プレスリリース
2000
2000年3月1日
BNFL製MOX燃料問題に関する調査について(中間報告)
- 1. 経緯
- 英国BNFLのMDFで製作され、高浜発電所に輸送された4号機用MOX燃料8体に関し、昨年11月、当社はペレット外径の品質管理データに不正はないものとして最終報告書を公表したが、同年12月16日に新たに不正が発覚し、MOX燃料の高浜4号機への装荷を断念した。
これにより、関係各方面に多大なご迷惑をお掛けし、重要な原子力政策であるプルサーマル計画がスタートでつまずく結果となり、社会の信頼を大きく失うこととなった。
本件の重要性に鑑み、全社横断的にこの問題に取り組むため、平成12年1月11日に品質監査担当の副社長を委員長とするBNFL製MOX燃料問題調査検討委員会を設置し調査を開始した。本報告書は、BNFLと英国原子力施設検査局(NII)の報告書も踏まえ、本調査検討委員会のこれまでの調査検討状況を中間段階としてここに取りまとめたものである。 - 2. 調査の目的
- 本調査検討委員会は、今回のデータ不正の実態を解明するとともに、品質保証・品質管理上の問題点を抽出し、更にそれらの背景を明らかにすることによって、有効な再発防止対策を導き出すことを目的としている。
- 3. 調査の結果と問題点
(1) MDF検査データの分析調査
a. ペレット外径データ - 不正の手口をBNFL及びNIIの解析およびその他の手法を用いて検討した結果、31ロットが特異なデータを含むロットとして抽出された。これらの中には、当社が昨年9月に不正と判断した22ロットと、同12月に新たに不正が明らかとなった1ロットを含む。
その他の8ロットについては、統計的評価および検査員からのインタビューからは直ちに不正と断定できないが、昨年11月から今日までに判明した次の事実を総合的に勘案して不正と見なさざるを得ないと判断した。
- 検査員のパートナーに、コンピュータ操作に明るい運転員がいるという証言が明らかになったこと
- 不正に関与したと思われる人数が当初より拡大したこと
- 抜き取り外径検査における品質管理の不具合やコンピュータ・データ管理の甘さにより、不正の入り込む余地があること
- 規制当局であるNIIの報告書で、BNFLの多くの不具合が指摘されていること
- b. ペレット外径以外のデータ
- ペレット外径以外の検査項目については不正の可能性は低く、今回の調査でも不正があったことを示す事実は見いだせなかった。
- (2) 品質保証・品質管理の問題点
a. MDFにおける問題点 - ペレット外径抜き取り検査を実際に再現し、作業実態の把握を行った。また、要領書の遵守状況、管理監督者の指導状況等について各記録の調査や管理者への聞き取り調査を行った。その結果から、MDFの品質管理は以下の通り問題があるものと考える。
- 管理者、作業者とも、品質保証・品質管理の重要性の認識が弱く、管理者の管理監督意識も薄かったので、規則や要領書を遵守していなかった。
- 設備性能の向上、自動化が行われておらず、長時間の単調な抜き取り外径検査が改善されなかった。
- 品質管理データが手入力でデータの修正、ねつ造が容易であった。また、データへのアクセスを制限する措置が取られていなかった。
- 検査員が品質管理部門ではなく運転部門に所属し、役割分担が不明確であった。
- 業務の的確かつ効果的な実施に対する、組織的な確認が弱かった。
- 管理者および検査員・運転員に対する教育が不十分であった。
- b. 三菱重工業における問題点
- 元請け会社として、BNFLに対する適切な指導および監督が不十分であった。監査や立会検査は行われているものの、海外で最初のMOX燃料加工であるということを認識し、書類審査中心のみではなく、作業現場の実態把握や作業員の規則遵守状況把握といった、もっと踏み込んだ資格審査、監査等を行うべきであった。また、品質管理の観点から、検査データを分析・評価すべきであった。
- c. 当社における問題点
- 当社は、資格審査において、三菱重工業が元請け会社としてBNFLを評価、指導していると考えていたが、十分できておらず、当社としての確認も十分ではなかった。
今回が最初のMOX燃料の海外メーカー工場での製造であることを考えると、当社自ら監査等により現場実態を確認すべきであった。 - (3) 本件発生後の当社対応における問題点
- BNFLからの情報に基づき、直ちに現地に社員を派遣する等対応しているが、初期調査段階で知り得た単純なデータ不正の手口および当時得られた検査員の証言に基づいて調査の方向性を絞り込み、不正の全体像を見失ってしまった。
その結果、MDFの品質管理状況を深く追求しなかった。また、NIIが抱いていた疑義について、もっと技術的解明の努力をすべきであった。さらに、NIIの疑義情報を通産省をはじめ関係箇所に適切に連絡すべきであった。 - (4) 現地調査におけるその他の特記事項
- 抜き取り外径検査データの不正発覚当時、燃料棒中に通常作業では考えられない異物が混入されていた。通常のX線検査で異物が発見され当該燃料棒は不合格となったが、BNFLは異物が故意に入れられた可能性も考えられるとし、本件を一つのきっかけとして外部の専門調査員による特別調査が開始された。当社は当時、異物により不合格となったものがあることを三菱重工業を通じ口頭で聞いた。しかしながら、BNFLは機密保持を理由に、故意の可能性について当社に連絡しなかった。
このような重要な情報が正式に連絡されなかったことは、結果として、初期調査の方向を誤らせることとなった。これに対し当社は、情報伝達の改善ならびに異物混入に関わる原因究明およびその対策について曖昧な部分を残さないよう必要な措置をBNFLへ強く要請している。
本件について当社と三菱重工業は、通常の検査で不合格となり当社調査の対象外の燃料棒であったとはいえ、燃料棒に異物が確認されたという情報を現地で聞いた際に、その発見時期、異物の性状、混入時期、混入場所等について正確に確認すべきであった。 - 4. 再発防止対策
- 当社調査結果、BNFL報告書およびNII報告書からMDFの問題点が抽出された。それらに基づき、今後の海外MOX燃料メーカーの品質を確保し、原子力の信頼を回復するための再発防止対策の基本的方向性を以下の通りまとめた。
- (1) 海外MOX燃料メーカーの品質保証・品質管理の確保
- 今後、海外燃料メーカーにMOX燃料を発注する場合について、以下の項目について検討していくこととする。
- a. 品質保証・品質管理の仕組みの確立と実施
- 経営者の方針の明確化と従業員への浸透、規則履行状況、教育、組織的な管理状況の確認等の品質保証・品質管理の仕組みの確立と管理運営
- b. 製造能力および設備状況
- 作業負担軽減、人の介在による不正防止のための自動化および設備性能
- c. 品質管理データのセキュリティ
- d. 組織・業務運営
- 各組織の責任と権限の明確化および要領書等の記載内容の明確化
- e. 異常時の措置
- 異常が発生した場合の顧客等関係箇所への速やかな報告と迅速な対応
- (2) 元請け会社における品質保証・品質管理の確保
- a. 元請け会社が十分な体制を確保し、上記の海外MOX燃料メーカーにおける品質保証・品質管理の状況を、資格審査、監査、立会検査等において現場実態にまで立ち入って確認することについて検討を進める。
- b. 元請け会社が主体的に、これらの評価、確認を行い、海外燃料メーカーに対する適切な指導、監督および当社への的確な報告ができる体制を確立することについて検討を進める。
- b. 元請け会社が主体的に、これらの評価、確認を行い、海外燃料メーカーに対する適切な指導、監督および当社への的確な報告ができる体制を確立することについて検討を進める。
- (3) MOX燃料加工における品質保証・品質管理活動の強化
- 当社は、MOX燃料の最終使用者として、元請け会社がその発注先である海外燃料メーカーを的確に評価し、指導していることを確認するとともに、問題があるときは元請け会社を指導しなければならない。さらに、海外MOX燃料メーカーの品質保証・品質管理の状況は、直接、燃料の品質に影響を与えることから、当社自らが直接海外MOX燃料メーカーの品質保証・品質管理の状況を確認・評価することも必要である。このため、以下の資格審査段階、製造段階における活動についての検討を進める。
a. 資格審査段階
元請け会社および海外MOX燃料メーカーに対する監査
b. 製造段階- 専門家の長期派遣等による海外MOX燃料メーカーの品質保証・品質管理の指導強化
- 立会検査による品質管理状況や作業状況の実態の把握、確認
- (4) 社内体制の強化
- 今回のデータ不正に関する当社の対応および品質保証・品質管理への取り組みの問題点に対する反省を踏まえて、今後この種の問題に対して経営として的確に対処するため、社外の専門家を交えた品質・安全委員会の設置等により全社体制を強化するとともに、今後重要性を増す原子燃料サイクルにおける品質保証・品質管理を充実するために、原子燃料部門の体制を強化する。
a. 全社体制の強化
全社体制を強化すべく検討を進める。その骨子は以下の通り。
- ・品質・安全委員会の設置
- 品質・安全に関する経営的諸問題を幅広く共有・審議するとともに、社外の見識や情報を取り入れてより良い品質・安全の確保にあたるため社外専門家も参画する品質・安全委員会の設置を検討する。
- ・品質管理・安全管理拠点の構築
- 部門や事業所を離れた立場から、それぞれの品質保証・品質管理活動をチェックする拠点として、企画室 品質監査グループを強化することで検討を進める。
- b. 原子燃料部門の組織の強化
- 原子燃料部門に品質・安全チームを設置し、専門的な観点および独立した立場から品質保証・品質管理の仕組みが適切かつ効果的に機能していることを確認する。また、このチームは元請け会社および海外MOX燃料メーカーの品質保証・品質管理の評価・指導を実施する。
- 5.結言
- 本調査検討委員会は得られた情報と知見を総合的にまとめ、品質管理および原子力安全分野の社外専門家からもご意見を聴取しながら、再発防止策等についてさらに検討をすすめ、最終報告書を取りまとめる。
以 上