美浜発電所3号機(加圧水型軽水炉、定格出力82万6千キロワット)は、第18回定期検査にて、平成12年10月25日に並列し、100%出力で調整運転中のところ、11月15日3時頃、2次系主給水管の保温材よりわずかな蒸気が漏れていることを、巡回点検中の運転員が発見しました。
このため、保温材の一部を撤去し調査したところ、主給水管の放射線透過試験用栓(*1)の漏れ止め溶接部から蒸気が漏れていることが確認されました。
主給水流量、蒸気発生器水位等のパラメータに変化はありませんが、原因調査および補修のため11月15日12時より出力降下を開始し、同19時30分にプラントを停止しました。
なお、漏れた蒸気は放射能を帯びていない2次系の水であり、この事象による環境への放射能の影響はありませんでした。
[平成12年11月15日 記者発表済]
1.調査結果
- (1)現地点検結果
- 原子炉停止後、当該漏れ止め溶接部の磁粉探傷検査(MT)(*2)を行ったところ、当 該栓漏れ止め溶接部外面に、直線状の約5mmの欠陥指示が認められました。
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(*2)磁粉探傷検査(MT): |
配管に使用される鉄鋼材料等(強磁性体)を電磁石により磁化し、欠陥部分に生じた磁極による磁粉の付着を利用して、欠陥を検出する方法。 |
- (2)詳細調査結果
- 漏れ箇所を切り出し、研究所施設にて詳細調査を実施したところ、割れは漏れ止め溶接部内面から外表面まで貫通しており、外表面に長さ約5mm、溶接部内面で約18mmの割れが認められました。
破面を観察したところ、破面は比較的凹凸があり、内面側から外面側に向かって扇状に模様が認められ、割れは溶接付け根部(ルート部)の溶け込み不良部を起点として、外表面に向かって進展したものと推定されました。
破面には、ほぼ貫通に近い初期の割れ(深さ約4.5mm)と、その後最終的な貫通に至ったと思われる割れ(深さ約0.1mm)が認められました。このうち初期の割れは枝分かれが少なく直線的であり、低温割れ(*3)の特徴を呈していました。さらに最終貫通に至ったと思われる破面には、延性破面(*4)の特徴であるディンプル(*5)が認められました。
- また、溶接金属部について電子プローブX線分析(EPMA)(*6)を実施した結果、栓側からの溶け込みによって炭素量が局部的に高くなっており、割れの感受性が高いことが推察されました。
(*3)低温割れ : |
溶接後冷却され、比較的低温(200℃程度以下)で生じる割れ。 |
(*4)延性破面 : |
変形を伴った破壊(延性破壊)時に認められる破面。 |
(*5)ディンプル: |
延性破壊で破断した際に、破面に生じる小さなくぼみ。 |
(*6)電子プローブ
X線分析(EPMA): |
真空中で試料に電子線を当て、そこから出てくるX線(特性X線)の波長と強度を測定し、元素分析を行う分析方法。 |
2.推定原因
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- 溶接施工時において、溶接棒の管理不十分により被覆剤に吸着した水分から発生した水素が当該部分に混入し、その後冷却に伴い残留応力が発生し、さらに当該箇所は低温割れの感受性が比較的高い材料(栓:炭素鋼SF50、主給水管:炭素鋼STPT49)であったために低温割れが発生、その割れがその後繰り返されるプラントの起動・停止に伴う応力変動により進展・貫通に至り、漏れが発生したものと推定されました。
3.対 策
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(1) |
当該漏れ箇所の放射線透過試験用栓については、低温割れ防止のためTIG溶接(*7)を用い、キャップ方式により復旧します。また、念のため計画的にキャップの肉厚測定を実施し、健全性を確認します。 |
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(2) |
今回の漏れの原因である低温割れは、材質、溶接施工方法に起因することから、当該箇所と同種の材質(栓:炭素鋼SF50、主給水管:炭素鋼STPT49)、同種溶接方法を用いた放射線透過試験用栓の溶接部について、磁粉探傷検査(MT)により健全性を確認しました。また、その他の放射線透過試験用栓についても点検をしております。 |
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(*7)TIG溶接: |
アルゴンあるいはヘリウムなどの不活性ガス雰囲気中で、タングステンまたはタングステン合金電極と被溶接物との間にアークを発生させ、このアークで溶加材を溶かして溶接する方法。
被覆剤の付いた溶接棒を使用せず、不活性ガス雰囲気で溶接するため、溶接部に水素が混入せず、低温割れが起こる可能性が少ない。 |
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対策実施後、12月4日頃原子炉を起動し、同日中に調整運転を再開する予定です。
また、12月中旬頃には通商産業省の最終検査を受けて本格運転を再開する予定です。
以 上
(通商産業省によるINESの暫定評価)
INES:国際原子力評価尺度
基準1 |
基準2 |
基準3 |
評価レベル |
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