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高石 浩一・京都文教大学人間学部臨床心理学科教授

2007.09.15
「あなたの選択はきっと正しい――希望を処方し、自己選択を促す」

高石 浩一・京都文教大学人間学部臨床心理学科教授

高石 浩一  たかいし こういち
京都文教大学人間学部臨床心理学科教授(臨床心理学)
1959年大阪府生まれ。京都大学大学院教育学研究科博士後期課程単位取得満期退学。京都女子大学学生相談室講師、京都文教大学人間学部助教授を経て、2001年より現職。心理臨床をひきこもり、ナルシシズム、インターネットなどの観点から扱い、カウンセラー・研究者・教育者という「3足のわらじ」で心の問題に取り組む。主な著書「母を支える娘たち――ナルシシズムとマゾヒズムの対象支配」、訳書「個性化とナルシシズム――ユングとコフートの自己の心理学」など。


http://www.kbu.ac.jp/kbu/kyoinshokai/masters/28_takaishi/index.html

カウンセラーとしてさまざまな心の問題に関わってきて、最近は、ひきこもりの人たちのリスタート支援に関わる機会も増えた。不登校からひきこもりになった人たちのなかには、人間関係の中で上手く立ち回るといった社会的な意味での成熟が、ある時点でストップしている印象を受ける人たちがいる。25歳くらいの人でも、ひきこもり始めた中学生ぐらいの純粋さを維持していたりする。その未熟さ・純粋さは彼らの魅力になっているが、同時にある種のはがゆさも感じてしまう。それをずっと維持したままリスタートすることの難しさ、もう一度社会へ入っていくことの壁の高さを感じる。

彼らはいったん不登校を乗り越えて大学に入っても、社会に出ていく前の段階でまた足踏みしてしまうことがある。例えば就職に関して、彼らに限らず学生たちは「自分に合った仕事がない」「自分が何をやりたいのかわからない」とよく言うが、仕事の面白みや向き不向きは、実際にやっているうちにわかるもの。自分に合った仕事を、と言いながら、何もしないままの人も多い。

そんな彼らは、失敗したら取り返しがつかないと思い込んでいるフシがある。それともう一つ、「もっといいものがあるんじゃないか」という迷いも蔓延(まんえん)している。昔に比べて情報が増え、選択肢が増えたような気がするからだろう。ネットで検索すれば知らないことがたくさん出てくるし、自分の知らない理想の相手や、もっといい仕事がどこかにあるような気がしてしまう。かといって一生懸命探すわけでもなく、待ちの姿勢。そんな若者たちからは、生きることへの貪欲さがなかなか感じられない。

古い世代の僕などは、もっと貪欲につかみとりに行こうよ、と思ってしまう。仕事は、とにかく続けているうちに面白さが見つかることもあるし、今活気のある業界も30年後はどうなっているかわからない。だから、リスタートは「とりあえず」でじゅうぶん。就職についても、選ぶ基準は、その瞬間「他よりもちょっと興味がある」という程度でいいのではないか。「何を」選ぶかよりも、「自分で」選んでやってみることのほうが大切だと思う。

しかし今、自分で選ぶ自信がない人があまりに多い。これはひきこもりの人や若者に限ったことではない。「もっと自分に合ったものがあるんじゃないか」と迷いながら、結局決められないという風潮は、世代を超えて広がっている。情報を与えられるばかりで、自分で選んでうまくいったり、逆に失敗したりという体験が減っているからだろう。自分で選べないからマニュアルを欲しがるし、何かが与えられるのを受身で待っている。

そんな風に立ち止まっている人に対しては、「あなたの選択はきっと正しい」とちょっと背中を押し、選ぶ自信を持ってもらうことが必要だと感じている。

ある精神科医が、治療とは「希望を処方する」ことだ、と述べている。カウンセリングの場合も、希望をもってもらうことが治療だと思う。希望というのは「ひょっとしたら、良いことがその先に転がっているかもしれない」という嗅覚。今は皆、その嗅覚に自信がなく、希望を持ちにくい状況だと思う。しかし一歩を踏み出すためには、自分で選択するしかない。そこで僕は、「自分の直感を最大限に研ぎ澄まそう。そうすればきっと正しい選択ができて、新しい一歩を踏み出せるかもしれないよ」という気持ちを伝えようとしている。

ただ、希望を処方するとはいっても、カウンセリングの現場では具体的な方法をアドバイスするわけではない。アドバイスが効を奏しても、本人の自信や希望にはつながらないし、万一失敗すると「先生の言ったとおりやったけどダメだった」となってしまう危険性があるからだ。他人の言うとおりではなく、自分で希望を見つけてもらえるようにするのがカウンセラーの仕事。その過程では、ただひたすら文句や怒りを聞くことも多い。共感しながらひたすら話を聞いているうちに、「自分でなんとかしてみよう」という希望が生まれることも多いからだ。

もちろんカウンセリングに来る人の中には、大きな挫折や失敗をして次の一歩を踏み出せない人もいる。そういう人には「ここより底はない。だから今が一番チャンスかもしれない」という意味のことを伝えることもある。今が一番底だと考えれば、これまでの生き方ややり方を変えていくチャンスとなる。どんな人も、すごくネガティブな状態からポジティブな方向へと変化する可能性を持っている。その可能性を信じ、その人自身が力を得てリスタートすることを支える、それがカウンセラーの仕事だと考えている。

選択することに臆病で、生きることへの貪欲さが感じられない日本の若者を見ていると、このままではいけないと感じる。まさに今、「希望を処方する」ことが必要だと思う。その意味で僕はこれからも、「あなたの選択はきっと正しい」というメッセージを伝えていきたいと思う。 ■


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