プレスリリース

2010年4月28日
関西電力株式会社

大飯発電所1号機の燃料集合体漏えいにかかる原因と対策について

 大飯発電所1号機(加圧水型軽水炉;定格電気出力117万5千キロワット)は定格熱出力一定運転中の平成22年2月1日、1次冷却材中のよう素(-131)濃度および希ガス濃度(Xe-133)が前回(1月29日)の測定値を上回ったため、1次冷却材中の放射能濃度の監視を強化していましたが、漏えいの疑いがある燃料集合体を特定するため2月6日1時に発電を停止し、同日1時47分に原子炉を手動停止しました。
 なお、この期間中の1次冷却材中のよう素濃度は、保安規定で定める運転上の制限値(63,000 Bq/cm3)に比べて十分に低い値でした。
 停止後、原子炉に装荷されていた燃料集合体(193体)全数を取り出し、シッピング検査を実施した結果、2体の燃料集合体(KCHC51、KCHC55)で漏えいを確認しました。

  • ※ 漏えい燃料集合体から漏れ出てくる核分裂生成物(キセノン-133、よう素-131等)の量を確認し、漏えい燃料集合体かどうか判断する検査。

平成22年2月1日5日3月23日お知らせ済み]

1.漏えい燃料の調査結果
  • ・シッピング検査の結果、上記2体以外に漏えいは確認されませんでした。
  • ・漏えいが確認された燃料集合体(2体)について、水中カメラによる外観目視検査を実施したところ、特に異常は認められませんでした。
  • ・2体は同一メーカーで、同一時期に製造された燃料(高燃焼度17×17A型燃料)でした。
  • ・2体の燃料棒全数(264本/体)について超音波による調査*1を実施した結果、漏えいしている燃料棒がそれぞれ1本(計2本)確認されました。
  • ・漏えいした燃料棒2本をファイバースコープで点検したところ、KCHC51の燃料棒1本において、燃料棒を保持している第9支持格子*2内で、燃料棒を支持する支持板部で隙間が認められるとともに、ばね板が棒側に入り込んでいました。
    KCHC55の燃料棒1本には異常等は認められませんでした。
  • ・漏えい燃料集合体2体の他の燃料棒についても、第9支持格子内部をファイバースコープで点検したところ、KCHC55の燃料棒1本で、支持板部のすき間やばね板の入り込みが認められました。
  • *1: 漏えいした燃料棒に水が入ると、燃料被覆管を伝わる超音波が減衰することから、これを検出することで、漏えい燃料棒を特定する。
  • *2: 燃料棒を保持するための部品。支持格子は燃料棒1本ごとに保持するための支持板とばね板で構成されている。
2.最近の大飯発電所で発生した燃料漏えいを踏まえた原因調査
 大飯発電所(4ループ型)では、平成20年に大飯4号機で1体、同21年に大飯2号機で2体、および今回の大飯1号機における2体の計5体(漏えい燃料棒は計7本)で漏えいが発生しています。漏えいした燃料集合体はいずれも平成16年以降採用している高燃焼度燃料(17×17A型:最高燃焼度55,000MWd/t)で、全てが同一メーカーの燃料集合体であったことから、これらの特徴等を整理し、漏えい発生に至った要因を推定しました。
(1)漏えい燃料を含む製造等の履歴調査
  • ・大飯1号機で使用していた、今回の漏えい燃料と同じメーカーで同時期に製造された燃料集合体全12体(漏えい2体を含む)について、製造データや原子炉への装荷履歴、取扱い等を調査した結果、特に問題は認められませんでした。
  • ・大飯2号機および4号機で漏えいした燃料と同じメーカーで同時期に製造された燃料計80体の製造データを調査した結果、特に問題は認められませんでした。
  • ・大飯発電所全体ではこれまで448体の17×17A型高燃焼度燃料を使用しています。これらのうち、燃焼の進んだ燃料の使用履歴についても調査を行い、特に問題は認められませんでしたが、漏えいした燃料については、以下の特徴が認められました。
(2)漏えい燃料に見られた共通の特徴
 漏えい燃料(5体)について調査した結果、以下の共通した特徴が認められました。
  • 1 漏えいが発生した時期は、4サイクル*3運転時のものが3体、3サイクルおよび2サイクル運転時のものが各1体であり、これを燃料集合体の燃焼度で整理すると、ウラン燃料で約40,000MWd/t以上、ガドリニア入りウラン燃料*4では約37,000MWd/t以上で漏えいが発生していました。
  • 2 漏えいが発生した際の燃料集合体の装荷位置(原子炉内での配置)を見ると、炉心の中心から4列目以内に装荷されていました。
  • 3 漏えいしていた燃料棒は、燃料の外周に近いコーナー部に位置していました。
  • 4 漏えい燃料棒全7本のうち4本で、第9支持格子部において、支持板の隙間やばね板の入り込みが認められました*5
  • *3:1サイクル=1運転期間のこと。
  • *4:燃料の核分裂をコントロールするため、中性子吸収効果が高いガドリニアをウランと混合した燃料。
  • *5:大飯発電所4号機の漏えい燃料集合体(照射後試験実施中)については、発電所での外観検査では明確な隙間や入り込みは認めらなかったものの、照射後試験での燃料棒引抜時に引っ掛かりが確認されており、わずかな入り込み等が発生しているものと推定している。
 また、過去の漏えい事象の事例調査を行った結果、支持格子部に隙間が認められた場合の漏えい原因については、1次冷却材の流れによる微小な振動により、燃料棒と支持板またはばね板がこすれることで燃料棒が摩耗して微小孔(ピンホール)が発生するフレッティング摩耗でした。
 以上のことから、今回の漏えい発生の要因として、同一型式の燃料集合体のコーナー部にある燃料棒の、第9支持格子部におけるフレッティング摩耗が考えられます。
(3)燃料棒漏えいの発生要因の推定
 今回の漏えいは第9支持格子部におけるフレッティング摩耗と考えられることから、燃料内の1次冷却材の流れについて流動解析等を行い、漏えい発生に至った要因の推定を行いました。
1 燃料の種類による相違点
 大飯発電所では従来使用していた燃料(最高燃焼度48,000MWd/t)に加え、平成16年から高燃焼度燃料(最高燃焼度55,000MWd/t)を採用し、それぞれ独自の設計(型式)である2社の燃料を併せて使用していますが、
  • ・漏えいした燃料集合体と他社の燃料集合体とでは、特に、第9支持格子の位置にずれ(約1cm:一方の下端と他方の上端との隙間)がありました。
  • ・燃料下部にある下部ノズルの形状(流路孔)にも違いがあることから、下部ノズルを流れる流速について評価したところ、漏えいした燃料のほうが約7%流速が速いことがわかりました。
2 原子炉内の1次冷却材の流れ
 燃料集合体内を流れる1次冷却材は、下部炉心支持板の流路孔を通過した後、燃料を保持している下部炉心板の流路孔から燃料の下部ノズルを通過し、燃料棒の間を上昇流として流れますが、
  • ・下部炉心支持板にある流路孔が中央部のみ大きくなっているため、この影響を流動解析で評価したところ、平均的な流速に比べ、炉心中央部の流速は約10%、炉心中心の流速は約20%速いことが確認されました。
3 燃料集合体内の流れ(隣接燃料による影響)
 下部炉心板の流路孔から下部ノズルに入った冷却材は、そのほとんどが燃料棒に沿って上向き(軸方向)に流れ、一部は燃料棒を横切る方向(横方向:隣接燃料側)に流れますが、
  • ・この横流れは、同一型式の燃料が隣接する場合は小さいが、型式が異なる燃料が周囲にある場合は大きくなるため、流動解析で評価したところ、漏えい燃料が型式の異なる燃料で囲まれた場合、第9支持格子のコーナー部で 最大約1.8倍の横流れが生じている可能性があることがわかりました。
4 摩耗の発生
 これまでの知見から、フレッティング摩耗は、振動の大きさと振動している時間の長さに応じて大きくなることがわかっていますが、
  • ・上記13の状況から、漏えい燃料棒では、その周りの1次冷却材の上昇流や横流れが大きくなっていたことから、振動が大きくなった可能性があります。
  • ・また、漏えいは燃焼の進んだ燃料で発生していることから、振動が大きくなった状態が継続したために摩耗が進展し、漏えいに至ったものと考えられます。
3.推定原因
 これらの原因調査の結果から、第9支持格子内での燃料棒と支持板またはばね板の接触面で、燃料の種類による相違点、原子炉内の1次冷却材の流れ、燃料集合体内の流れ(隣接燃料による影響)などの影響が重なったことによって燃料棒の振動が大きくなり、その状態で燃焼が進んだことから摩耗が進展して微小孔(ピンホール)が生じ、漏えいしたものと推定しました。
4.対策
 これらの原因調査の結果から、以下の通り対策を検討し、実施することとしました。
(1)対策の検討
1 燃料の種類による相違点の影響
 燃料の種類による相違点の影響は、設計の違いに起因しており、漏えいした燃料の設計を変更することによって緩和することができると考えられます。
2 原子炉内の1次冷却材の流れによる影響
 原子炉内の1次冷却材の流れによる影響は、原子炉(下部炉心支持板)の構造に起因しており、この構造を変更することは困難です。ただし、原子炉の中心位置では流速が特に速いことから、その位置での漏えい燃料と同型の燃料装荷を避けることにより、漏えい発生の可能性を低減させることができると考えられます。
3 燃料集合体内の流れ(隣接燃料による影響)
 燃料集合体内の流れによる影響は、型式の違う燃料が隣接することに起因していますが、設計の違いによる影響は、漏えいした燃料の設計を変更することによって緩和することができると考えられます。
4 摩耗の発生
 摩耗は振動が大きくなった状態が継続することで進展するため、振動時間を抑制することにより、進展を抑制できます。このことから、燃焼度を抑制することによって振動時間を抑制し、漏えい発生の可能性を低減させることができると考えられます。
(2)対策
1 今回の漏えい燃料集合体の調査結果に基づく対策
  • ・漏えいが確認された燃料集合体については取り出し、今後使用しないこととします。
  • ・今回漏えいした2体の燃料集合体と同じ型式で同時期に製造された燃料については、現在実施中の照射後試験等を踏まえた漏えい原因が判明するまで、再使用しないこととします。
2 共通要因分析を踏まえた追加対策
  • ・漏えい発生の可能性を低減させるため、漏えい原因が判明するまでは、漏えい燃料集合体と同型の燃料について、
    • 1) これまでに漏えいが発生した燃焼度以上とならないよう、燃焼度を管理する。(ウラン燃料は38,000MWd/t未満、ガドリニア入り燃料は36,000MWd/t未満)
    • 2) 炉心中心には装荷しない
      こととし、運転中は、1次冷却材中の放射能濃度の監視を強化します。
  • ・今後、漏えい発生に対する1次冷却材の流れの影響を緩和するために、燃料設計の一部変更について検討を行います。

 大飯発電所1号機については、上記の対策を実施した上で燃料装荷等の必要な作業を行い、5月中旬に原子炉を起動する予定です。

 また、現在定格熱出力一定運転中の大飯発電所3号機については、上記の対策を踏まえ、4月29日に原子炉を停止して燃料取り替えを行い、6月上旬に原子炉を再起動する予定です。

以 上

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