プレスリリース

2008年3月10日
関西電力株式会社

高浜発電所3号機の定期検査状況について(A、B、C-蒸気発生器入口管台溶接部での傷の原因と対策)

 高浜発電所3号機(加圧水型軽水炉 定格電気出力87万キロワット、定格熱出力
266万キロワット)は、第18回定期検査において、国内外で発生した600系ニッケル基合金溶接部での応力腐食割れ事象を踏まえ、3台ある蒸気発生器(SG)の1次冷却材出口および入口管台の溶接部(計6箇所)内面について、応力腐食割れ予防保全としてショットピーニング工事※1を実施する計画でした。
 この工事のため、事前に当該溶接部内面の渦流探傷試験(ECT)※2を行ったところ、A-SG入口管台溶接部で7箇所、B-SG入口管台溶接部で16箇所、C-SG入口管台溶接部で9箇所の有意な信号指示(複数の近接した信号を連続したものと評価した最大長さ A:約28mm、B:約38mm、C:約14mm)を確認しました。
 ECTにおける有意な信号指示が認められたSG入口管台溶接部32箇所について、傷の深さを確認するため超音波探傷試験(UT)※3を実施した結果、A-SG入口管台溶接部の2箇所、B-SG入口管台溶接部の6箇所、C-SG入口管台溶接部の3箇所の計11箇所の板厚が、電気事業法に基づく工事計画認可申請書に記載の75.26
mmを下回ると評価しました。(最大深さ A:約9mm、B:約15mm、C:約9mm)
 本事象による環境への放射能の影響はありません。

平成20年2月4日 お知らせ済み]

  ※1: ショットピーニング工事
小さい金属の玉を溶接部表面に当てることにより、溶接部表面の残留応力を低減させる工事。
  ※2: 渦流探傷試験(ECT)
高周波電流を流したコイルを対象となる配管等に接近させることで対象物に渦電流を発生させ、対象物の欠陥に起こった渦電流の変化を電気信号として取り出すことで欠陥を検出する検査。
  ※3: 超音波探傷試験(UT)
超音波を使って金属等の内部にある有害な傷を検出する検査。


 傷が発生した原因について詳細に調査するため、傷の深さが最大と評価したB-SGの入口管台溶接部について溶接部表面の型取観察およびスンプ観察※4等の調査を行った結果は、以下のとおりです。

  ※4: スンプ観察
損傷部の表面にフィルム等を貼り付け写し取り、これを顕微鏡で観察する。


1.原因調査結果 
(1) 型取観察
  傷の周辺では、グラインダ施工※5による仕上げ跡を確認しました。
  傷の下方にバフ施工※6の跡も確認しました。
     
   
  ※5: グラインダ施工
溶接部表面等に対して、電動工具に取り付けた円形状の砥石で研削または研磨を行うこと。
  ※6: バフ施工
溶接部表面等に対して、電動工具に取り付けた砥粒を付着させた布ペーパーを何枚も円形状に組み合わせたもの(バフ)で、クラインダ施工より細かな研磨を行なうこと。
   
(2) スンプ観察
  傷は、軸方向の複数の割れが約23.5mmにわたって集まっており、デンドライト境界※7に沿った割れでした。
  割れの周辺に直径約7mmの手直し溶接と思われる溶接の跡が認められました。
  割れは、これまで手直し溶接補修跡が認められた国内外の600系ニッケル基合金溶接部で確認されている1次冷却材環境下における応力腐食割れ※8と同様の様相でした。
     
   
  ※7: デンドライト境界
溶接部では、溶融した金属が固まる際にできる柱状の結晶(デンドライト結晶)ができ、その結晶組織の境界のことをデンドライト境界という。
  ※8: 1次冷却材環境下における応力腐食割れ
1次冷却材環境下で600系ニッケル基合金に発生するPWRプラント特有の応力腐食割れ。(材料、環境および応力の3要素が重なって発生する割れ)
   
(3) 製造履歴調査
   当該SGは、プラント建設時に設置されたものであり、昭和55年9月から昭和58年3月の間に工場で製作されていました。
 当時の工事記録や検査記録を確認するとともに、関係者への聞き取り調査を行った結果、SGの製作手順は、同部位でグラインダ施工(研削または研磨)の影響により高い引張応力が残留し、1次冷却材環境下における応力腐食割れが発生した日本原子力発電(株)敦賀発電所2号機のSGと同様であり、SG管台とセーフエンドを溶接した後、溶接で生じた溶接部表面の凸凹を除去するため、グラインダ施工(研削)およびバフ施工が行われていました。
 また、手直し溶接を実施した場合は、溶接部表面を弾力性のある砥石によりグラインダ施工(研磨)した可能性があることを確認しました。
   
(4) 文献調査
   文献調査を行った結果、600系ニッケル基合金溶接部については、加圧水型軽水炉(PWR)の1次冷却材環境下で約300MPa以上の引張応力が残留していた場合、1次冷却材環境下における応力腐食割れが発生する可能性があることを確認しました。
 日本原子力発電(株)敦賀発電所2号機のSG入口管台溶接部において、手直し溶接部に弾力性のある砥石によりグラインダ施工(研磨)した内表面と、グラインダ施工(研削)およびバフ施工後の内表面におけるグラインダ施工跡に高い引張応力が残留し、1次冷却材環境下における応力腐食割れが発生した事象についても確認しました。
 また、応力腐食割れは、溶接部のデンドライト境界に沿って進展することを確認しました。
   
(5) 表面加工状態確認試験
   高浜発電所3号機SG入口管台の内表面加工条件については、日本原子力発電(株)敦賀発電所2号機と同様であり、敦賀発電所2号機の原因究明において実施された表面加工状態確認試験結果と今回の型取観察結果を比較しました。  
 その結果、当該溶接部内表面は、敦賀発電所2号機でグラインダ施工(研削)およびバフ施工を行い、手直し溶接後に、弾力性のある砥石によりグラインダ施工(研磨)したものと推定された筋状の模様と同様であることを確認しました。
 その加工条件においては、1次冷却材環境下における応力腐食割れが発生する可能性がある約300MPaを超える引張残留応力が発生することを確認しました。
 なお、バフ施工を実施すると十分に残留応力が低減することを確認しました。
   
(6) 調査結果のまとめ
  割れは、デンドライト境界に沿った割れであり、過去の1次冷却材環境下における応力腐食割れ事象と同じ様相を呈していました。
  当該溶接部内表面は、グラインダ施工(研削)およびバフ施工を行い、手直し溶接部は、弾力性のある砥石によりグラインダ施工(研磨)が行われたものと推定しました。
  敦賀発電所2号機で確認されたものと同様に、手直し溶接部を弾力性のある砥石によりグラインダ施工(研磨)が行われた表面と、グラインダ施工(研削)およびバフ施工した後のグラインダ施工跡に高い引張応力が残留し、1次冷却材環境下における応力腐食割れが発生している可能性が考えられました。
     
2.推定原因
   SGの製作時、SG管台溶接部において、グラインダ施工(研削)およびバフ施工を行い、一部手直し溶接と弾力性のある砥石によりグラインダ施工(研磨)が行われたことで、高い引張応力が残留し、1次冷却材環境下における応力腐食割れが発生したものと推定しました。
     
3.対策
   以下のとおり対策を実施します。
   
  (1) SG管台溶接部の内表面全周を切削して浅い割れを除去した後、グラインダにより部分的に深い割れを除去します。
  (2) その後、深い割れを除去した部位に600系ニッケル基合金で肉盛溶接を行った上で、内表面全周をより耐食性に優れた690系ニッケル基合金で肉盛溶接を行うとともに、念のため、バフ施工を行い残留応力の低減を図ります。
   対策工事には、数ヶ月を要し、原子炉起動は今年の夏頃となる見込みです。

以  上

  (経済産業省によるINESの暫定評価)
 
基準1 基準2 基準3 評価レベル
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  INES:国際原子力事象評価尺度
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