コラム|強いチームの真髄【赤星憲広】
余話一話
2022.5.31

コラム|強いチームの真髄【赤星憲広】

野球はチームスポーツだが、プロ野球選手は個人の成績で年俸が決まる個人事業主でもある。チーム状態が悪いと、ついつい自分さえ結果を出せればいいと考えることも。だが、個の力だけでは勝てないのが野球。一人ひとりが自分の役割を認識し、いざというときは、進塁打やバントで自分がアウトになってもランナーを進める、そんなメンバーがいるチームは強い。

現役時代の僕は盗塁でチームに貢献してきた。盗塁は短距離走のようによーいドンでスタートするものではなく、相手バッテリーに警戒されるなか、配球や投球モーションの癖を読んでいいスタートを切る。簡単ではないが、成功すれば勝利への大きな原動力になる。だから、常に相手を研究し、準備を重ねてきた。

現役時代、球団から盗塁にインセンティブをつけようという話があった。内容を聞くと盗塁成功1つにつきインセンティブがつくというもの。盗塁を成功数だけで測る、この考え方に僕は反対だ。4点差で勝っているときの盗塁と1点差で負けているときの盗塁は価値が全く違う。また、盗塁は失敗すればアウトカウントを増やすうえ、走者を失うという2つのデメリットがある。7割成功しなければ走らないほうがマシ。評価するなら、成功率も考慮しないといけない。そんな話を球団とするなかで、勝ちにつながる盗塁やチームのために犠牲になるプレイが評価されるようになり、選手の意識も変わってきた。

結局、チームプレイの徹底とそれを推奨するしくみ、チーム内での役割を全うするための個の力の強化、どれが欠けても勝てるチームにはなれない。これはどの組織でも同じだろう。僕はプロに入る前、社会人野球チームに所属し、2年間鉄道会社で勤務した。その時の現場研修で駅員を務めたのだが、何も準備せず臨んだ僕は、乗り換え方法1つまともに答えられず、お客さまから「あなた何のためにいるの」と言われる始末。どの組織でも役割を果たすには、勉強や準備が不可欠と痛感した経験だ。

チームでの役割を前提とした個の力の強化、この考え方はコメンテーターや解説者という今の仕事でも大切にしている。それぞれの番組での役割を認識し、活躍するための方法を考え、徹底的に準備する。チームに貢献するためにどうしたらよいか考え続け、より良い番組作りの一翼を担いたい。

赤星憲広
赤星憲広 あかほし のりひろ
1976年愛知県生まれ。亜細亜大卒業後、JR東日本を経て阪神タイガース入団。入団1年目の2001年から5年連続盗塁王。09年に引退後、野球解説者、コメンテーターとしてテレビなどで活躍。
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