2022-5-25

役割は舞台監督!?座長を支える劇団員

時速5kmの低速モビリティサービス「iino(イイノ)」を提供する、ゲキダンイイノ合同会社。同社は2019年に設立した関西電力発のスタートアップ企業。関西電力の社員だけではなく、業務委託契約を結ぶスタッフなどを含めた13名の会社で、低速モビリティの開発にあたっては外部からもパートナーを集めてチームを組んでいる。「走る場所の魅力を引き立て、乗る人のエモーションを掻き立てる」をビジョンに、社員もスタッフも関係ない垣根を越えた集団として全国を巡ることから、「(旅する)劇団みたい」ということが社名の由来。そのため、代表の嶋田氏の肩書は『座長』、スタッフは『劇団員』と名乗っている。

今回は、そのゲキダンイイノの北田氏を紹介。関西電力の社員である北田氏が、なぜゲキダンイイノで活躍しているのか。ご自身の信念や今後の展望についてお伺いしました。

自身の価値を高めるために、ゲキダンイイノへ。

―なぜ関西電力からゲキダンイイノへ?

 北田 
関西電力に入社後はIT部門に配属となり、社内各種システムの開発等、様々な業務に携わりました。会社としてもIT分野に力を入れていた時期でもあったため、色んなプロジェクトにも参画させていただきました。自分でいうのもおかしいですが、仕事を円滑に進めることができていたと思います。ですが、ふと周りをみると、親しい友人たちがどんどん起業して、新しいことにチャレンジしている様子を目の当たりにするうちに、いつしか「自分はこのままでいいのか」「関西電力の北田ではなく、北田としての価値を高めたい」と考えるようになりました。日々葛藤していた中、当時所属していた関西電力若手社員によるイノベーション創出の有志団体の先輩社員から、「悩んでいるなら、一緒に新しいことをしよう」と声をかけていただきました。その先輩社員が、座長の嶋田氏です。ちょうど嶋田氏がiinoプロジェクトの事業化に向けて取り組んでいた段階でした。

―嶋田氏の一言で悩みは解消されたんですか?

 北田 
自問自答していた時期を考えると、嶋田氏の一言で悩みはなくなりましたね。ですが、当時はある業務のプロジェクトメンバーの中心メンバーに任命されたばかりで、仕事を投げ出すわけにはいかない、周りに迷惑はかけられないと、別の悩みがでてきまして。。。悩んだ末、当時の上司に相談したのですが、私の想いを汲んでいただき、背中を押してくださいました。その後、社内制度を活用して、イノベーション推進に関する部署へ異動させていただき、以降iinoプロジェクトに参画し、現在は関西電力から出向という形で事業に携わっています。当時の上司には本当に感謝しています。

与えられた役割は、「舞台監督」。

―ゲキダンイイノでの北田さんの役割は?

 北田 
会社設立後、私に与えられた業務は、モビリティの開発統括、経理・財務、庶務などを含めて、現場を統括する役割でした。いわゆる「なんでも屋」です。当社は、劇団のように様々な立場の人たちが集まっているチームなので、肩書きも劇団にちなんでいます。代表である嶋田が「座長」のため、現場を統括する立場にある私は「舞台監督」を拝命しました(笑)。現在は、新型モビリティの開発や案件対応など、サービス拡大に向けて、まさしく舞台監督のように縦横無尽に走り回っています。モビリティの開発は、試作機として自分たちで木材を切り抜いてモックアップ機(木製で作った模型)を作ったり、システム開発や電気回路を改良したりするなど試行錯誤しています。

世にないサービスを提供するため、「失敗」し続ける。

―いま一番注力していることは?

 北田 
今年でゲキダンイイノの設立から3年経ちます。今後更に会社を成長させていくためには、様々な「失敗」をしないといけないと考えています。これまでは、嶋田氏や私が現場に張り付き、スタッフ総出でプロジェクトに対応していたのですが、ありがたいことにお客さまが増えてきたため、複数の案件を同時並行で対応するケースが増えてきました。ただし、それだと仕事が回らないので、効率化や成功確率を高めることに注力してしまい、新たな発見や閃きが少なくなってきています。当社はこれまでトライ&エラーを繰り返しながら発展・成長してきたため、失敗から学ぶ大切さを実感しています。我々の舞台は、これまで世になかった低速モビリティという分野なので、0から1を創り出すことの難しさを体験しています。ときには遊びの要素も必要だと思います。設立当初は、五右衛門風呂を車体に載せたこともありました(笑)。当社は、モビリティを提供することが目的ではなく、どこで乗って、どんな体験をしてもらうかが重要だと考えています。乗る場所の魅力を惹き立てる空間づくりを提供できるよう、これからも挑戦を続けていきます。

様々な視点や価値観が必要。

―遊び心も必要とのことですが、プライベートから仕事につながることは?

 北田 
確かに、仕事以外での体験がヒントになることもありますね。私がiinoプロジェクトに参画することが決まった際、妻に報告したのですが、「低速モビリティ事業」に携わると言っても全くピンとこなかったようで「自動車メーカーに転職するの?」「乗り物なのになんで遅く走るの?」などと言われました(笑)。そこでハッとしましたね。モビリティに興味がある方も、そうでない方も、事業を発展させていくためには、様々な視点・価値観を受け入れることが大事なのだと。自分たちも正解を持っているわけではないので、凝り固まらずに柔らかい発想で今後も取り組んでいきます。

(聞き手)
関西電力株式会社 広報室 村上、宮田