設立した東洋アルミナム株式会社でした。その後、日本電力株式会社が事業を引き継ぎ、1923(大正12)年、発電所建設のための資材運搬用鉄道としての鉄道敷設工事に着手。そして、1937(昭和12)年に欅平まで全線開通し、現在の黒部峡谷鉄道の原型が出来上がりました。
それから、この鉄道の経営は日本電力株式会社から日本発送電株式会社へ、そして1951(昭和26)年5月には関西電力株式会社に引き継がれました。当初は、一部地元の方の乗車はあったものの、基本は資材運搬のための専用鉄道でした。しかし、地元の皆様や黒部の自然を愛するお客さまから観光用電車として利用したいとの声が強まり、1953(昭和28)年11月、関西電力が旅客輸送として「黒部鉄道」の営業運転を開始。そして1971年5月、関西電力グループの鉄道専業会社として、黒部峡谷鉄道株式会社へ事業継承しました。現在に至るまで、安全確保を最優先に、多くの観光客の方々を秘境・黒部の大自然へと誘うとともに、黒部川水系の発電所の安全・安定運転のための人員や資機材の運搬に活躍しています。

<宇奈月駅前>
参照:黒部峡谷鉄道ホームページ
余暇の過ごし方は?
-休日はどのようなことをされていますか。趣味などあれば教えて下さい。
- 村澤
- 平日は電車ですが、休日は電車ではなく自動車を乗り回しています(笑)
運転が好きで遠出をすることもあり、仕事のリフレッシュになっています。 - 中山
- 私は昔から書道を習っていて、最近は行く先々の土地・場所に思いを巡らせ、ご当地ごとに“詩”を書いて思いを表現するということにハマっています。先日は黒部峡谷のことを表現する詩を書いてみたのですが、先生からは断崖絶壁感が伝わってこない、とダメ出しを食らってしまいました(笑)が、仕事へのモチベーションとして継続しています。
- 土開
- 私は一年ほど前から、テントを張って寝袋で寝る本格的なキャンプにハマっています。友人と一緒に、月に一回くらいの頻度で富山県内のキャンプ場を巡っています。自然を楽しむことで開放的な気分になれて、また週明けから仕事を頑張ろうと思えます。夏もいいですが秋はキャンプの季節なので楽しみです。秋と言えば、黒部峡谷も10月下旬~11月上旬頃に鮮やかに紅葉します。ぜひ皆さんにもトロッコ電車に乗っていただき、紅葉を楽しんでいただきたいです。
(聞き手)
関西電力株式会社 広報室 大西
<黒部峡谷鉄道株式会社ホームページ>
https://www.kurotetu.co.jp/