プレスリリース

2004年10月19日

大飯発電所3号機の定期検査状況について (原子炉容器上部ふた制御棒駆動装置取付管台からの漏えいの原因と対策)

 

 大飯発電所3号機(加圧水型軽水炉 定格電気出力118万キロワット、定格熱出力342万 3千キロワット)は、平成16年4月20日から第10回定期検査を実施していますが、5月4日、原子炉容器上部ふたの管台70箇所の外観目視点検準備を行っていたところ、制御棒駆動装置取付管台1箇所(No.47)の付け根付近に白い付着物(1次冷却水に含まれるほう酸)を確認しました。ほう酸は当該管台の周囲にのみ認められたことから、当該管台からの漏えいであることが確認されました。
 また、他の管台(69箇所)についても点検を行ったところ、5月5日、温度計取付管台1箇所(No.67)の側面および付け根付近にも、付着物が確認されました。

[平成16年5月6日 お知らせ済]

 その後、制御棒駆動装置取付管台(No.47)の漏えい箇所を特定するため、漏えい経路として考えられる管台および上部ふたと管台との溶接部について、サーマルスリーブを切断して、ヘリウムリークテスト、渦流探傷検査(以下「ECT」)、浸透探傷検査(以下「PT」)、超音波探傷検査(以下「UT」)などの検査を行いました。その結果、へリウムリークテストにおいて、原子炉容器上部ふたと管台との溶接部で漏えいが確認されたことから、当該溶接部についてECTを実施したところ、溶接部の270°付近に有意な信号指示が確認されました。その箇所の手入れ等を行ってPT、スンプで確認したところ浸透指示模様の位置に半径方向の割れが認められ、形状は結晶粒界に沿った直線状の割れであることが確認され、さらに手入れして確認したところ、その割れの長さは長くなり、一部の割れはつながっていることが確認されました。割れの形状としては、結晶粒界に沿った枝分かれした割れが認められました。
  
  以上のことから、制御棒駆動装置取付管台(No.47)での漏えいは溶接金属内での半径方向の割れが貫通し、漏えいに至ったものと推定しました。

 温度計取付管台(No.67)については、ヘリウムリークテスト、管内面よりECT、UT検査を実施しましたが、漏えいや有意な信号指示は認められませんでした。また、点検記録を確認した結果、平成3年の建設試運転時において、上部のシール部で1次冷却水(ほう酸水)が漏えいした事象があり、その漏えいしたほう酸が十分に拭き取られず、漏えい跡が残っていた可能性が高いと推定しました。

[平成16年7月9日 お知らせ済]

 その後、制御棒駆動装置取付管台(No.47)の溶接部の割れについて詳細に調査を行った結果は以下のとおりです。

 

1. No.47管台の割れの発生メカニズムの調査

  溶接部表面を約0.5mm手入れ実施後割れを観察したところ、結晶粒界に沿った比較的直線状の割れが認められました。その後更に約0.5mm(合計約1mm)、引き続き約2mm(合計約3mm)手入れ実施後に観察された割れの特徴として、溶接金属表面よりも内部の方で割れが長く、結晶粒界に沿った割れであることが確認されています。
  このことから、割れの発生は運転中に発生した1次冷却水中の環境下における応力腐食割れ(以下「PWSCC*1」という)あるいは溶接欠陥等の可能性が考えられます。このため、割れの初期発生メカニズム究明のため、以下の調査を実施しました。

 
*1:PWSCC:1次冷却水中の環境下で発生するPWRプラント特有の応力腐食割れ(材料の強度および腐食環境、発生応力の3要素が重なって発生する割れ)

(1)海外事例調査
  米国PWRプラントでの原子炉容器上部ふた管台部からの漏えい事例を調査した結果、米国における同様の事象は、管台母材部あるいは溶接金属部において、PWSCCもしくは、高温割れ等の溶接施工不良を起点として、PWSCCが進展し貫通したものであると推定されていることが確認されました。

(2)当該管台の調査等
 当該管台溶接部の表面仕上げの施工状態を確認した結果、割れが認められた  270°付近では、他の部位と異なりグラインダ仕上げ後のバフ仕上げ*2の跡が認められませんでした。
当該管台溶接部を模擬した試験体を製作し、表面仕上げの施工状態の違いによる表面残留応力への影響を調査した結果、バフ仕上げを行った場合、表面の残留応力は圧縮応力になるが、グラインダ仕上げだけの場合は、ごく表層部に約770MPaと、比較的大きな引張り残留応力が発生することが確認されました。
 当該溶接部の材料である600系ニッケル基合金の材料試験データを調査した結果、1次冷却水中の環境下において、約300MPa程度の引張り残留応力でPWSCCが発生する可能性があることが確認されました。また、バフ仕上げを行わなかった試験体を用いた材料試験を行った結果でも、PWSCCの発生が確認されました。

*2:溶接した後には溶接部表面の手入れ加工(研磨)を実施するが、その際の粗研磨に用いるのがグラインダで、仕上げ研磨として細かな研磨を実施することをバフ仕上げという。

(3)まとめ
  調査の結果、割れの特徴や海外事例調査等から、初期に発生した割れは溶接施工不良等による欠陥の可能性についても否定できないものの、当該管台270°付近において、溶接部の表面仕上げ(バフ仕上げ)が行われていなかったことに起因して、溶接部表面に比較的高い引張り残留応力が発生していたことにより、PWSCCが発生した可能性が高いことが確認されました。


2.No.47管台の割れの進展メカニズムの調査

  管台溶接部内部において、PWSCCの特徴である結晶粒界に沿った枝分かれした形状の割れが認められていることから、大飯3号機の運転環境下において、割れが進展し、貫通に至るかどうかの解析評価を行いました。その結果、初期の割れが生じた状態においては、大飯3号機のプラント運転時間(約10万時間)でも割れが溶接部内部を進展し、貫通に至る可能性があることが確認されました。

 

3. 管台の安全機能に与える影響評価

(1) No.47管台
 管台の安全機能である管台の強度、制御棒挿入性、1次冷却系保有水維持、管台の抜け出しについて、解析、UTの実施により評価した結果、安全機能に影響を与えるものではないと考えられます。

(2) No.47管台以外の管台
 予備用管台(7管台)を除く62管台について、管台内面からUTを実施し、その結果をもとに、管台溶接部の周方向のき裂による管台抜け出しに関する評価を行なった結果、管台が抜け出すことはないと考えられます。


4.推定原因

  管台溶接部において、表面仕上げが不十分であったことに起因して発生したPWSCCを起点として、1次冷却水中の環境下において溶接金属内をPWSCCが進展し、貫通に至ったことにより、漏えいが発生したものと推定されました。なお、初期の割れについては、溶接施工不良等による欠陥の可能性についても否定できません。
 

5.対策

(1)原子炉容器上部ふたの補修等
 ・ 当該管台溶接部について、1次冷却材圧力バウンダリ*3としての健全性を確保するとともに、PWSCCの進展を防止するため、耐食性に優れた690系ニッケル基合金を用いて管台溶接部全表面に溶接補修を実施することとし、そのための工事方法、構造健全性に関して国の安全性確認を受けるため、電気事業法に基づく許認可のための手続きを開始します。
 ・ 大飯3号機については、長期的な信頼性確保および保守性の観点から、次々回定期検査時に、管台部(溶接部および母材部)に耐食性に優れた690系ニッケル基合金を用いた原子炉容器上部ふたに取り替えることとします。また、知見を拡充する観点から、原子炉容器上部ふた取り替え後、管台部をサンプリングし、詳細な調査を行います。

 
*3:原子炉圧力容器や、1次系配管など、事故時に冷却水を高温・高圧に保持するための、圧力を

          保持する器壁や管壁の総称

(2)今後の点検、漏えい監視の強化等
 ・ 原子炉容器上部ふたの取り替えを行うまでの期間、原子炉運転中において、原子炉容器上部ふた管台部からの漏えいを早期検知するための、漏えい監視装置を設置します。
 ・ 次回の定期検査時に、原子炉容器上部ふた管台部全数について、保温材を取り外して外観目視点検を行い、漏えいの有無を確認します。

(3)原子炉容器上部ふた管台部に600系ニッケル基合金を使用している大飯4号機、高浜3号機、高浜4号機の対応
 ・ 現在、定期検査中の大飯4号機および高浜4号機については、管台部全数について外観目視点検を行い、漏えいがないことを確認しました。また高浜3号機については次回定期検査時に、管台部全数の外観目視点検を行い、漏えいの有無を確認します。
  なお、管台部全数の外観目視点検については、当面の間、定期検査毎に実施します。
 ・ 高浜4号機および大飯4号機は今定期検査中に、また高浜3号機については次回定期検査時に、念のため、漏えい監視装置を設置し、漏えい監視の強化を図るとともに、 690系ニッケル基合金を用いた原子炉容器上部ふたへの取り替えを計画します。

(経済産業省によるINESの暫定評価)

基準1
基準2
基準3
評価レベル
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0-
0-


以 上

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