1963年、今から50年以上前に竣工した黒部ダム。
関西電力が社運をかけて挑んだ巨大ダム建設は、当時の金額で513億円の工費がかけられ、延べ1000万人もの人々によって、7年の歳月をかけて造られました。
そして、現在。総貯水量2億m3にもなるアーチダムは、貯められた水を10km下流の黒部川第四発電所に送り、年間約9億kWh(約25万世帯分)もの電気を生み出しています。
この黒部ダムを管理・運転しているのは、少数精鋭の5人。
彼らは黒部ダムのすぐそばに建つ管理所で、係長を含む全員が寝食をともにしながら、ダムが正常に機能するように24時間体制で管理・運転しています。ダム堤体や導水路など主要設備の点検を担当している丸山もその一人。
「毎日の作業は基本的に同じことの積み重ねです」
と丸山が言うように、その作業の多くは地道なもの。 たとえば、ダム内部に水漏れや停電といった異常がないか確認していく作業では、安全のために2人1組で、迷路のように走る点検用の通路「監査廊」に入り、そのほとんどを歩いて巡視点検していきます。
「点検と言っても、単に見ているだけではありません。音や臭いが普段と違うところがないか、五感をフルに使ってチェックしていきます。」
186mと日本一の高さを誇るダムであるだけに、高低差が激しく、確認して回るだけで体力を消耗することも。
「地下にある発電所とダムを結ぶ水圧鉄管を点検するときには、約2600段の階段を昇り降りすることもあります。辛いとは感じませんが、作業が終わった後は、足が棒になりますね」
厳しい冬も、猛暑の夏も、気の抜けない毎日
標高3000m級の山々が連なる中部山岳国立公園内に建つ黒部ダムは、冬には観光ルートが閉ざされ、一般の観光客は足を踏み入れることができなくなるほど雪深い地域。最低気温がマイナス20℃にもなり、ダム管理にとっては厳しい季節となります。
「寒さで機械が凍りつくことがあるので、普段より頻繁かつ慎重にダムの状態を見て回ります。
一方で夏も、特に猛暑となると気が抜けません。常に100%の力が出せるよう、設備に異常や些細な変化がないか、注意する必要がありますから」
奇しくも、黒部ダムの竣工と同じ1963年に生まれたという丸山。小学生の時に教科書で読んだダムで、今、働いていると思うと、感慨深いと言います。
「働いていて感じるのは、あらゆる部分に工夫が凝らしてあって、本当に素晴らしいダムだということ。先人たちに頭の下がる思いですし、その偉業を自分の手で少しでも支えていきたいですね」