関西電力ゼロカーボン特集③ 原子力事業本部
ゼロカーボン特集
2022.11.15

関西電力ゼロカーボン特集③ 原子力事業本部

関西電力は安全最優先を大前提に、原子力発電の最大限活用を目指している。原子力の可能性を広げるために力を入れるのが運用高度化の取り組みだ。需給状況に合わせて柔軟に運転期間を設定するほか、定期検査の効率化を通じて稼働率向上を図り、二酸化炭素(CO)の排出削減につなげる。ウクライナ情勢の緊迫化によりエネルギー安全保障の動きが強まる中、原子力の役割にあらためて注目が集まっている。ゼロカーボンシリーズ特集の第3回は、同社の原子力事業の現状や位置付け、発電した電気や熱を水素製造に活用する取り組みなどを紹介する。

CO2排出の大幅削減には原子力発電の安全・安定運転継続が欠かせない(写真は大飯発電所)
CO排出の大幅削減には原子力発電の安全・安定運転継続が欠かせない(写真は大飯発電所)

安全最優先に運用高度化

関電は3月に「ゼロカーボンロードマップ」を策定した。発電によるCO排出量は、2025年度時点で13年度比の半減を目指す。そのために欠かせないのが原子力発電の安全・安定運転継続だ。ロードマップでは、グループ自らの原子力の取り組みとして「再稼働」「運用高度化」「新増設・リプレース」「水素製造への活用」を重点項目に掲げた。

原子力のさらなる可能性の拡大

原子力の稼働率向上はCO削減に直結する。鍵を握る取り組みが運用高度化だ。現状で最長13カ月の運転サイクルを15カ月まで伸ばすことを想定して、原子力エネルギー協議会(ATENA)のワーキンググループ(WG)に関電も参画し、原子力規制委員会と対話を重ねている。15カ月運転のメリットは稼働率向上によるCO排出削減効果のほかにもある。より柔軟に運転期間を設定できるようになれば、電力需給逼迫が予想される夏季、冬季の定検回避にもつながる。

定検期間そのものも最適化する。九州電力や四国電力など再稼働済みのPWR(加圧水型軽水炉)の定検工程について、一つ一つの細かい作業工程を事業者間で共有。作業日数などを比較し、トップランナーより時間がかかっている点検項目があれば原因を分析して今後の改善に生かす。国内だけでなく、米国のプラントとも比較。定検期間の最適化につながる要因を洗い出す。検討結果を踏まえて、安全を最優先として実機プラントの運用を高度化していく。

関電の原子力は美浜発電所3号機(PWR、82万6千キロワット)、高浜発電所3、4号機(PWR、各87万キロワット)、大飯発電所3、4号機(PWR、各118万キロワット)が再稼働を果たした。特定重大事故等対処施設(特重施設)完成を経て、高浜1、2号機(PWR、各82万6千キロワット)が来年6月、7月にそれぞれ発電・送電を開始する予定。原子力7基体制の構築を目指す。新増設・リプレースに関しては、プラントメーカーと協力しながら安全性や経済性を向上させた次世代軽水炉設計の検討を進めている。

社員インタビュー①「問い続ける姿勢 大切に」

原子力事業本部 原子力発電部門発電グループ 赤澤紘史

原子力事業本部 原子力発電部門発電グループ 赤澤紘史

2010年に入社し、美浜発電所で運転員を2年間経験した。その後、原子力発電所の再稼働に向けた使用前検査、適合性確認検査を取りまとめる業務に10年近く携わり、昨年から現在の部署に異動。柔軟な運転期間の設定の導入に向けて、ATENAのWGに積極的に参加している。

15カ月運転は国内で過去にも議論があった。その後、東日本大震災があり、いまだ前例がない。新規制基準などに盛り込まれた項目などを含め、技術的に問題ないか、あらためて確認する必要がある。赤澤さんは関電内での技術的検討の総括を務める。
原子力が長期間停止する中、美浜3号機の再稼働に向けて担当した仕事が印象に残っている。

常に求められたのは「技術的に要求される機能・性能が発揮できるか、対外的に説明できる内容になっているか」。全ての設備に対し、漏れがないかチェックする作業がひたすら続いたが、大きな経験になったと振り返る。
「本当か、それだけか。常に問い続ける」。かつての上司の言葉が記憶に焼き付いている。その事象は本当にそうなのか――。常に自問自答しながら仕事に取り組む姿勢を大切にする。

社員インタビュー②「様々な制約 最適求めて」

原子力事業本部 原子力発電部門発電グループ 岡田卓也

原子力事業本部 原子力発電部門発電グループ 岡田卓也

運転計画策定業務を担う。「いつ動かし、どのタイミングで定検に入るか」。電力の高需要期に当たる夏と冬の定検を避けるほか、異なるプラントで同じ作業が集中しないよう人員のやりくりも工夫する。様々な制約がある中、発電電力量を最大化できるための方策に知恵を絞り、運転計画を作ることが最大のミッションだ。

2012年に入社。高浜発電所で運転員を1年経験し、その後、放射線管理課の化学係を長く歩んできた。冷却水やガスを適宜サンプリングし、装置を使って分析。管理値から逸脱していないか日々、目を光らせた。

放射線管理課時代には高浜3、4号機の許認可対応の応援も経験。「当社の再稼働のトップバッターでかなり手探り感があった」。何が正解か分からない中、昼夜を問わず仕事をこなした。高浜3号機の原子炉が起動し、所内放送が流れた時は「しんどかったけど、やってきたことが報われた」と胸をなで下ろした。

定検の効率化も担う。「効率化は安全最優先を大前提に工程を最適化すること」。準備が十分にできなかったり、メンテナンスが不十分になってしまわないよう発電所と連携し、安全に影響がないか肝に銘じて仕事に取り組んでいる。

原子力由来の水素製造―利用まで追跡実証、福井で

政府はエネルギー転換の重要技術に原子力を位置付ける。軽水炉の電力などを活用して水素を製造。産業利用を促して、電化が困難な分野などの化石燃料脱却を進める方針だ。50年カーボンニュートラル宣言以降、水素・アンモニアの活用がクローズアップされたが、大量導入には化石燃料と同様に資源国からの輸入が必要となる。価格だけでなく、エネルギー安全保障の観点からも、国内での一定程度の水素製造が欠かせない。

そのような中、関電では全国に先駆けた取り組みとして、7基が立地する福井県嶺南地域で原子力由来の水素を製造し、利用されるまでのトラッキング(追跡)の実証を今年12月から開始する。東芝エネルギーシステムズが敦賀市に設置したオンサイト再エネ水素インフラシステム「H2One(エイチツーワン)マルチステーション」と連携。海外事例を見ると原子炉の近くに水素製造プラントを設けるものが多く、系統をまたいで製造を実証する試みは珍しい取り組みだ。製造した水素は燃料電池車(FCV)4台の燃料として利用される。

H2Oneマルチステーションには関電の原子力で発電した電気を供給する。それを用いて電気分解し、水素をつくる。一方、利用段階では電気分解にどの発電方法を活用したかは分からない。そこで鍵を握るのがトラッキング技術だ。関電が開発した再エネのトラッキングシステムを改修し、電気・水素それぞれの流れを可視化する。

21年度は嶺南VPP(仮想発電所)実証の一環として再エネ由来のCOフリー電源を特定するトラッキングを行った。この成果を水素に応用し、22年度は100%原子力由来のクリーンな水素をつくる予定だ。

原子力水素については、25年の大阪・関西万博で一部の実現が期待されている。将来的には軽水炉を活用できる電気分解に加え、新型炉を念頭に置いた熱分解も期待されている。

(10月31日付 電気新聞より転載)

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