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黒田 勇・関西大学社会学部長;マス・コミュニケーション学専攻教授

2008.02.15
「ステレオタイプの関西イメージを変える」

黒田 勇・関西大学社会学部長;マス・コミュニケーション学専攻教授

黒田 勇  くろだ いさむ
関西大学社会学部長;マス・コミュニケーション学専攻教授(メディア文化社会学)
1951年大阪市生まれ。京都大学教育学部教育社会学卒、同大学院教育学研究科博士課程教育方法学修了。大阪経済大学助教授、教授を経て、99年関西大学教授、2006年より社会学部長。「放送の社会的影響」など研究。著書「ラジオ体操の誕生」、編著「送り手のメディアリテラシー─地域からみた放送の現在」「オフメディア・オンメディア」「ワールドカップのメディア学」など。ゼミのテーマは「大阪(関西)をプロモートする」。毎日放送番組審議委員も務める。


「大阪といえば、たこ焼き・粉もん」「関西人はせっかちで、傍若無人で、品がない」──そんなステレオタイプの関西イメージが世にはびこっている。しかしこれは決して実態ではなく、メディアによってつくられたイメージだ。

日本のテレビ文化は1980年代以降、バラエティ化が進んだ。事実よりも「面白さ」が受ける風潮のなかで、関西の芸人が東京のマーケットに進出し、受け入れられた。多くの芸人が、関西自体を笑いの対象としたこともあって、関西は笑い者にしていい存在として認知されるようになる。そんな暗黙の了解の下、東京で面白がられる関西イメージが形成されていった。

例えば「大阪人はせっかちだから、歩くスピードが速い」という話は、もはや定説のようになっているが、その根拠とされているデータの信頼性は不確かだし、その後さまざまな研究者が行った調査でも、大阪人の歩行速度が格別速いという結果はない。そう表現した方が面白いから、それに見合うデータをもってきているに過ぎない。また十数年前、大阪の駅に、小銭を一度に何枚も入れられる券売機が日本で初めて設置されたとき、「大阪人はせっかちだから」そんな機械が登場したと言われた。「大阪はモノづくりの盛んな街だから」「進取の気性に富んでいるから」といった解釈もできるのに、それでは面白くないから、そういった説明はなされない。

それでも、ひと昔前までは、東京のメディアが描く関西に対して「こんなのは本当の関西じゃない」と反発する学生が多かった。しかし今の若者は「これが関西・大阪やん」と自分の姿を自分で見ずに、メディアを通して見るようになり、若い関西人の間に、つくられた関西イメージが定着してしまっている。

こうした一面的なイメージ形成は、主として東京のメディアが行ったが、残念なことに関西のメディアもそれを受け入れ、ステレオタイプイメージを増幅させていった。東京が期待する「関西イメージ」にあわせた方が売れるからだ。

しかし、この「つくられた関西イメージ」が、今度は逆に関西、大阪のイメージを悪化させ、都市のブランド力を低下させるという悪循環に陥っている。例えば企業の大阪離れ。もちろん他の要因もあってのことだが、大阪から東京に本社を移した企業は枚挙にいとまがないし、大阪を拠点とする企業も、あえてそれを前面に出そうとはしない。つくられた関西イメージに安易に便乗してきた結果、本来の関西や大阪とは違うイメージが増殖し、気づいたときには、実態とかけ離れたイメージに逆に支配されることになってしまった。

ステレオタイプの関西イメージから脱却するために、何をすべきか――それにはまず、「たこ焼き・よしもと・タイガース」から一度離れてみることだ。もちろんこれらが悪いわけではないし、私自身タイガースファンだが、私の子供時代、大阪には南海ファンが多かったし、西鉄や巨人ファンもいて、阪神は4番目。つまり大阪もかつては「単色」ではなかった。当時(1960年代)、大阪を舞台にした映画では、大阪は人々が憧れる大都会。多様な人がいて、さまざまな文化や食べ物、スポーツチームがある大都会だった。そもそも大都会は単一のものでは語れない。今大阪は自らステレオタイプで語ろうとしているが、探せば面白い資源がたくさん隠れている。「単色」の見方をやめて、もっとそれらを発掘していけばいい。

探せばみつかる資源──例えば、意外と知られていないのが「上方舞」。東京の歌舞伎の流派を源とした動きの派手な舞と異なり、能を源とする上方舞は小さな動きで微妙な心の揺れを表現する。せっかちで品がないという関西イメージとは対極の格調高い舞。文楽や上方落語に加えて上方舞も関西の貴重な資源だ。こうした文化もあることを多くの人に知ってほしい。

あるいは「夕陽」。私が数年前から考えていることに、「世界一夕陽の美しい街・大阪」というキャンペーンがある。神戸方面から見ると、キラキラと夕陽に輝く大阪の街はとても美しいし、何より大阪には夕陽丘という場所があり、夕陽を拝み極楽浄土を祈る「日想観」も昔からある。こうしてみると、「夕陽」も大きな大阪の資源。リスボン、ピサ、マニラなど、西向きの湾を持つ大都市を集めて「夕陽サミット」を開催できないかと考えている。

本当の関西はこうだとか、古くからの大阪はこうだということにこだわる必要はない。しかし、関西の伝統や古典についての知識を持っておくことは必要だ。自分たちの文化のバックボーンをきちんと知り、何かの機会に表現できることが大切。それは例えば上方落語や文楽、近松や西鶴だったり、大阪フィルハーモニーに代表されるクラシック音楽もある。そういう豊かな関西の文化のなかに、よしもとのお笑いもある。そういうことを知っておいてほしい。

都市のブランディングの上でも、歴史や古典を上手に取り入れ、その力を借りることは効果的だ。古典で関西を支える発想で、古いものと新しいものを結びつけていくとよい。また、自らの文化を知るには教育やメディアも必要だが、とくにローカルメディアの役割は大きい。埋もれた資源を発掘し、単一でない、関西のいろいろな面を伝えていくことは、文化産業の使命だろう。

長年にわたる「選択的認知」の結果、今の関西は、いわば生活習慣病の状態。ゆっくり体質改善していくしか手はない。これまでのように東京のマーケット、目先の利益だけを見て動くのではなく、じっくり時間をかけて文化的投資をしていく──この数十年の間に捨ててしまった資源を、一つひとつ丹念に掘り起こす作業が求められている。

決して古い関西を守れということではない。もっと自由に変われるはずなのに、東京の期待のまま、古いままに置かれている関西からは、新しいものは生まれない。変化こそが街の活力を生む。自らがステレオタイプのイメージを脱し、多様な関西に眼を向けること。それが、未来の関西イメージをつくるカギだ。 ■


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