2022-3-23

“営業マン”から“気象予報士”へ 株式会社気象工学研究所 安藤 滋人

  • (株)気象工学研究所は、関西電力の起業チャレンジ制度の活用により、2004年に起業・設立。
  • 気象工学を通じて、気象に関する調査・予測・コンサル・サービスの開発や提供など行う。
  • 今回紹介するのは、同社で気象予報士として、お客さまのニーズに沿った気象予測や防災・管理に係る情報提供に携わる安藤滋人氏。
  • 安藤氏から、気象予測の面白さや難しさ、今後取り組んでいきたいことなどの話を聞くとともに、同社で豊富な経験・知識を持つ80代の気象予報士の方にインタビューいただいた。

PROFILE

安藤 滋人(あんどう しげと)
株式会社気象工学研究所 技術グループ 予測室 主任

大学卒業後、通信系の企業に就職して営業職として勤務。
2013年に中途入社で(株)気象工学研究所へ入社。
文系卒ながら、転職活動の傍ら「気象予報士」資格を取得。
家庭では、2人の娘を持ち、子育てにも積極的に携わる父。

みんなの当たり前が当たり前でない~文系卒の気象予報士~

私が大学生の頃は就職氷河期で、世間一般的には、できるだけ偏差値の高い大学に入って、少しでも優良な企業に勤めることが、何となく大事とされている雰囲気でした。そんな中で、私は通信系企業に入社し、社会人の第1歩を踏み出しました。そこでは営業マンとして業務に従事し、やりがいはあったのですが、段々と自分の好きなことをやりたいと強く考えるようになりました。魚釣りがきっかけで子どもの頃から「気象」のことに興味関心が高く、一念発起して「気象予報士」の資格を取ろうと決めました。

資格取得後、気象工学研究所へ入社しましたが、周りで働く方々の多くは、やはり大学・大学院で気象を専門に学んでこられた方や、理系卒の方々ばかりでした。例えば、ダム周辺の河川の流量の計算一つにしても、様々な計算式があり、彼らにとっては当たり前のことでも、文系卒の私にとっては分からないことばかりでした。当時は毎日胃がキリキリする思いでしたが、営業マンの時に学んだ「決して諦めない」という気持ちで、最初の3年間は必死に仕事を覚えました。

一日たりとも全く同じ天気はない~予測が外れても次に活かす~

現在の気象予測は、技術の進歩とともに、予測精度はかなり高まっています。気象予測はIoTとの親和性も高く、今では蓄積された天気データから、類似した過去の天気をすぐに検索することもできます。ですが、私が入社して以降、先輩に口酸っぱく教えられたことは、「過去と全く同じ天気というのは基本的にあり得ない。」ということです。

皆さんが普段、テレビやネットで目にされる天気予報は、晴れ・曇り・雨・雪などのいずれかの組合せや降水確率などが多く、一見同じ天気のように思われるかもしれません。ですが、天気は地上から大気上層までの気象や全球規模の循環等をはじめ諸条件が異なっているので、似ている天気はあっても、過去と全く同じ天気はないのです。例えば、雲の形ひとつとっても似通った形状はあれど、まったく同じものはありません。自然現象は、時間の経過に従ってその姿かたちを変えてしまいます。

そういう細かな違いもあり、予測が外れることもまだまだあります。しかし、天気予報は的中して当たり前で、外れたときの方がお客さまからの反応が大きいのが現状です。外れたときの情報も次に活かして、常に予測精度の向上に挑み続ける、そんな気象予報士でありたいと思い、日々取り組んでいます。

日本の天気を見るには、世界の天気を見よ~大先輩からの金言~

―的中させることが当たり前とみられる気象予測の世界。そんな厳しい世界で約40年間、国の機関で活躍してきた大ベテランが気象工学研究所に。まさに「生き字引」と称され、豊富な知識と経験を持つ気象予報士の中島肇氏(86歳)。安藤氏にとって大先輩であり、師と仰ぐ中島氏に話を伺っていただいた。

(写真左:安藤、写真右:中島)敬称略

安藤
中島さんの経歴について、教えてください。
中島
気象工学研究所には、2006年(当時70歳)に入社しました。その前には、気象庁で約40年勤務し、気象庁を定年退職後に一般財団法人 日本気象協会で約8年勤めていました。
安藤
非常に長い間、「気象」に携わられてきた中島さんから見て、当社の社員はどう映っていますか?
中島
気象のことが好きで、非常に熱心だと思います。年齢も離れているし、このご時世なのでプライベートな付き合いはできていないですが、仕事をしている様子を見て生半可な気持ちの人はいないと思います。
安藤
私は以前、中島さんと一緒に夜勤をするなど、業務を通じて教えていただく機会もありましたが、若い社員に向けて伝えたいことはありますか。
中島
まずは、手作業での予測の仕方を覚えてほしいですね。私の若い頃は、紙と鉛筆を使って、予測も警報情報の発信もすべて手作業でした。だから対応の仕方は体が覚えています。いまは効率的にパソコンがやってくれる部分が大きいと思いますが、気象予報士のスキルを上げるためにも、ぜひ手作業も経験してほしいです。
もう一つは、日本の天気を勉強する際には、ぜひ世界の天気も学んでほしいですね。大気は繋がっているのだから、絶えず全体のことをしっかりと抑えたうえで、狭い地域のことを予測する。大きな視野で自分の見聞を広めることを常に意識してほしいですね。
安藤
ありがとうございます。最後に、今後の気象業界に対して思うことをお話しいただけますか。
中島
天気現象は似たようなことは起きますが、絶対に同じことは起きません。天気・自然はいじわるです。少しずつ違ってくるのでその違いを見つけて、次の予測・防災につなげてほしいです。
安藤
「似た天気はあっても、同じ天気はない」というのは、私も強く意識しています。中島さんから教えられたことなのだと改めて認識しました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

喜んでもらえることが本当に嬉しい~新たなチャレンジも~

前職が営業職であったこともそうなのですが、私は「人に喜んでもらえることが本当に嬉しくて楽しい」と思っています。当社の社員数は多くはないですが、それぞれの分野のエキスパートが揃っているので、お客さまの要望にすぐにお答えできるのが強みです。お客さまのご要望通りに、有益な気象情報を提供できることが本当に嬉しくて楽しいと感じています。

気象予報士として予測精度をさらに高めていくとともに、新たなチャレンジとして、DXで新たな気象情報発信のあり方を模索して取り組んでいるところです。これまでにない形で気象情報を提供して、お客さまに喜んでいただきたいですね。

プライベートでは最近、子どもの「食育」や「食の安全」に力を入れています。祖母の畑での野菜収穫や、「ベーコン」や「ラーメン」などの自作にチャレンジしました。いずれも購入すれば簡単に手に入るもので、自作すれば手間暇もかかりますが、家族が喜んでくれる顔を想像しながら収穫したり自作したりするのが楽しいです。これからもレパートリーを増やせるよう頑張っていきたいです。

<子どもとの野菜収穫体験>
子どもとの野菜収穫体験
<自作したベーコン>
自作したベーコン

(聞き手)

関西電力株式会社 広報室 宮田・大西