Insight時代を解くキーワード Presented by 関西電力
| HOME | このサイトについて | メルマガサンプル | 談話室 | 配信申込・解除 | お問い合わせ・ご意見 |
関西電力HPへ
Main Column Break Close up エナジー News Clip 関西電力 講堂(イベント/セミナー)
 

Main Column
 

姫野 勉・大阪大学大学院国際公共政策研究科教授

2007.10.15
「道を切り開く交渉──『関西風』で国際交渉にいかに勝つか」

姫野 勉・大阪大学大学院国際公共政策研究科教授

姫野 勉  ひめの つとむ
大阪大学大学院国際公共政策研究科教授(国際関係論・国際経済交渉論)
1957年東大阪市生まれ。大阪大学法学部卒。1980年外務省入省。外務本省(アジア局、北米局、経済局、領事移住部、欧州局)、在イギリス大使館、在アメリカ大使館、在シンガポール大使館などで勤務。外交官として日米間の貿易交渉、WTOなどの外交交渉に携わる。2001年、外国メディアに対応する内閣官房副広報官を務める。2006年9月より現職。2年間、外務省を離れて母校で教鞭をとる。


http://www.dma.jim.osaka-u.ac.jp/kg-portal/aspi/RX0011D.asp?UNO=15221&page=

「日本人は交渉下手」、よく言われることである。私自身は、日本人の交渉術が他国に比べさほど劣るとは思わないが、なぜそう言われるのか、外交官として国際交渉に携わってきた経験から考えると、思い当たる要素が5つある。

1つは、特に多国間交渉の場合、全体を見渡したうえでの議論の流れをつくれていない。国内に向けては「言いたいことは言ってきた」と誇示してみせても、実際は日本の主張は自分の事情を述べたに留まり、全体の議論の中では強い印象を与えていないことが多い。

第2に、日本は「最後はNOと言わない」と思われている。例えば中国やフランス、ロシア、インドといった国は、会議がデッドロックに乗り上げてもNOを貫くことがあるが、日本は「どうせ最後には折れる」と思われがち。つまりは甘く見られている。

第3に、仲間がいない。世界には途上国の仲間意識や宗教的つながり、あるいはヨーロッパのEUといった連帯意識の強い仲間──よほどの事情がない限り応援するよ、というグループがいくつかあるが、日本にはそれがない。例えば日本がアジアの一員と言ったところで、日本の主張にアジア諸国が諸手をあげて賛同してくれるわけではない。

第4に、効果的な提案をタイミング良くできない。自らの部内でのコンセンサスをとってからと思っているうちに、国際舞台では議論が進み、タイミングを逸してしまう。

最後に語学力の問題で、言いたいことが伝わらない――以上の5点が挙げられる。もちろんこれらは日本に限った話ではないし、日本人の長所の裏返しの部分もあるが、こうした点で「交渉下手」と思われているのも事実だ。

国際社会での日本は、黙っていても「次、どうしましょう」とまわりが聞きにくるほどの存在ではない。それでも私が外務省に入った1980年は、日本にとっての黄金期が始まった年。それ以前の先輩たちの時代には日本が世界を動かすことなど考えられなかったが、80年代には、当初は「資金力目当て」だったにせよ、発言力も増し、カンボジア和平交渉などで大きな役割を果たした。

もし90年にバブルが弾けず、経済成長があと10年続いていれば、日本の国際社会での存在感は揺るぎないものになっていたはず。世界は「その時点の日本」を見ているわけではなく、5年先、10年先の日本──当時で言えば「上り調子の日本」に注目していた。バブルがはじけた後は「下り調子の国」と見られ、景気が回復してきた今も、その印象はぬぐえていない。

しかし、今でも日本には大きな実力がある。世界が日本を見る目を上向きに変えていくため、今、改めて交渉で道を切り開いていかなければならない。

交渉とは何か。その基本は、「利害関係の調整」――自分の大事だと思う部分を守りながら、相手も尊重することにある。ただ注意すべきは、「立場」と「利害」は必ずしも一致しないということだ。例えば「地球温暖化防止のために1990年度を基準にCO2削減目標を決めよう」というEUの主張は素晴らしいが、実は90年は東西冷戦が終わり、旧東側の産業近代化が始まり、旧東側を含めたEUのCO2排出量が大きく減りだす年。90年を基準にすればEUは放っておいても削減は進む。表向きの言葉の裏にどのような理由、背景、損得があるのか理解しない限り、交渉などできない。

また利害関係を調整しても議論が行き詰まる場合は「力」の出番となる。力と聞くと軍事力を想像しがちだが、経済力もあれば説得力もあるし、国際ルールを楯にとるのも一種の力の行使だ。

ただ、日本人は概して力の使い方が上手くない。話し合いが不調だからといって圧力をかけることをためらうのは日本人の長所でもあるが、やはり「力は使いよう」。正しいと思うことを進めるとき、力を背景にするのは必ずしも悪いことではないし、どんな素晴らしい主張も力なしには通らない場合もある。賛同するなら援助しようというプラスの力だけでなく、おかしいと思えば粘り強く反対するというマイナスの力もきちんと使わないといけない。

どうも日本人には自分だけが反対して孤立することを恐れる傾向があるが、どうしても譲れないことは最後までNOと言い続けないと、甘く見られ、場合によっては国の品格さえ問われかねない。粘り抜く勇気を持ちながら、孤立しないよう「仲間づくり」を進めるという「合わせ技」が必要となる。

仲間づくりには2種類あり、ひとつは「何があっても日本の味方」という国を世界中に増やしていくこと。もうひとつは、その場その場で仲間をつくる方法だ。同じ主張に見えても微妙に異なる立場をかぎ分け、自分に近い仲間を集める。数を頼って交渉する際、大事な要素は3つ。数と、それぞれの国や人の力、そして団結力。「数×個別の力×団結力」でグループの力が決まってくるわけで、それを考えて自分が大事だと思うことを進めていける舞台設定がまずは必要だ。そして日本が主導する場合、途中で主張を変えると、日本に賛同した国は梯子を外された格好になり、二度と仲間になってくれない。応援しがいがあったと思ってもらえるよう粘り強く交渉すべきだし、一方で、日本に対して不義理をすればマイナスになることを知らせることも必要だ。互いの関係を「当たり前」だと思わない、思わせないよう、きめ細かな対応で仲間を増やし、団結力を上げていく。

こうした交渉術を実践するうえで、強みとなるのが「関西風」だ。例えば関西人は、「形より実をとる」──実質本意、中身を大事にする。どんな交渉でも、自分の言い分が100%通ることなど滅多にないし、当然さまざまな駆け引きもあり、譲歩も必要になる。その際、本当に自分が実現したい中身を重視し、形式や格好など、譲れることは譲っていい。

「人と人との関係を大事にする」のも関西の良さだ。交渉において、相手は何をしたいのか、何がイヤなのか、好奇心と思いやりをもって知ろうとする姿勢は大切だ。自分は形式を気にしなくても相手が気にするなら尊重し、代わりに自分が重視する中身を通し、互いに合意できればどちらもハッピー。そんな利害調整の場面でも、人への好奇心が強い関西人の感性を生かせばいい。

日本は今も世界第2位の経済大国で、優れた技術力も持っている。但し、黙っていては世界の日本を見る目は変わらない。例えば地球温暖化に関しても、日本はかなり環境に貢献しているのに、それが伝わっていない。「この人の言っていることは大事だ」と思わせるためには、「言っている内容が正しい」ことに加え、「伝える力がある」ことが必要だ。国際交渉の場で存在感を増し、主張を実現するには、謙遜の美徳は必要ない。「関西風」の交渉術で、正しいと思うことを胸を張って主張し、元気な日本の姿を示していく。それが21世紀、国際社会で日本が道を開くことにつながる。 ■


関連資料

「日本人と国際化」の周辺

関連図書

「交渉と日本人」を読み解く12冊



Columnカテゴリ検索
政治・外交
経済・経営
社会・生活
文化・文明
科学・技術
電力・エネルギー
関西
サイト内全文検索
最近のMain Column


Insight時代を解くキーワード
Copyright (C) 2002-2008 KEPCO THE KANSAI ELECTRIC POWER CO., INC.