ルポ|電化の近未来【堺市|産業技術総合研究所 |ダイヘン|篠原 真毅】
ACTIVE KANSAI
2021.12.27

ルポ|電化の近未来【堺市|産業技術総合研究所 |
ダイヘン|篠原 真毅】

2050年脱炭素化を念頭に、より一層進展する電化社会を見据え、関西では新たな技術開発が加速している。各分野で課題解決に挑む関西地域の動きを追った。

堺市|街なかVPPを実証 晴美台エコモデルタウン

晴美台エコモデルタウン

戸建住宅全棟と街の共有部分に太陽光発電を導入

戸建住宅全棟と街の共有部分に太陽光発電を導入
戸建住宅全棟と街の共有部分に太陽光発電を導入

創り出すエネルギーと消費するエネルギーを街全体で差し引きゼロにする「ネット・ゼロ・エネルギー・タウン」。西日本で初めて実現したのが、2013年に街びらきをした「晴美台エコモデルタウン」だ。全65戸に太陽光発電システムと家庭用蓄電池を導入。太陽光による自家発電をベースに、不足する電気は電力会社からの買電で賄っている。HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)を導入し、太陽光による発電状況や電気製品のエネルギー消費量をリアルタイムで見える化。季節によって変動はあるが2017年度には、年間平均で約110%のZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)率を達成している。「晴美台エコモデルタウンで得た結果を生かして再エネと省エネを推進し、堺市全体でZEHの整備に取り組んでいきたい」と、環境局環境都市推進部の濵本正文氏は話す。

現在は、脱炭素社会を見据えた新たな取組みを進めている。今後、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーが増え、火力発電など調整用電源の比率が減ると、電力品質の低下を招くおそれがある。この課題を解決すべく、タウン内の住宅の協力を得て家庭用蓄電池を活用したVPP(仮想発電所)の実証実験が行われた。VPPとは、分散化した電源を高度なエネルギーマネジメント技術で制御し1つの発電所のように機能させる仕組み。関西電力送配電が開発した、家庭用蓄電池を統合制御するシステムの実効性を検証した。今回の実証実験で、一般家庭用の蓄電池が、周波数調整力として使えることを確認しており、調整用電源としての活用が期待されている。

エネルギーを自給するだけでなく、電力の需給調整機能も担い、持続可能な街の可能性を示す「晴美台エコモデルタウン」。今後の街づくりのモデルケースとなりそうだ。

蓄電池を利用したVPP実証実験
蓄電池を利用したVPP実証実験

濵本 正文
濵本 正文
堺市環境局環境都市推進部
https://www.city.sakai.lg.jp/kurashi/gomi/ondanka/harumidaiecomodel/index.html

産業技術総合研究所|2030年を見据えて ここまできた革新型蓄電池

電気自動車(EV)普及のカギとなる革新型蓄電池の開発が進んでいる。革新型蓄電池とは重量エネルギー密度500Wh/kg以上、EVの航続可能距離で500km以上を狙えるもの。リチウム硫黄電池、リチウム空気電池、亜鉛空気電池、フッ化物電池が検討され、有望視されているのがリチウム硫黄電池だ。

リチウム硫黄電池は負極に金属のリチウムを、正極に電解液に溶けやすい硫黄を使用。産業技術総合研究所では新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発で、一般的なリチウム硫黄電池の課題である硫黄成分の溶出を抑える金属多硫化物を開発し、その材料を用いた電池の構築を行った。

「リチウムイオン電池に比べて重量エネルギー密度が高く、大容量の電池をつくることができる。希少金属のコバルトやニッケルを使わないためコストが低減できるメリットもある」と話すのは開発を手がける栄部比夏里・上級主任研究員。

活用はEVだけではない。風力発電や太陽光発電など再生可能エネルギーの電力貯蔵用蓄電池、ドローンや電動飛行機などに搭載する電池としての実用化を見込んでおり、リチウム硫黄電池の開発は基礎研究が終わり、実用化を検討する段階に入っている。電池の寿命が短く、出力不足、硫黄による容器の腐食などクリアすべき課題はあり、まだ時間を要する見込みだが、製品化に向けメーカーでの実用性の確認・検証を予定している。

政府は脱炭素社会に向けて、2030年代半ばまでに国内の新車販売をすべて電動車にする目標を掲げており、革新型蓄電池が実現すれば、長距離走行が可能になり、普及を後押しできる。栄部氏は「技術的な問題を解決し、2030年には大阪-東京間500kmをノンストップで走行する電池を完成させたい」と意気込んでいる。

産総研での研究開発の様子

産総研での研究開発の様子

リチウム硫黄電池

リチウム硫黄電池

栄部 比夏里
栄部 比夏里
産業技術総合研究所
次世代蓄電池研究グループ
上級主任研究員
https://unit.aist.go.jp/riecen/gab/index.html
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