臨界から62年、熱い思いを継承し研究用原子炉を守り続ける 近畿大学原子力研究所
ACTIVE KANSAI
2023.2.15

臨界から62年、熱い思いを継承し研究用原子炉を守り続ける 近畿大学原子力研究所

原子炉の開発研究や、放射線を使った実験を行う研究用原子炉。かつては東京大学や東京都市大学などにも設置されていたが、現在原子炉を保有する大学は近畿大学と京都大学だけだ。近畿大学原子力研究所・若林源一郎教授に近大原子炉の特徴や人材育成への思いを聞いた。

近畿大学原子炉の特徴は?

近畿大学の原子炉「UTR-KINKI」は、1961年に、日本での大学原子炉第1号として運転開始。アメリカ製の教育研究用原子炉で、熱出力が1Wと日本で最も小さい原子炉だ。熱出力が小さいので、圧力容器や冷却装置も必要ない。放出する放射線量がわずかで、汚染や被曝の恐れが少ないので、炉心への接近や燃料操作が容易にできる。安全性が高いので、原子力や放射線研究を専門とする学生だけでなく、小・中・高の理科教員や一般の人を対象にした研修会等でも広く活用されている。

原子炉設置の経緯は?

戦後日本の高度経済成長時代、将来原子力が重要なエネルギー資源になると考え、初代総長・世耕弘一が原子炉導入を決意。投資額の膨大さから、大学経営にも大きな影響を与えるという反対の声もあったが、原子力技術者を育てるという強い思いで学内設置へ動いた。
原子炉の維持には年間約2億円の経費がかかり、大学最大の不採算施設。それでも維持できているのは、初代総長の志を受け継ぐ、大学のバックアップがあってこそ。近大生だけでなく、学内に原子炉がない他大学や高専生にも実習の場を提供しており、原子力教育・研究の重要な拠点になっている。

福島第一原子力発電所事故を受けてできた新規制基準への対応は?

新規制基準は発電用原子炉だけでなく、我々のような1Wの研究炉も対応が必要で、2014年から運転を停止し、安全審査への対応や設備増設等を実施した。限られた人員で、研究、授業、研究炉の管理などを行いながら対応。申請作業に関する経験も乏しく、思いのほか時間がかかり、停止中の3年間は韓国・慶熙(キョンヒ)大学校の教育用原子炉を借り実習を行った。各界の協力も得て2017年に無事審査に合格、運転再開を果たすことができた。

原子力人材育成の必要性をどう捉えている?

一般的には、原子力というと発電利用の印象が強いが、原子力は医療・宇宙・産業分野と活用範囲が非常に広い。注射針はガンマ線で滅菌しているし、がん治療にも使われている。パソコンやスマートフォンに組み込まれた半導体も製造過程で放射線による加工が施されてる。原子力は科学インフラとして我々の生活を支えており、科学技術先進国として原子力のエキスパート人材は必要だ。

一方で放射線=怖いというイメージも。理解促進についてどう考えている?

100%の安全、危険はなく、科学的な知見をもとに正しく理解することが重要。近大では、1987年から理科教員を対象とした原子炉実験研修会を行っており、原子炉の運転や放射線実験などを体験してもらっている。

原子力人材育成に向けた抱負を!

原子力施設を新設するにも廃止するにも、原子力を知る技術者が必要。また、原子力利用のすそ野は広く、放射線の基礎、原子炉物理学の基礎を学んだ人材は、医療や産業の発展に不可欠だ。
工学分野は実物を触り、実習で勘所を磨くことが何より大切。研究炉を長期に活用できるよう維持・管理し、研究者や技術者の育成に尽力していく。

若林源一郎
若林源一郎
近畿大学 原子力研究所教授
1970年生まれ。九州大学大学院工学研究科博士課程修了。専門は放射線工学。九州大学助教、近畿大学准教授を経て、2020年より現職。
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