イノベーターズSTORY no.01 vol.4 気象工学で新たな道を切り開いた小久保鉄也 貫いた「私がやらねば誰がやる」の精神イノベーターズSTORY no.01 vol.4 気象工学で新たな道を切り開いた 小久保鉄也 貫いた「私がやらねば誰がやる」の精神

「第1章 すべては“危機感”から始まった」はこちら

「第2章 “7割の確信”で挑んだ起業チャレンジ」はこちら

「第3章 失敗を恐れて、“何もしないことこそ失敗”」はこちら

最終章 起業家を目指すなら「ラストマン」になれ

ある関西電力社員のチャレンジをきっかけに海外展開

2019年春。
小久保はある中堅社員のチャレンジに心動かされた。

それは、2015年にローンチした日射量短時間予測システム「アポロン」を、オーストラリアで展開したい!と、関西電力の一社員が声をあげたことに始まる。
「アポロン」は関西電力と共同開発して完成させたシステムで、関西圏を中心に高度な気象情報を提供している。

そんな中、2017年に関西電力社内で行われた『かんでんアイデア創出チャレンジ(※3)』にて、「アポロンを海外展開したい!」というアイデアが起案された。発案者の一人である関電のオーストラリアホールディングス(所在地:西豪州パース市)に勤務する片山直樹氏。アイデア創出チャレンジではいいところまで進んだものの、最終的には採択されなかった。

そんなある日、小久保は、片山氏から直接連絡を受けた。
「落ちたけれど、どうしてもやりたい!」と。

「アポロン」は気象衛星ひまわりを使っており、赤道の真上にある。そのためアジア圏や太平洋地域への展開は可能だ。

小久保は片山氏の想いを受け、すぐに会いに行った。
結果、「ぜひやりましょう!」と、まずは片山氏のいるオーストラリアで配信する契約が決まった。
アポロンの海外展開が、熱意ある一社員によって始まったことに、小久保は心から嬉しく思った。

(※3)「事業開発・業務革新の促進」と「文化醸成および能力伸張」をねらいとして2017年度から実施している社内アイデア創出の取り組み。

「アポロン」の資料より
「アポロン」の資料より

誰かの助けになるのであれば成功する

こうして、関西電力グループである強みを活かしながら、着々と事業を拡大している小久保。「アポロン」をローンチした翌2016年には、土砂災害警戒避難を支援するための、雨量情報を提供する「ドシャリスク」をリリースするなど、その勢いは止まらない。

小久保はこの15年を、「ずっと走り続けていた」と改めて振り返る。
止まることなく常にプロペラを回し続けてきたと。
それはもう後ろを振り返れないという覚悟と、“お客様”がいるからこそ成し得えたこと。

当然だが、誰かに褒められるために続けているわけではない。
お客様の困りごとを目の前にして、「だったら自分がやろう!」という内発的動機によるものが大きい。「自分だからこそできることを、この人生を通じてやりたい!」という想いをもって取り組んでいる。

もちろんビジネスだから、利益を上げることは必要不可欠。
しかしお金だけを儲けようと思ってもビジネスは破綻してしまう。

例えば、隣のおばちゃんが植木の手入れで困っているから手伝ってあげると、またその隣のおばちゃんからも、「手伝って」と役に立つことが連鎖していく。
こうやってビジネスになっていくのだと考えている。

だからこそ「周りの困りごとに気づくこと」、これこそビジネスの真髄と考える。
今、世の中には困りごとがごまんとある。それらに気づく力が必要だ。

「本当に困っている人がいて、その人の助けになるのであれば成功する」
小久保は15年間それを信じ、ひたむきに実践し、成果を出してきた。

ラストマンになれ!

小久保は最近、未来の起業家に向けた講演会などで、自身の経験や考えを話す場面がある。
そこで伝えていることのひとつに、「ラストマン」になれるかどうか、というマインドの重要性について、話していることがある。

これは、日立製作所の代表取締役を経て、現在は相談役を勤める川村隆氏の考え方。
本当の経営者というのは、後ろを振り返っても誰もいない中で決断していく必要がある。
副社長や専務などの役員であっても、最終的には「社長に判断を仰ぐ」ことになる。

だから、「本当に自分がラストマンになれるかどうか?」
これが会社を興し、社長として経営をする上で大事な覚悟のひとつ。

それは、新規事業を責任持ってやる上でまさに必要なマインドである。

その先にある、お客様の笑顔を信じて

気象工学研究所は、今年の9月で16年目に突入する。
「気象及び防災の技術をもって社会の安全と安心に貢献する」という姿勢は、「社是」として創業以来ずっと変わっていない。

今後は、その変わらない想いを、もっと大きな社会のインパクトに変えていきたい。
まずは、現在業界4位であることから、第3位を目指したいと考える。

そのためには、自治体、河川管理者、ダム管理者、道路管理者等に対して、更に精度の高いローカル気象情報・防災情報を提供し、安全と安心に貢献していきたい。
また、高度な気象予測技術を用い、再生可能エネルギーの発電量予測システムを構築し、海外なども視野に入れながら、グローバル且つローカルな、“グローカルな展開”を目指していきたい。小久保は大きなビジョンを掲げている。

しかし小久保にとって、もっともっと嬉しい未来がある、それは……。
お客様から「関西には、気象工学研究所があるから気象や防災に関しては安心」、そう言ってもらえる企業を目指すということ。
顧客を大事にする小久保の想い、そして気象工学研究所としての願いでもある。

現在も尚、「社是」そして「社員心得」を共有する仲間達と、新たなサービスのローンチに向けて、準備中である。
その先にある、お客様の笑顔を信じて———。

2019年7月。関西電力のインタビューに答える小久保。
2019年7月。関西電力のインタビューに答える小久保。

エピローグ

「私がやらねば誰がやる」
黒部ダムに感銘を受けたところから土木工学、そして関西電力への道が始まり、
黒部川の水害をきっかけに、自分にしかできないことにチャレンジした小久保。
そして今、気象工学を通じ、世の中の困りごとを解決する事業を次々と展開している。
これまでの支援と自由度を与えてくれた関西電力に感謝しながら。

———きっとこの先。
小久保が黒部ダムで感じたあの胸の高鳴り同様、今度は小久保が生み出したサービスに触れた誰かが、新たな感動を世の中に生み出す日が来るだろう。

もしかしたらその物語はもう、
どこかで始まっているのかもしれない。

企画:関西電力株式会社 イノベーションラボ イノベーション推進グループ
協力:株式会社気象工学研究所
Storyteller:小林こず恵