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田尻 悟郎・関西大学外国語教育研究機構教授

2007.07.15
「次世代を育てる責任──大人から『伝える』ことの重要性」

田尻 悟郎・関西大学外国語教育研究機構教授

田尻 悟郎  たじり ごろう
関西大学外国語教育研究機構教授
1958年島根県生まれ。島根大学教育学部中学校教員養成課程英語科卒。神戸市、島根県の公立中学校勤務を経て、2007年4月より現職。著書『楽しいフォニックス』『日本の英語教育に必要なこと(共著)』『生徒がぐ〜んと伸びる 英語科自学のシステムマニュアル』『英語総合演習 入門編』『Talk and Talk Book 1〜3』『決定版! 授業で使える英語の歌20』『ビデオ英語授業の実践指導事例集』など。2001年日本の英語教育界の最高の栄誉であるパーマー賞受賞。ニューズウィーク誌(2004.4.28号)「世界のカリスマ教師」の1人に選ばれた。NHK『わくわく授業』『プロフェッショナル』などにも出演。文部科学省委嘱「英語指導力開発ワークショップ事業」ディレクター。


http://gtec.for-students.jp/tajiri/index.htm
http://www.kansai-u.ac.jp/fl/staff/english/22.html

テレビ番組に何度か出演したが、60代の人からの反響が大きい。いつか英語を学び直したかった、私の教え方に興味があるということのほかに、私が授業でやろうとしている「若者を育てる」ことに共感を覚えるという感想が多い。彼らは、次の世代を育てきれなかったことに責任を感じていると言う。

子供はどの時代も、大人がつくった環境の中で育つ。次世代を育てること、躾をすることは大人の役割だ。私はそれを授業の中で実践している。英語は、外国の人と話をするための携帯電話にしかすぎない。日本語では通じないから、英語という道具を使う。その道具で人を傷つけることもできる。だから、道具を正しく使える人間を育てることが大事だ。英語ができるかどうかよりも、子供たちがちゃんとした社会人、地球市民に育つかどうか。それが一番大切だ。

教師というのは他の商売と違い、お客さまが勝手に来てくれる。だから私は、生徒がリピーターになりたいと思うような魅力的な商品(=面白い授業)を用意する。それはプロとして当然のことだが、それだけが仕事ではない。教師がサービス業と異なるのは、次の世代を育てる責務があること。だから礼儀作法も教える。義務教育で躾けられていないから大学で教えるのは無理というのでは、教師としてのプロ意識に欠ける。大学でも躾ける。教育現場は、社会で通用する人間を育てる場でもある。

例えば、「面白い授業を用意するから、わかりたいと思えば予習復習してこい。家庭学習をせずに授業を楽しみたいというのは、お金を持たずに商品をくれと言うのと同じだ」。そういう世の中のルールを教えるのが躾の部分だが、これが今、できていない。「大人は凄い」という意識がないから、子供たちは言うことをきかない。子供が大人に対して尊敬の気持ちを持っていない──それが今の社会の大きな病巣になっている。

1980年代には、マスコミが報道したから教育現場の荒廃が広く知られた。今はマスコミが追いかけていないから実感は薄いかもしれないが、実情はあの頃よりひどくなっているかもしれない。当時は教師と生徒が殴りあうこともあったが、今は教師は手を出さない。子供たちが好き勝手に暴れて、教師は我慢している。当時、「学校なんて、先生なんて」と言っていた世代が今、親になっている。だから親は学校に非協力的になりがちだ。

管理職世代の問題もある。団塊世代の下の世代、40代後半から50代が今、管理職になっているが、この世代は、厳しい上下関係の中で何かを学ぶという経験をあまりしていない。封建的な上下関係より、民主的な自律を大切にした団塊の世代の下、つまり今の管理職の世代は、伝えられたものが少なく、判断に悩んだり、自分に自信を持てないことが多く、感情的な怒りや見て見ぬ振りが横行しがちになる。

叱られた言葉の中に核心を突くものがあり、しまったと思う経験を小さい頃からさせないと、単に叱るだけでは叱られ慣れしてしまい、しみ込まない。会社でも同様。上司にひどく怒られても、核心に触れるものがあれば心に残る。残るもののない叱り方をする上司が増えたのではないか。

学校は社会の縮図。だからまず、親が、特に父親が誇りを持って仕事をし、威厳を持って子供を育てる。かつて農耕社会では、子供は親が働く姿を見ていたが、今は見えにくい。大人が頑張っているのは今も昔も変わらないが、それが伝わっていない。大人がそれに気づき、もっと子供たちに伝えていかなければならない。「大人は子どもたちのために頑張っている」ことが分かってこそ、子どもたちは大人を尊敬する。

そして教育現場では、教師の数を増やすことが必要だ。頑張ろうとしている子に付き添う時間が必要なのに、問題を起こす子への対応に時間をとられる。もっと先生たちが授業で待っている子供たちのところへ戻れるようにしないといけない。問題を起こす子供の心に潤いを与えるのは当然だが、頑張ろうとしている子供の心が潤うように、という発想がまだ足りない。子供たちが、渇いた心のままで大人になれば、この国はますますダメになる。潤いを持った子供が大人になって、次の世代に潤いをもたらすようにしないといけない。

だから今、教師は踏ん張りどころ。確かにしんどいが、ひたすら正義を貫いて身を粉にして働く。その姿を子供が見て、先生が頑張っているのにこれじゃいけないと感じることが教育再生の第一歩。その声が親に伝わり、なんとかしようという協力体制にならない限り、日本の教育は変わらない。

「教師はストーブのようであれ」。島根の中学校に勤めていたとき、退職される先生からもらった言葉だ。ストーブのように温かいが、触ればやけどするくらい熱い心を持っているのが教師だと。最近は、その「熱さ」の部分を大人が持たなくなってしまった。だが、嫌われてもいいから伝えなければいけないこともある。心を鬼にして、自分でもヒヤヒヤしながら演技することもある。パフォーマンスもコミュニケーション、伝えるためには必要だ。

成長を抑えるのは簡単だが、伸ばすには我慢が要る。
例えば学習には、理解→習熟→習得という流れがある。習熟の過程で人は気づき、反省し、悔しい思いもする。日本の英語教育は理解に時間を割きすぎている。習熟するには、たくさん書いたり喋ったり、量をこなさなければならない。それはすべて生徒の作業であるべきなのに、先生が解説をしすぎる。生徒に考えさせることが最も大切だ。子供たち同士が教えあえるような仕掛けや手本を見せたら、先生は引っ込むべき。要所要所でアドバイスを与えるのが良い先生であり、上司だ。試合をするのは選手であって監督ではない。英語も実技だから、たくさん練習して悩んで、乗り越えて上手になっていく。それができたときの感動、面白さはスポーツと同じ。自分の努力で身に付けたものは、簡単には捨てられない。

頑張って乗り越える経験がないと人間は育たない。上の世代の使命は、温かく見守りながら、厳しく突き放して独り立ちさせること。私は厳しいこともよく言うが、子供たちは納得すればちゃんと聞く。感情で怒る大人が増え、冷静な、厳しい愛情が欠けている。説得ではなく「納得」させることが、大人や上司の力量だ。そういう学習者心理をつかんで前向きにやる気にさせれば、先生が引き出す前に、子供たちが自分で知って、喜んで伸びていく。それは会社でも同じこと。厳しく育て、できた事実を見せる。よくやった、助かったよと伝える。それで十分だ。 ■


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