気象予測技術を結集し防災・減災――気象工学研究所
ACTIVE KANSAI
2023.9.29

気象予測技術を結集し防災・減災――気象工学研究所

ゲリラ豪雨や台風など自然災害が頻発した今夏。気象を予測し、防災に貢献する気象工学研究所の取り組みを小久保鉄也社長に訊いた。

気象工学研究所設立の経緯は?

私が関西電力在籍時の1995年に黒部で起きた災害が会社設立のきっかけです。停滞した梅雨前線により黒部川流域を記録的な豪雨が襲い、ダムや発電所の保守点検等に従事する人たちがヘリコプターで救助されるという事態がおきたのです。当時は住民のいないエリアの気象を予測するサービスはなく、得られる範囲の気象情報と経験則を以て判断していましたが、今後同じことを起こさないためにも詳細で高精度な気象予測システムが不可欠と考え、関西電力の起業チャレンジ制度を活用し、2004年に設立しました。

気象工学研究所の事業内容は?

当社の社是は、気象工学を通じて社会の安全・安心に貢献すること。自然現象をコントロールすることはできないが、予測できれば対策を講じることができます。気象予測や観測技術、IT技術等を結集し、異常気象を予測するシステムを京都大学と共同開発しています。

具体的にはどんなシステムなのか?

創業時にリリースし、今でも当社の基盤になっているのが「ハイブリット降雨予測システム」です。降雨予測には、雨雲の動きを観測し予測する「運動学的予測」と大気の状態を予測する「物理的予測」があり、運動学的予測は3時間以内の予測に有効で、物理的予測は6時間以上先の気象を高精度に予測します。両者の得意範囲の間にある3〜6時間は「気象の谷間」といわれ、予測精度が低くなる傾向にあります。ハイブリッド降雨システムでは、2つの予測を融合させ、気象の谷間をカバーし精度の高い降雨予報が可能です。
ハイブリッド降雨システムを応用した、落雷予測システムや降雪予測システムなどもリリースしています。
他には、河川水位をリアルタイムで遠隔監視する河川監視システムを開発。付近の住民に対し迅速な情報提供が可能になり、早期避難などに役立っています。
近年地球温暖化の影響によりゲリラ豪雨など極端な気象現象が増え、冠水や浸水だけでなく時には人的被害を引き起こすことも。水害等をなくすことはできませんが、事前にわかれば逃げることができる。冠水や浸水の可能性を予測し、的確かつ迅速に避難勧告を行えるよう、システムだけでなく、気象予報士による分析サービスも提供し、自治体の方と一緒に防災活動の強化に取り組んでいます。

システム開発や普及させるうえでの苦労は?

当たり前ですが、システムはリリースすれば終わりではありません。コンピュータ予測技術の進化や雨雲を捉えるレーダー技術の進化により今までの気象の常識が変わることもあり改善を怠れば役に立たなくなる。日々、より精度の高いサービスを提供できるよう改善を続けています。
しかし、どんな良いシステムでも、金額に見合うだけの価値があるとわかってもらわなければ導入には至らない。百聞は一見に如かずで、実際に使ってもらい、お客さまの意向をくみ取りブラッシュアップを繰り返す。そんな試行錯誤を重ね普及に努めています。

今後の展望を教えてください。

現在、大阪大学や情報通信研究機構によって、大阪大学吹田キャンパスに設置した最先端の気象レーダー「フェーズドアレイ気象レーダー」を使い、雲の変化を3次元で捉え、線状降水帯の発生メカニズムを探る研究が進んでいます。当社も技術グループ課長の吉田翔さんが中心となりフェーズドアレイ気象レーダーで捉えた観測結果をもとにした気象予測データをリアルタイムに広く一般の方にお知らせする「雨雲どこでもナビ」を構築しました。現在、関西圏において幅広く活用いただいています。
甚大な被害を及ぼす異常気象の兆候を早期に捉え、わかりやすく社会の皆さまにお伝えすることが私たちの使命。今後も防災・減災につながる気象情報を提供し、地域の安全に貢献していきます。

小久保鉄也
小久保鉄也
気象工学研究所
代表取締役(技術士)
吉田 翔
吉田 翔
気象工学研究所
技術グループ課長(理学博士)
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