2022-7-13

弊社は2024年8月1日をもって、NTTグリーン&フード株式会社に海幸ゆきのや合同会社の全持分を譲渡いたしました。
- 関西電力発のスタートアップ企業である、「海幸ゆきのや合同会社」(以下、「ゆきのや」)。同社は2020年10月に設立。クルマエビの一種であるバナメイエビを陸上養殖で生産・加工・販売まで手掛ける、関西電力では初となる食料分野の会社です。
- 今回紹介するのは、関西電力からゆきのやへ出向している硯(すずり)圭ノ介さん。同氏は2022年に中途採用で関西電力へ入社。前職の水産・農業分野で培ったスキルやノウハウを活かし、ゆきのやではエビの生産管理を任されています。事業のやりがいや今後の目指す姿についてお伺いしました。
なぜ、電力会社がエビの養殖を?
-「エネルギー」と「エビの養殖」、一見関係のない事業ですが、どのような経緯で会社が設立されたのでしょうか。
- 硯
- ゆきのやは、社長の秋田亮が、当時、新規事業を検討する部署に所属しており、水産業の抱える課題を解決するため、陸上養殖に目を付けたことが始まりでした。水産物の供給には無くてはならない「養殖」ですが、主流となっている「海面養殖」では環境汚染、季節・天候・災害の影響による収穫量の増減等が課題となっています。これらを解決した次世代型養殖方式が「陸上養殖」であり、今後世界のスタンダードとなる可能性を秘めた養殖方式です。元々関西電力では、大阪湾の環境浄化プロジェクトを推進していました。ヘドロを浄化するためには光合成細菌が有効なことを発見したのですが、この細菌をエビに与えると成長を促進できることを見つけた研究者がいたんです。そこに着目し、関西電力のリソースを活かすことができると考えたのがきっかけです。
▲社長の秋田 亮 氏
デジタル化で良質なエビを養殖。環境保全にも寄与
-硯さんはどのような役割を担っているのでしょうか?
- 硯
- 私はエビの生産管理を担当しています。養殖場のエビにとって、水質や餌が合っているかなど、成長状態を逐次管理します。水産業にもAIやIoTの技術が浸透してきているのですが、ゆきのやでは、水温や水の循環・排水など、すべてシステムでコントロールしています。近年、エビの養殖による環境破壊が問題視されており、世界的に持続可能な養殖方式へと転換が進んでいます。当社が採用している養殖システムは環境配慮型のため、土地にダメージを与えることなく同じ場所での養殖が持続的に可能になるんです。
実は前職の時代に、マレーシアでエビの養殖事業に携わっていましたが、向こうは外の池で循環せずに養殖する方式のため、当社のシステムとは異なります。しかしながら、成長過程における留意点や餌の開発など、養殖の経験やノウハウはありますので、ゆきのやでも活かせると思っています。
国内最大級のエビの陸上養殖場
-2022年7月に、静岡県磐田市で陸上養殖場が竣工しました。
- 硯
- 2021年2月から建設を進めてきましたので、待ちに待ったという感じですね!養殖場が着々と出来上がっていく姿を楽しみに見ていました。養殖場が完成するまでは、パートナー会社である新潟県の養殖場で生産されたエビを出荷していました。今年の秋には、磐田市の養殖場で育ったエビが出荷できるサイズにまで育つ見込みです。今回竣工した養殖場は、完全閉鎖循環式を採用していまして、使用した水の再利用を行うため周辺環境への影響は極小とすることが可能です。また、DX技術を活用して、従来は目視で実施していた尾数推定をAI画像認識処理にて実施することで、生産・餌やり・出荷計画の精度を高めることができます。これにより、コスト低減と生産性向上を実現することができるんです。養殖場で生産したバナメイエビは「幸(ゆき)エビ」のブランドで、食品加工会社や飲食店等への販売に加え、大手給食事業者や、養殖魚専用ECサイトを通じた一般の消費者の皆さまへの販売も予定しています。
「POWER TO FOOD」を実現
-ゆきのやの目指す姿や、硯さんが成し遂げたいことは?
- 硯
- 関西電力の経営理念に『あたりまえを守り、創る』がありますが、この「あたりまえ」の部分は、食にも通じると考えています。食べることは毎日のことですし、言わずもがな、生活と密着しているため、ゆきのやの事業は、社会に良い影響を与えられる事業だと確信しています。ゆきのやが目指すのは、単にエビを養殖して出荷するだけの「モノ売り」だけではなく、「コト売り」つまり、サービスプロバイダーとしての役割を担っていくことです。私自身は、まずは、お客さまにとって安全・安心な生産を行うことはもちろん、「国産」かつ「活きたまま」という貴重な価値を、五感で楽しんでいただけるような新しい仕掛けを考えていきたいです。
また、陸上養殖業界全体の発展につなげるため、DX技術を駆使した効率的な生産方法の確立や、経験の浅い事業者でも簡単に魚が育てられるノウハウ蓄積等に努めていきたいと考えています。
(聞き手)
関西電力株式会社 広報室 宮田