2022-6-08

一度きりの人生、大胆に踏み出せ!
  • (株)猫舌堂は、関西電力グループの社内ベンチャー制度である「かんでん起業チャレンジ」から、2020年2月に設立された会社。
  • 「生きることは食べること」をコンセプトに、食事に困難を抱える方に向けたサービスとして、オリジナルカトラリー(スプーン・フォーク)等の販売や、同じ悩みを抱える方が集い繋がるコミュニティ運営などに取り組んでいる。
  • 同社の起業にチャレンジした代表の柴田敦巨氏に、商品・サービス開発やコミュニティ運営に込めた想い、起業の面白さや難しさ、今後の展望などを伺った。

PROFILE

柴田 敦巨(しばた あつこ)
株式会社猫舌堂 代表取締役社長

24年間の看護師生活とがん罹患・治療経験を経て、(株)猫舌堂を設立。
プライベートでは、1男1女の母。

“食べるよろこびは、生きるよろこび”~当事者目線で伝えたい~

-猫舌堂の一番のこだわりは?

 柴田 
「食べることに悩み・困難を抱える当事者でなければわからない機能的かつ心情的なことを、カトラリーのデザインに反映して提供したい」というのが猫舌堂の想い、一言でいえば「ピアメイド®」(※)です。医療者が監修した福祉用具として食べやすく機能的なものはたくさんありますが、何か一つの機能に特化し、当事者の視点では使いやすくないものも多いんです。また、心情的にも幼児用のスプーンに見えたり、お洒落ではなかったり、それを使用して誰かと一緒に食事をしたいと思えない、などという声を耳にしていました。
がん治療の後遺症などで“食べること”に困った経験を持つ私たちだからこそ、当事者目線の想いを込め、社会に溶け込むデザインを意識した商品づくりを目指しています。そこから、生きるよろこびを感じられるきっかけにつながればと願っています。
※「同じ境遇の仲間によるデザイン」という意味の同社の造語。

“自分らしく生きること”の大切さ~がん罹患の経験を通じて~

-自身が「がん」に罹患して、どういうことを感じたか。

 柴田 
看護師としてがん治療経過や生活における知識と経験が少しはあると思っていました。患者さんに安心・安全・安楽な看護を提供できるように努めていました。でも実際、自分ががんを経験してみて改めて気付くこともたくさんあり、意識が変わりました。当たり前のことなんですが、「がん患者さん」ではなく「ひと」だということ。私の場合、いつも病気のことを考えて生活するわけでもなく、仕事もするし、家に帰れば母親である。がんになっても生活は続きます。「どれだけ生きるか」よりも「いかに生きるか」と意識するようになりました。その結果「自分らしく生きよう」と思えるようになりました。

2014年12月のがん初発から最初の1年は、周囲から心配や同情をされるのではと、病気のことをなかなか打ち明けられませんでした。私が罹患した「耳下腺がん」は、症例も少なく不安もありました。がんを摘出する手術の際に顔面神経の手術も行なったため、その後遺症で“食べこぼし”をするようになり、家族以外の人との食事を避け、職場でも一人で食事を摂っていました。

そんな中、2016年の春頃、私と同じがんに罹患した方のブログを見つけたんです。「耳下腺がんに負けないぞ」という強気なタイトルでした。最初は怖くて見れなかったけど、とても前向きに情報発信をされている方で、気が付けばいつもチェックするようになりました。東京のがんイベントに参加されるという記事をみて、勇気を出してコメントし、会いにいきました。同じ病気の人と話すのは初めてでした。普段、人には話せなかった生活面での悩みも当事者どうしで話すと、「それな!わかるわかる!」と、まさに共感できる話のオンパレード。心に花が咲き、みるみる力が湧いてくる感覚でした。同じ境遇の人とのつながりが、「生きる力」になる。そこには今まで気づかなかった価値があるのではないか、それが当たり前の世の中になれば、どんな状況の人でも笑顔で暮らせるのではないか。そう思うようになり、そのために「伝えなくては伝わらない」と強く感じました。

起業の面白さと難しさ~ライフワークが仕事に~

-起業のきっかけは?現在の課題は?

 柴田 
こんなこと言うと怒られるかもしれませんが、元々は、起業しようと思っていたわけではありませんでした(笑)。「病院を辞めて小さな喫茶店でも営み、フラッと立ち寄って何気ない話ができる場を作れたらいいな」と考えていました。そんな時、当時の同僚から関電グループの「起業チャレンジ制度」があることを教えてもらい後押しされたんです。「これに応募すれば、会社も知ってくれて情報発信につながるのでは?」と一歩踏み出したのがきっかけです。
「一度きりの人生、大胆に踏み出せ!」と思い至ったところまではよかったのですが、いざ応募となると何が大変なのか分からないくらい大変で、まず応募フォーマットに書いてある用語の意味が分かりませんでした。「セグメント?」「イシュー?」インターネットで調べながら資料作成して、いま思い返しても本当によくやったなと思います。でも、そんな時に助けてくれたのは、私の想いに賛同してくれて、同じような境遇を持つ仲間たちでした。

ユーザーの方に喜んでもらえたこともたくさんあるし、非常にやりがいもあります。一方で、事業としてやっている以上、売上をはじめ課題は山積です。自分がライフワークとしてやりたいと思ったことが仕事になっているから、良くも悪くもプライベートとの垣根が低くなっており、頭と心の切り替えが難しいと感じるときもありますね・・・。

想いを具現化した取組み~一日限定の飲食イベント~

-猫舌堂の取組みとして大きく分けると、ピアメイドな「オリジナル商品づくり・販売」と「当事者同士が話せるきっかけ・場づくり」の2つがある。後者はコロナ禍でオンラインを中心に活動してきたが、リアルな場での初の取組みとして、2022年4月16日(土)、1日限定の飲食スペース「猫舌堂茶寮」を大阪市北区の中津でオープン。その様子を紹介する。

<猫舌堂の運営メンバー>

<お客さまと会話する柴田>

柴田の思い入れがある、ザ・スパイダースの往年の名曲「なんとなくなんとなく」の歌詞にある「なんとなくしあわせ」と感じられる場をつくりたいという想いで実現したこのイベント。東京・愛知・滋賀・和歌山・福岡など全国各地から駆けつけてくださり、開店から閉店まで満席状態が続くほどの大繁盛。「久しぶりに気兼ねなく楽しく食事ができた」「勇気をだして3年ぶりに外出ができた」「口が楽しい」等など、自分らしく心地よい時間をお過ごしいただける素敵な場となり、猫舌堂の想いを具現化した設立2周年感謝イベントとして、自分らしく心地よい時間をお過ごしいただける素敵な場となった。

今後の展望~これまで以上に“人とのつながりを大切に”~

-今後の展望はどう考えているか?

 柴田 
会社の立ち上げから今に至るまで、想いを同じくして頑張ってきた仲間の存在が本当に大きく、今後も“人とのつながり”を大切にしていきたいです。人と人、バリアを作らない関係づくりに務めています。プライベートの繋がりがふとした時にお仕事につながる時もあります。
プライベートと言えば、美味しいものとお酒が大好きです。美味しいと教えてもらったお店は必ず行くようにしているのですが、行く先々で必ずカトラリーをチェックしてしまいます。どこのメーカーのものか、デザイン、食べ心地などなど・・・細かくチェックしたり、「けどやっぱりうちの子が一番かわいいわー」なんて親バカみたいなことを考えたり。まるでカトラリーの魅力にとりつかれたオタクです(笑)。普段何気なく使用される方が多いと思いますが、実は本当に奥深い世界です。猫舌堂の「イイサジー」も見た目や重さ、食べ心地など、職人さんと話し合いを重ねてこだわりをもって製作しています。皆さまにもさまざまなカトラリーを手に取ってみていただきたいなと思いますし、その中でぜひ猫舌堂のものも使ってみていただけたら嬉しいです。

<猫舌堂のオリジナルカトラリー「イイサジー月見桜」を使ってランチ>

(聞き手)
関西電力株式会社 広報室 大西、五十嵐

<参考:(株)猫舌堂ホームページ>

https://nekojitadou.jp/