プレスリリース
2004
2004年2月27日
関西電力株式会社
SiC(シリコンカーバイト)製12kVA級3相インバータの開発について
当社はこの度、素子にSiCを用いた12kVA級3相インバータを開発し、併せて電力線への連系接続に成功しました。SiCインバータでは世界最大の電力容量であり、また連系接続に成功しているのは当社のみです。
インバータとは、電気の交流・直流を変換したり、周波数の変換を行なう機器で、エアコンや各種モーターの制御用に広く用いられている他、燃料電池や風力発電機を電力線に連系接続するためにも欠かせない装置です。インバータの材料としては従来、Si(シリコン)製のパワー半導体(※1)が用いられてきましたが、当社では平成9年から、Siに比べて耐電圧性能が高く、高温に耐え、電力損失が少ないSiCパワー半導体の開発に取り組んできまして、全てのパワー半導体部分にSiCを用いた4kVAインバータの実験機開発と電力線への連系に平成15年に世界に先駆けて成功しました。今回は、3倍の出力の12kVAインバータの開発と系統連系に成功しました。これはSiCインバータでは、世界最大の電力容量であり、従来は6.5kVA(※2)が最大です。
- (※1)
- 電流のオン・オフや電流の方向等を制御する半導体の中でも、耐電圧12V以上で電流容量が0.1A以上のものをパワー半導体と呼ぶ。パワーが大きいことから、電力制御機器等に使用されている。
- (※2)
- 米国ロクウェルサイエンス社とその後の当社の達成値。
将来、このSiCインバータが実用化され、従来のSiインバータに置き換われば、電力の損失を半分以下(SiC:約1.4%、Si:約3.5%)に抑えられることから、産業界全体の省エネが実現できます。当社では今後、電力系統関連設備はもとより、産業用モーターや燃料電池等の分散型電源、新幹線、リニアモーターカーなど様々な用途に適用できるよう、SiCインバータの大容量化を進め、平成18年頃を目途に、数百kVA級の汎用インバータとして、実用化を目指します。
なお今回開発したSiCインバータの特長は次のとおりです。
(1)インバータは、制御信号により電流のオン・オフの切り替えを行う「SiCスイッチング素子」と、電流が流れる方向を制御する「SiCダイオード素子」によって構成されており、両素子を1つのモジュールに納めております。今回これらを下記のように改良しました。
- 高速SiCスイッチング素子「SICGT」を、現在主流のSiスイッチング素子である絶縁ゲートバイポーラトランジスタ「IGBT」やターンオフサイリスタ「GTO」に比べて、単位面積あたりの通電可能な電流(※3)が約5倍でも高速オン・オフ動作ができるようにCREE社と改良。(※3)
- (※3)
- 単位面積あたりの通電可能な電流はSi素子が50A/cm2、SiC素子が250A/cm2。
- 両素子を納めた金属型高耐圧モジュールを更に高耐熱(※4)にし冷却ファンを小型化。
- (※4)
- 耐熱温度はSiモジュールが125℃、SiCモジュールが275℃。
- 高速SiCスイッチング素子「SICGT」を、現在主流のSiスイッチング素子である絶縁ゲートバイポーラトランジスタ「IGBT」やターンオフサイリスタ「GTO」に比べて、単位面積あたりの通電可能な電流(※3)が約5倍でも高速オン・オフ動作ができるようにCREE社と改良。(※3)
(2) インバータの出力を増大するために高電圧化しスイッチング損失を低減するために高速化しますと、各種の高速高電圧ノイズによる誤動作や素子破壊が発生します。これを防ぐために下記の回路を開発し適用しました。
- インバータ回路の素子Aがオフ動作中に他相の素子Bがオンするとそのノイズで素子Aが破壊するので、必ず素子Aのオフ終了後に素子Bをオンさせる「同時オン防止回路」。
- 素子のオフ動作時に制御回路の速度が遅いと、オフ時に発生する局所的な温度急上昇で素子が破壊するので、これをを防ぐ「高速大電流制御回路」を開発。
- 制御回路から高速に大電流を流すと、素子のオフ動作時に素子内部抵抗で電圧が急上昇して素子が破壊するので、これを防ぐ「破壊防止機能」を開発し制御回路に取り付け。
但し、SiGTOで一般的に使用される保護回路「スナバ保護回路」は、SiC素子が本質的に高耐量を有するので、部品点数低減と低損失化のために使用しておりません。
12kVA級SiC3相インバータの概要
【12kVA級SiC3相インバータの諸元】
前回 | 今回 | ||
---|---|---|---|
・出力電力 | : | 4kVA | 12kVA |
・出力電流(ピーク値 ) | : | 15A | 15A |
・直流電源電圧 | : | 720V | 1400V |
・PWM周波数 | : | 2kHz | 2kHz |
・変調率 | : | 0.5 | 0.8 |
【これまでの開発状況】
- ○SiCダイオードの高耐圧化に成功。
- [耐電圧:6.2kV、電流容量:5A級、動作可能温度:250℃]
- (平成11年1月28日 お知らせ済み)
- ○SiCダイオードのさらなる高耐圧化に成功。
- [耐電圧:12.3kV、電流容量:1A級、動作可能温度:250℃]
- (平成12年2月21日 お知らせ済み)
- ○SiCスイッチング素子の低損失高耐圧化に成功。
- [耐電圧:4.5kV、電流容量:0.5A級、動作可能温度:200℃]
- (平成13年1月15日 お知らせ済み)
- ○SiCダイオードのモジュール化による大電流化、耐高温化に成功。
- [耐電圧:3?5kV、電流容量:200?600A級、動作可能温度:350℃]
- (平成14年5月24日 お知らせ済み)
- 〇SiC製4kVA級3相インバータの開発と系統連系に成功。
- [定常出力:4kVA、直流電源電圧0.72kV]
- (平成15年6月12日 お知らせ済み)
- 〇SiC製12kVA級3相インバータの開発と系統連系に成功。
- [定常出力:12kVA、直流電源電圧:1.4kV、PWM周波数:2kHz]
- (今回の発表内容)
【参考:株式会社クリー社の概要】
株式会社クリー社(Cree,Inc.)
- 設 立 :
- 1987年
- 資本金 :
- 91,000ドル
- 代表者 :
- Charles M. Swoboda (President & CEO)
- 事業内容:
- 炭化シリコン(SiC)系、窒化ガリウム(GaN)系およびその関連化合物の半導体材料とデバイスの開発・製造
以 上