対談【山地憲治×村尾信尚】気候変動とゼロカーボン化
対談
2021.4.30

対談【山地憲治×村尾信尚】気候変動とゼロカーボン化

ゼロカーボン化へ再エネ偏重のリスク

山地 次に、ゼロカーボン対策の見方・捉え方と課題はどうでしょう。日本のエネルギーの現状を見ると、再エネが非常にハイライトされる一方、同じくCO2を出さない原子力は十分には活用できておらず、バランスを欠く。省エネも必要だし、化石燃料もCO2を大気に出さず回収して地中に埋めるCCS、利用する意味も含むCCUSなど、温暖化対策を行えば使えるわけです。

村尾 出てきたCO2って、100%回収できますか。また、私も植樹をやりましたが、森林によるCO2吸収は有望ですか。

山地 CCSは技術的に可能ですが、100%回収するかは、経済性とのバランスを考える必要がある。石炭火力のCO2を100%回収すると高くつくので、今は90%ほど回収し、10%は大気中に排出している。10%は植林でマイナスすればいい。植林は、世界では膨大な吸収効果が期待できるが、既に国土の約7割が森林の日本では増やすにも限度があり、土地利用で食糧生産とも競合する。これもバランスが要るところです。
温暖化対策はコスト増になるため、嫌がる向きもあるが、ようやく日本でもカーボンプライシング等、CO2削減へ行動変容を促すシグナルを出そうとしており、注目しています。

村尾 日本は既に炭素税的なものが薄くかかっていますよね。

近畿中国森林管理局の資料をもとに作成

山地 石油石炭税などエネルギー課税は随分されており、今回、プライシングを考えるなら、CO2削減に何らかの価値を与え、判断を誘導するしくみにすればいい。私が推奨しているのは、政策策定や経営判断の際に、内部的に設定した炭素価格を判断に用いる内部利用。そうすれば、A案よりもB案の方が環境負荷は小さく安上がりだといった判断に使える。実際の金銭が動かないため、導入のハードルも低い。既にアメリカは政府予算の使い方として炭素の社会的費用(SCC)を制度化しています。

原子力も水素も、選択肢は多様に

近畿中国森林管理局の資料をもとに作成

村尾 日本のエネルギー構成を考えるとき、重要な視点は、「自給率」「気候変動」「原子力の安全性」だと思います。特に自給率はG7各国の中でもかなり低いが、この点に関する認識が甘いのではないか。想定外の災害やコロナ禍を思うと、石油ショックのようなエネルギーの供給停止リスクに備えるべき。化石燃料を輸入に頼る日本で、自給率の点から大きな柱は再エネと原子力。原子力については、私も福島第一原子力発電所に14回行き、事故を繰り返してはいけないと思うものの、今後も選択肢の1つに入れておかないと、打つ手がなくなってしまう。それが私の正直な感想です。

山地 現在は第6次エネルギー基本計画を策定中で、エネルギー政策の基本方針は、S:Safety(安全確保)を前提に、3つのE、Energy Security(エネルギーの安定供給)、Economy(経済性)、Environment(環境保全)。今は気候変動ばかり注目されているが、エネルギー安定供給も大事。ウランを輸入するが燃料加工等、ほとんどを国内で行う「準国産」の原子力と、「純国産」の再エネ。それらがゼロカーボンというギアアップした温暖化対策でバランス良く価値を認められることが肝要です。
原子力は3Eを全て満たしている。安定供給はもちろん経済性もまだまだ競争力があるし、発電時にCO2を出さない。安全面で不安があるのでしょうが、放射線リスクの正しい理解や、諸外国でも脱原子力に動く国ばかりではない事実など、原子力をもっと視野広く評価してほしい。

村尾 福島で被災された方に話を聞き、原子力を持つ怖さは私も重々承知していますが、現実に目を向けて日本のエネルギー事情を考えると、原子力をオプションから外すことはむしろリスクです。

山地 太陽光・風力だけに任せられないのは、天候等に大きく左右される変動電源だから。電気は瞬時瞬時で需給を一致させる必要があり、変動電源の場合、火力発電所等で調整する必要がある。ヨーロッパも同様ですが、ゼロカーボンとなると、調整力のゼロカーボン化が必要になる。そこで期待されるのが蓄電池。社会実装し、産業化まで見据えてイノベーションに取り組めば、大いに期待できます。

村尾 水素も注目されていて、国内でも多様な構想があります。

山地 今回、水素が大々的にエネルギーの世界に入ってこようとしています。カーボンニュートラルへ、政府は「電化」「電気の脱炭素化」「水素」「CO2リサイクル」を推進。今の水素製造は、天然ガスが燃料なので製造過程でCO2を排出する。再エネや原子力由来のカーボンフリー水素をつくるべき。火力では、CCS付き火力に加え、ゼロカーボン燃料(水素・アンモニア等)を使用した火力も開発中です。
ゼロカーボンは大難問だから、選択肢は多様に持つべきです。

CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)
CO2回収・貯留。

CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)
CO2回収・有効利用・貯留。

カーボンプライシング
温室効果ガスの排出量に対して価格づけを行い、削減を目指す政策。

SCC(Social Cost of Carbon)
炭素の社会的費用。米国では火力発電所からのCO2排出削減を目指したクリーンパワー計画を施行したオバマ政権下で制度化された。

第6次エネルギー基本計画
エネルギー政策基本法に基づき、政府が策定する計画。「安全性」「安定供給」「経済効率性の向上」「環境への適合」というエネルギー政策の基本方針に則り、エネルギー政策の基本的な方向性を示すもの。2018年に第5次計画が策定され、現在、第6次計画策定が進んでいる。

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