関西電力ゼロカーボン特集① エネルギー・環境企画室
ゼロカーボン特集
2022.8.31

関西電力ゼロカーボン特集① エネルギー・環境企画室

関西電力グループは今年3月、「ゼロカーボンビジョン2050」の達成に向けたロードマップを策定した。2050年温室効果ガス排出の実質ゼロや、国が掲げる30年の二酸化炭素(CO2)排出削減目標を踏まえ、様々な施策を講じる。それらゼロカーボン化への取り組みを6回のシリーズ特集として紹介。第1回はビジョンとロードマップの特色とともに、それらの取りまとめ役を担ったエネルギー・環境企画室のキーパーソン2人に焦点を当てる。

ゼロカーボンビジョン2050で示す将来像

関電グループは50年までに事業活動に伴うCO2排出を全体としてゼロにする目標を盛り込んだ「ゼロカーボンビジョン2050」を21年2月に取りまとめた。ビジョンはエネルギーの需要と供給の両面でのゼロカーボンに向けた方向性や水素社会への挑戦を示した3本の柱で構成する。

ビジョンの前提として想定する50年のエネルギーシステムでは、「3D(脱炭素化・分散化・デジタル化)+D(電化)」の進展を見通す。このうち、エネルギーの需要サイドでは電気と水素の利用に集約され、エネルギーシステムは分散化・多様化の様相を見せると分析する。

具体的には分散型の再生可能エネルギー、蓄電池、電気自動車(EV)などの「eモビリティ」の所有・使用が増加し、エネルギーの利用形態と取引の種類が多様化するとともに、自立分散型のマイクログリッドやオフグリッドなど、それぞれの地域に最適な系統が普及すると想定した。

一方、エネルギー供給のゼロカーボン化が不可欠になるとともに、需要サイドでもエネルギーを供給する役割を担う需要家(エネルギー利用者)の存在が重要になると見込む。端的な例として、自身で発電した電気を消費しながら余剰分は売電するような「プロシューマー化」がより進展していると想定する。

それらを踏まえ、ビジョンには供給と需要の両面で顧客のゼロカーボン化を実現する最適なソリューションを提案・提供する立場から、様々な取り組みに挑戦する姿を示す。より具体的な方向性として再エネの最大限導入・主力電源化や原子力エネルギーの最大限活用などに取り組む。さらには家庭・業務部門をはじめ産業、運輸の各部門を含め、全ての部門に向け、「ゼロカーボンソリューションプロバイダー」となる姿勢も打ち出した。

柱の一つである水素社会への挑戦については、特に非化石エネルギーを活用したゼロカーボン水素の製造・輸送・供給に乗り出すとともに、発電用燃料としての使用にも挑戦する。水素のあらゆる可能性を追求するため、関連する研究開発・実証・検討を積極的に実施する。再エネや原子力発電による電気を活用して水素製造に取り組むほか、高温ガス炉などの原子力エネルギーの熱利用を通じた水素製造も視野に入れる。

エネルギー事業者の立場から、関電は水素社会の実現に向けて積極的に関与し他の様々な事業者とも連携。水素サプライチェーンの確立も追求していく構えだ。

ロードマップで具体策を網羅

「ゼロカーボンビジョン2050」で掲げる3つの柱を踏まえ、今年3月に具体策を網羅したロードマップを打ち出した。ロードマップには国が掲げる30年のCO2削減目標(13年度比46%削減)に先駆けて、関電は発電による排出を25年度に13年度比半減(2500万トン以上)をターゲットにした。その後も30年まで削減率でトップランナー水準を維持し、50年のゼロカーボンへとつなげる。

ロードマップの全体像

30年に向けたロードマップには、まず安全最優先を大前提に原子力を最大限活用すると明記。再エネの導入も一層加速させる。40年までに1兆円規模を投資し、洋上風力をはじめ国内で500万キロワットの再エネを新規開発する計画を示した。それらにより再エネの累計開発量で40年に900万キロワット規模を目指す。

火力についても30年頃の水素・アンモニア混焼実現に向けた検討を進めると明記。50年までにはゼロカーボン燃料の専焼を目指す。また、CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)の導入に向けた技術評価の加速や水素も発電用燃料だけでなく、30年以降をめどに様々な用途にも事業を拡大していく。

このうち、水素事業については国を挙げた水素サプライチェーンの確立に貢献するため、国内で数多くの事業化可能性調査(FS)に参画している。水素事業の具体化に当たって関電には天然ガスなどを扱ってきた技術や設備的な強みがあり、水素を発電所で使うなど需要側でも貢献できる。水力をはじめとする再エネや原子力などクリーンな電源でクリーンな水素をつくるという手法もある。これらの強みを生かし、関西エリアでの水素サプライチェーン確立に向けて、他社と協業しながらファーストムーバー(先行者)を目指す。

顧客に販売する電気の排出係数についても、トップランナー水準を目指す。社会全体のCO2削減に対して、①省エネ②電化③創エネ④オフセット――に関するサービスの提供を通じて、30年度までに700万トン以上の削減を目指す。これは関西エリア全体で想定する削減量の3割に相当する規模だ。

運輸分野では車両導入と併せて、充電インフラや各種EMS(エネルギー管理システム)などもワンパッケージで提供することで、顧客と社会のゼロカーボンを実現する。関電グループで保有する5千台超の車両については、30年をめどに全て電動化する。

社員インタビュー①

エネルギー環境・企画室 大崎芳樹

エネルギー環境・企画室 大崎芳樹

関電は全社を挙げてゼロカーボンへの取り組みを推進するため、社内に「ゼロカーボン委員会」を設置している。森望社長を委員長に中期経営計画で中核に据えるエネルギー、送配電、情報通信、生活・ビジネスソリューションそれぞれの事業分野の役員で構成。関電グループのゼロカーボンに関する取り組みを統括・推進する役割を担う。

エネルギー・環境企画室エネルギー企画グループマネジャーの大崎芳樹氏は、同委員会の運営を担当している。ロードマップではゼロカーボン社会の実現に向けて、50年のゴールを目指す中間地点として、30年度の目標を掲げている。その達成に向けて、大崎氏は「まずはロードマップで掲げた施策を着実に進めていくことが大事。また、委員会での活発な議論を通じて目標達成に向けた道筋をさらに具体化することで、当社グループのゼロカーボン達成に向けた取り組みを牽引していきたい。」と意欲を示す。

大崎氏自身は05年に入社。和歌山営業所(当時)でのリビング営業を振り出しに、姫路第二火力建設所事務課の経理係や調達本部、経営企画室原子力安全推進グループなどを歴任。顧客対応の現場から管理間接、経営企画などの各部門で培った経験も生かし、ゼロカーボンの実現に貢献していく。

社員インタビュー②

エネルギー環境・企画室 松尾光太郎

エネルギー環境・企画室 松尾光太郎

20年4月に入社し、エネルギー環境・企画室エネルギー企画グループに配属された松尾光太郎氏。エネルギー事業の収支管理業務を手掛け、21年10月頃からはロードマップ策定の実務を担当した。
エネルギー事業に関わる各部門からは30年、50年に向けた施策や数値目標が示される中、実効性に加え「S+3E」といった視点を重視。社外の人々にも分かりやすい筋の通ったロードマップにする必要があった。経営層の議論も踏まえ、松尾氏たちは「分かりやすい文章で示すことに加え、どういった図表をどのように示すかなど見せ方の工夫や表現の検討も相当重ねた」という。策定・公表後は社外からの関心も高まり、ロードマップの解説などで株主や投資家、メディアへの対応に当たることもある。

今後もゼロカーボンに関する新技術や政策が生まれる可能性は高く、それに呼応して社会も大きく変貌していく。30年、50年といった将来の目標達成に向けて、より実効性の高い施策は何かを念頭に進捗を管理するのが自身に課せられたミッションと言い切る。その上で「技術・政策動向の変化をタイムリーに反映できるよう常にアンテナを高くし、実務にも生かしていきたい」と力を込めた。

(8月30日付 電気新聞より転載)

YOU'S TOPへ戻る