対談【山地憲治×村尾信尚】気候変動とゼロカーボン化
対談
2021.4.30

対談【山地憲治×村尾信尚】気候変動とゼロカーボン化

短期より長期、個別より集団の利益を考え、白か黒かでなくグレーの濃淡に目配りを

山地 では、持続可能な社会像と実現方策をどう考えるか。私が思い描く社会は、サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合する「ソサエティ5.0」、超スマート社会。私、あれを聞いたとき、いいなと。必要な人に必要なとき、必要なだけモノ・サービスを提供する、究極の省エネ社会です。

村尾 思うに今の社会は、民主主義も市場経済も、長期利益より短期利益、集団利益より個別利益を優先しがち。だけど、持続可能な社会には、短期利益より長期利益、個別利益より集団利益が重要ではないか。
私は以前、財務省にいましたが、日本財政は持続可能じゃない。今の世の中、お札をどんどん刷ればいいような風潮があるが、それでいいのか。財政再建については冷静な議論が必要です。エネルギー分野でも、真実はこうだが、世間の空気の中では言いづらいといったことが、特に原子力にはあるのでは。それを皆さんに納得いただけるよう伝えることが必要。日本はゼロか100か、白か黒かの議論が多いが、真実はグレーの濃淡の中にある。グレーの濃淡という微妙な問題を説明できないと、意図は正しく伝わらない。

山地 そうですね。黒か白かというのはわかりやすくインパクトがある。特に、マスコミはそういう感じですが、大事なのはグレーの部分。グリーン成長戦略も実は移行期が大事。世界で廃止を迫られている石炭火力は、途上国の主力電源。最終的には非化石化するにしても、移行期の取扱いが重要です。

村尾 メディア側から言えば、例えば「NEWS ZERO」という1時間の番組中、私が喋る実質的な時間は平均2〜3分。その時間で、今日1日に起きた日本・世界の森羅万象のうち何を取り上げ、何を言うかとなると、多分に誤解を招きがちな端的な言葉になってしまう。それはテレビの宿命だけど、新聞等で補うルートができていない。温暖化にしても原子力にしても、そのリアルを若い人に伝えるコミュニケーション技術が未熟です。

信頼関係を基盤に公益性と企業性を発揮する

山地 そろそろエネルギー事業者、関西電力への提言をお願いします。

村尾 日本で原子力を進める際、信頼関係の醸成は欠かせない。私も公務員時代に地方自治体で働いたとき、カラ出張による裏金づくりが発覚。私はその処理担当になり、住民の信頼を保つには透明性しかないと痛感した。原子力も、ハードの安全性もさることながら、ソフト・組織の透明性も重要。トラブルがあった時、隠さずオープンにしたほうが、信頼につながる。

山地 私の提言は、電力会社は地域独占の公益事業として、安定供給を使命にしてきたが、電力システム改革が進むなか、「もっとチャレンジしてほしい」ということ。ガス事業をはじめ電力会社が持つデータやネットワーク、地域との関係等の資産を生かせば、多様な社会インフラビジネスを展開できる。公益事業の精神は維持しつつ、公益性と企業性をバランスよく発揮していただきたい。

村尾 地球温暖化など公益的な課題が広がるなか、公益事業者の立場から、ぜひ長期的観点、集団的利益を踏まえて、言いにくいこと、世の中に波紋を投げかけるようなことも、正々堂々と発言してほしいですね。

山地 関西電力は日本の原子力のパイオニア。それだけに、ゼロカーボンに向け、小型炉などにも挑戦してほしい。ありがとうございました。

カーボンニュートラルの広がり
山地憲治
山地憲治 やまじ けんじ
地球環境産業技術研究機構(RITE) 副理事長・研究所長
1950年香川県生まれ。東京大学工学部原子力工学科卒、同大学院工学系研究科博士課程修了。電力中央研究所研究主幹を経て、94年東京大学大学院教授、2010年同大学名誉教授、現職。総合資源エネルギー調査会、産業構造審議会等の委員を歴任。グリーンイノベーション戦略推進会議座長。著書『エネルギー新時代の夜明け』『フクシマのあとさき』など。
https://www.rite.or.jp/about/outline/pdf/yamaji_cv.pdf
村尾信尚
村尾信尚 むらお のぶたか
関西学院大学教授(行財政改革・地方自治・市民活動)
1955年岐阜県生まれ。一橋大学経済学部卒。大蔵省入省、主計局主計官、財務省理財局国債課長、2002年環境省総合環境政策局総務課長、同12月退官。03年より関西学院大学教授。06年~18年「NEWS ZERO」(日本テレビ系列)メインキャスター。著書『B級キャスター』『日本を変えるプランB』など。
https://www.nobutakamurao.com/
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