1.アクシデントマネジメント整備報告書の概要
本報告書は、平成6年3月に取りまとめたアクシデントマネジメント検討報告書において摘出したアクシデントマネジメント策の整備及びそれに伴う実施体制、手順書類、教育等の運用面の整備が完了したことから、その内容をとりまとめたものです。
アクシデントマネジメント整備報告書の概要は、以下に示す通りです。
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(1)アクシデントマネジメント策の整備
平成6年3月に取りまとめたアクシデントマネジメント検討報告書では、シビアアクシデント研究及び確率論的安全評価の実施等により得られた知見に基づき、既存の設備を最大限に活用することを考慮した上でアクシデントマネジメント策を摘出しました。今回、これらのアクシデントマネジメント策について、各原子炉施設における系統構成上の特徴を踏まえ、炉心及び格納容器の健全性を維持するための機能をさらに向上させるものとして、「原子炉停止機能」、「炉心冷却機能」、「放射性物質の閉じ込め機能」及び「安全機能のサポート機能」それぞれの機能毎に有効な方策について手順化を行うとともに、必要に応じて設備改造を実施しました(別紙1参照)。また、これらの設備が既存の安全機能に悪影響を与えないことを確認しました。
(2)実施体制の整備
アクシデントマネジメントの実施が必要な状況においては、プラントパラメータ等各種情報の収集、分析、評価を行い、プラント状態を把握し、実施すべきアクシデントマネジメント策を総合的に検討、判断したうえで実施することが重要です。また、適宜、外部との連絡、情報交換を行い、必要に応じて助言等を受けることとなります。これらを確実に実施するため、また既存の組織を有効活用する観点から、原子力災害あるいはそのおそれのある事態に対応する組織である原子力緊急時対策本部をアクシデントマネジメントの実施組織としました。また、対応操作を行う中央制御室の運転員を除く原子力緊急時対策本部全体が支援組織となり、適切な対応操作に関する検討や情報の一元管理等を行うこととしました(別紙2参照)。さらに、各組織の役割分担や責任者を明確に定めるとともに、当該組織が円滑に活動を行うための施設、設備類等の整備を実施しました。
(3)手順書類の整備
設計で想定した範囲を超える事象においては、安全系機器や計測器類の多重故障が生じていることが想定されます。また、事象の進展シナリオをあらかじめ特定することは困難です。このため、限られた時間の中でプラント状態を把握し、操作を実施することによるプラントへの影響等を考慮しつつ総合的にアクシデントマネジメント策を選択できるようにするため、判断方法や影響予測等について体系的に整理された手順書類が必要となります。
これらの点に留意して、アクシデントマネジメントを迅速かつ適切に実施できるよう、運転員及び支援組織の役割に応じた手順書類の整備を実施しました。運転員用の手順書として、炉心損傷を防止するために従来から整備している事故時操作所則(第二部)に、今回報告したアクシデントマネジメント策に関する操作手順を追記するとともに、炉心損傷の影響を緩和するための操作手順を記載した事故時操作所則(第三部)を新たに整備しました。また、支援組織用の手順書として、炉心損傷の影響を緩和するためのアクシデントマネジメント策をプラント状況に応じて総合的に判断するための事故時影響緩和操作評価所則を新たに整備しました。(別紙3参照)
(4)教育等の実施
アクシデントマネジメントを適切に実施するには、アクシデントマネジメントの実施組織の総力をあげて対応する必要があることから、運転員及び支援組織の要員はシビアアクシデントやアクシデントマネジメントに関する知識を十分に備えている必要があり、また、運転員は手順書に基づいた的確な対応操作を実施する必要があります。このため、運転員及び支援組織の要員を対象として、それぞれの役割に応じた適切な教育等を定期的に実施しています。
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2.アクシデントマネジメント整備有効性評価報告書の概要
本報告書は、今回整備したアクシデントマネジメントの有効性を定量的に確認するため、炉型毎の代表炉(ドライ型2ループプラント、ドライ型3ループプラント、アイスコンデンサ型4ループプラント、ドライ型4ループプラント)を対象にアクシデントマネジメント策を考慮した確率論的安全評価を実施した結果をとりまとめたものです。なお、確率論的安全評価は、原子炉施設の安全性を定量的に評価するために有効な手法であり、プラントで発生する可能性のある異常事象を想定し、その後の事象進展の確率を設備構成や故障率等をもとに推定、評価するものです。
評価の結果、アクシデントマネジメントの整備によって炉心損傷頻度はドライ型2ループプラントの代表炉で約6割、ドライ型3ループプラントの代表炉で約6割、アイスコンデンサ型4ループプラントの代表炉で約7割、ドライ型4ループプラントの代表炉で約4割低減されています。また、格納容器破損頻度についてはドライ型2ループプラントの代表炉で約8割、ドライ型3ループプラントの代表炉で約8割、アイスコンデンサ型4ループプラントの代表炉で約7割、ドライ型4ループプラントの代表炉で約8割低減されています(別紙4参照)。
以上の評価により、我が国で現在運転されている全てのPWRについて、アクシデントマネジメントの整備によって炉心損傷頻度、格納容器破損頻度がともに適切に低減されており、これらの対策がプラントの安全性向上に対して有効なものとなっていることを確認しました。
以 上