一意専心~関西電力の安全DNA~
一人ひとりの「安全ヘの想い」
原子力研修センター(おおい)
シミュレータ講師 市原
1986年に入社。その後30年間、大飯発電所の発電室で運転業務に従事。2018年6月から原子力研修センター(おおい)に配属となり、現在はシミュレータ講師として、原子力発電所で働く運転員の技術力向上に尽力している。
異常を示す警報が大きく鳴り響き、中央制御室の空気が一変した。
当直員「冷却ポンプで異常発生です!」
当直課長「予備に切替えろ!」
直後、暗闇が制御室内を包み込む。
当直員「さきほどの地震で外部電源喪失しました」
当直課長「非常用電源は!」
―――当直員「正常に起動しました!」
非常用ディーゼル発電機が起動し、室内は明るさを取戻す。
矢継ぎ早に飛び交う指示と確認作業。
原子炉は安全に停止した。
原子力研修センター(おおい)では、こうした本番さながらの緊張感溢れる訓練を日々行っている。
運転操作は常に100点満点が当たり前
時に想定外とも思える状況に置かれ、瞬間瞬間で市原から投げかけられる厳しい状況に対応するため、中央制御室内では運転員たちの盛んなやり取りが続く。
市原は、鋭い眼差しでそれを見つめていた。
「実際の運転においては、自然災害や事故など、想定外の事象が起きた時に臨機応変な対応が求められることを考えれば、平常時運転のシミュレーションに加え、過酷な状況をシミュレーションすることによって、どんな状況にも対応できる本物の判断力・技術力を運転員に身につけてもらうことが大切です。発電所で働く者にとって、『運転操作は常に100点満点が当たり前』という言葉はスタートであり、ゴールでもあるのです。もちろん、この『当たり前』を実現するのは並大抵のことではありません。だからこそ、ここでの訓練を通して、運転員が常に『当たり前』を実現し続けられるように、私自身が彼らに対して本気でぶつかっていっています。」
原子力発電所の安全を支える”ひと”を育てる場所
原子力研修センター(おおい)には、高浜発電所と大飯発電所の中央制御室をモデルとした2種類のシミュレータ設備が設置されており、このシミュレータを使って、軽微な機器故障から重大事故まで、さまざまな事象を模擬した訓練を行うことができる。実際の訓練時には、室内の照明が減光・消灯するなど、本番さながらの緊張感だ。
「ここは原子力発電所の安全を支える”ひと”を育てる場所だ」と市原は言う。
「ここでは若手からベテランまで、様々な運転員が訓練を行います。当たり前のことですが、一人ひとり考え方や感じ方が違うため、教え方も人によって変えるようにしています。
例えば、若手の運転員の特徴の1つは、マニュアルや教育が充足していることで、逆に、自分で何かを調べたり学んだりすることが少ない点です。そこをどうやって高めていくか。指導の際には、あえて疑問を投げかけて、自分でしっかりと考えて答えを導き出す努力をしてもらうように心がけています。
そうした中で、訓練を受けた運転員から『これまで理解できていなかったところがよくわかりました』という言葉を聞けた時は、講師としてのやりがいとともに、人材育成の現場に立っていることを改めて強く実感します。」
原子力研修センター(おおい)
自分にしかできない役割を全うすること
市原自身、約30年間、大飯発電所での運転業務に従事した。
その経験があるからこそ、できることは何かを市原は自分に問いかける。
「運転員の技術力向上に向けて、自分が持っている技能やスキル、時にはその想いを伝えていくのが私の役割です。その中で運転員の『当たり前』に気づきを与える事で、自分の『当たり前』を常に見つめなおしてもらうことも重要な役割の1つだと感じています。
例えば、運転マニュアルで定められている手順は、発電所ごとの設備による違いがあるのですが、運転員は担当する発電所以外のマニュアルに触れる機会が少ないため、その違いに気付くことはほとんどありません。
しかし、講師は全ての発電所のマニュアルに目を通すため、そのような違いを知ることができるのです。手順の違いが設備の違いによるものだということを理解していると、欠かしてはならない手順と臨機応変に対応できる手順がわかるようになります。何が起きるかわからない状況下ではこうした判断が問われる場面も出てきますから、このような違いについても、私自身の発電所での運転経験を踏まえて、それぞれの運転員と話し合い、時にはより効率的で安全な手順に改正することもあります。
講師だからこそ、見つけられる「気づき」があります。このような「気づき」を共有しながら、原子力発電所の安全・安定運転の向上に繋げていきたいと考えています。
」
大飯発電所
市原のコンダクトカード
発電所にとって運転員は『最後の砦』
訓練の最後には、机を囲んで運転員たちとミーティングを行う。訓練の内容を振り返り、手順は正しかったか、もっと的確な対応はできなかったか、チーム全員でしっかりと反省を行う。市原と会話を交わす運転員一人ひとりに、経験と知識に裏付けられた市原への尊敬と信頼が溢れている。だからこそ、市原から褒められた運転員の顔はほころぶ。
そんな市原が大切にしている想いがある。
「運転員にとって何よりも大切なことは発電所を安全に運転し続けていくことです。発電所には、津波や地震に備えた安全対策が講じられていますが、『発電所にとって運転員は最後の砦』であることに変わりはありません。
私はこの言葉のもつ意味を、約30年の運転業務の中で先輩方から叩き込まれました。そして、今の立場になり、先輩方の言葉の深さと重さをより実感しています。次は私がその想いをしっかりと伝えていきたいと思っています。」
どんな時代でも、変わらないもの
原子力発電を取り巻く状況は変化しつつある。廃止措置や40年以降運転など、これらの変化に30年のキャリアを持つ運転員として、講師として市原は――。
「私が長年従事してきた大飯では、すでに1、2号機の廃炉が決定しています。2つのプラントは、設備も恒常的に取り替えられて、きっちりメンテナンスされているので、正直、運転員の立場としてはまだまだ動かせる状態にあると思っていました。長年、自分が運転してきた設備だったので廃炉が決まった時は本当に寂しかったです。
一方で、高浜発電所1、2号機と美浜発電所3号機は40年以降運転に向けて取り組んでいます。
40年以降運転と聞くと、設備は古くても大丈夫なのかと心配される方もいらっしゃると思いますが、それは違います。ほとんどの設備が取り替えられて新しくなっており、安全品質は設備ごとにきっちりと確保しています。つまり、時間の経過も考慮した安全品質が確保されているのです。制御盤も最新のタッチパネル式のものが導入され、運転に必要な様々な情報を画面上に集約して確認できるようになったり、スイッチ操作なども1箇所で手早く確実にできるようになったりと、操作性も格段に向上しています。
これからも運転に携わるみなさんには、サポートセンターでの訓練を活かして、自分たちの愛着のある発電所の安全を長く守っていってほしいです。それを担っているのが発電所の『最後の砦』である運転員です。私の役割は、先輩方から引き継がせてもらったものを次の世代にしっかりと繋げ、バトンを渡していくことだと思っています。」
「発電所にとって運転員は最後の砦」――脈々と受け継がれたその言葉を胸に、市原は今日も原子力発電所の安全を支える”ひと”を育てている。
2018年12月26日掲載