プレスリリース

2002年11月26日

美浜発電所3号機の点検結果について (C-1次冷却材ポンプ封水注入ラインベント弁溶接部付近からの漏えいの原因と対策)



 美浜発電所3号機(加圧水型軽水炉 定格出力82万6千キロワット)は、100%出力運転中のところ、11月12日1時40分頃、発電室員による巡回点検において、C-1次冷却材ポンプ封水(*1)注入ラインベント弁(以下、C-ベント弁という。)からの漏えいを発見しました。直ちに床面の漏えい水は回収するとともに、漏えい部(ベント弁)をポリシートで覆い、漏えい水(約60·/h)を直接回収できるよう措置しました。
 漏えいの状態は安定しており、1次冷却材ポンプの運転や主要パラメータに影響がないことから、運転を継続しながら漏えい部全体を鉄箱で囲み、その中に充填材を注入する方法で補修することとしました。
 14日から補修作業の準備に着手していましたが、同日23時55分頃から漏れ量が急増したため、翌15日0時55分に原子炉を停止することを決定、1時10分から負荷降下を開始し、8時10分に発電を停止しました。
 なお、今回の事象による環境への放射能の影響はありませんでした。

  (*1)封水
    1次冷却材ポンプのシール部の潤滑と清浄度確保のため、化学体積制御系から供給される水。

    [平成14年11月15日 記者発表済]

1.調査結果
(1)外観検査

   漏えい箇所は、C-ベント弁の下部ソケット溶接部であり、外表面の浸透探傷検査(PT)(*2)を実施した結果、溶接部の周方向に全長約25mmのき裂が認められました。
  (*2)浸透探傷検査(PT)
    試験体表面に開口している傷を目で見やすくするため、可視染料の入った高浸透性の液(浸透液)を浸透させた後、余分な浸透液を除去し現像剤により浸透指示模様として観察する方法である。

(2)破面観察

   き裂箇所の破面観察を実施した結果、C-ベント弁と配管のソケット溶接部内側の付け根部に比較的大きな溶込み不良(溶接不良)が認められました。また、貫通したき裂の対角位置の溶接部にもき裂が確認されるとともに、き裂は外面より内面の方が長く、破面に見られるステップ状の模様も内面から外面に向かって放射状に広がっていることから、き裂は溶接部内面を起点として発生し、外面に進展したものと推定されました。
 また、き裂の先端は滑らかな円弧状の広がりを有しており、走査型電子顕微鏡(SEM)
(*3)により拡大観察したところ、破面に組織状模様が認められたことから、今回の損傷は疲労割れ(*4)と推定されました。
  (*3)走査型電子顕微鏡(SEM)
    走査型電子顕微鏡は、焦点を絞った入射電子線を試料面上で走査させることにより、反射または2次電子の拡大像を得る顕微鏡である。電子線を用いることにより、光学顕微鏡よりも分解能が高く、焦点深度の深い像が得られるため、凸凹の大きい破面等を高倍率で詳細に観察する場合に用いられるものである。
  (*4)疲労割れ
    振動等により応力が繰り返し加えられることにより発生する割れ。

(3)運転時の状況についての検討

   破面観察の結果から、今回の損傷原因が疲労によるものと推定されたことから、当該封水注入ラインを模擬したモックアップ試験装置を用いて実験および解析を行った。
 封水注入ラインは、ポンプを流れる1次冷却材の圧力変化(大気圧から15.4MPa)に関係なく、1次冷却材ポンプに送り込む封水が一定流量となるようベント弁上流側にある封水注入流量制御弁(以下、流量制御弁という。)とその下流側にある封水注入流量調整弁(以下、流量調整弁という。)の開度で流量調整(*5)しています。
 今回実施した実験の結果、1次冷却材の圧力が低い状態では流量調整弁の開度が小さく、ベント弁下流側の流量調整弁内部でキャビテーション(*6)が生じ、それに伴い配管内を流れる水に圧力脈動(*7)が発生していました。また、キャビテーションにより流量調整弁自体も振動していました。
 これら圧力脈動と弁の振動により、ベント弁を取り付けている配管部でも振動が発生していることが確認されました。
 一方、通常運転中は、原子炉圧力も高く流量調整弁の開度も大きいため、振動の発生は殆どありませんでした。
 漏えいしたソケット溶接部内部には比較的大きな溶込み不良部があり、これにより当該溶接部の疲労強度は健全な溶接部に比べ、大きく低下していたと推定されました。
  (*5)流量調整
    通常運転時より原子炉圧力が低い原子炉起動時や停止時においては、封水を送り込む充てん/高圧ポンプ側と1次冷却材との圧力差が大きいことから、流量制御弁や流量調整弁の開度を小 さくして(絞って)調整している。
  (*6)キャビテーション
    液体が狭い場所から広い場所に流れると、圧力が部分的に飽和蒸気圧を下回り気泡が発生するが、圧力が高いところに気泡が移ると、気泡は消滅する。
  (*7)圧力脈動
    キャビテーションにより気泡の発生・消滅が繰り返し起こることにより液体中の圧力に変動が生じる現象。

2.推定原因
 今回漏えいしたC-1次冷却材ポンプ封水注入ラインでは、原子炉起動時や停止時の一時期において、流量調整弁の開度が小さく、C-ベント弁でキャビテーションによる圧力脈動や、弁の振動が発生したと推測されました。これにより、C-ベント弁取り付け配管部でも振動が生じ、ベント弁ソケット部溶接部内側の疲労強度が低下した溶込み不良部を起点として疲労き裂が発生し、進展、貫通したことにより漏えいに至ったものと推定されました。

3.対  策

(1) 漏えいしたC-ベント弁とともに、AおよびB-ベント弁についても、ベント弁取り付け溶接部を疲労に強い改良型の管台に取り替えます。
(2)

原子炉起動や停止時において、流量調整弁でのキャビテーション発生を防止するため、弁開度の運用を見直します。
対策実施後、11月29日朝に原子炉を起動し、12月1日頃に100%出力に復帰する予定です。

以 上

(経済産業省によるINESの暫定評価)
基準1
基準2
基準3
評価レベル
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-
0-
0-
INES:国際原子力評価尺度

 

<参考資料>


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