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三橋 俊雄・京都府立大学人間環境学部教授

2007.05.01
「高齢化の中の地域社会──住むことに誇りを持てるふるさとづくり」

三橋 俊雄・京都府立大学人間環境学部教授

三橋 俊雄  みつはし としお
京都府立大学人間環境学部環境デザイン学科教授(プロダクトデザイン/地域計画学)
1949年横浜市生まれ。千葉大学工学部工業意匠学科卒、同大学院自然科学研究科環境科学専攻博士課程修了。GKインダストリアルデザイン研究所、千葉大学講師などを経て97年より現職。「自然共生と内発的地域づくり」「地域の生活文化調査」「伝統産業・地場産業の活性化」「福祉機器・ユニバーサルデザイン」の研究と実践を展開。京都府丹後地域における高齢化・過疎化地域を対象に、地域資源を活用した内発的地域づくりを「エコミュージアム」というテーマで推進するほか、丹後半島の日常生活に今も残るマイナーサブシステンスの自然共生的価値の研究、京都市内の高齢者を対象に「記憶の中の京の暮らし」というテーマで、京都文化の基底をなす生活文化・生活の知恵の調査研究などを実施している。


研究室>> http://cocktail.kpu.ac.jp/ningen/culture/
学外演習>> http://kankyokyoiku.web.infoseek.co.jp/index.html

地域の光をデザインする。
今、地域は、高齢化・過疎化が進み、これまで生き生きと輝いていた光が鈍くなり、埋もれつつある。その光をもう一度掘り起こし、磨き上げ、今日的な生活に見合う形でデザインしていく。

地域社会の現状については悲観的な見方も多いが、私はそうは思わない。私にとって地域は、我々が学ぶべき、生かすべき光がたくさん埋もれている「宝の山」だ。

だから、野に出て生活を学ぶ──教室でなく生活の現場で何をデザインすべきかを探していく。とりわけ地球環境問題が人類の最大課題としてクローズアップされるなか、「環境共生」のモデルを都会で見つけるのは至難の業。これこそは、地域が先生。自然とともにある暮らしの豊かさ、自然共生につながる地域のライフスタイルのあり方などは、地域しか先生になり得ない。

大事なことは「内発的地域づくり」。外から何かを持ってくるより、地域の中に埋もれている光を磨き上げ、住民が主役になってこそ、地域は本来の力を取り戻す。地域に内在する自然的・景観的・生活文化的・産業的・人的資源──豊かな自然や生活の知恵の総体としての生活文化、そしてキラキラ生き生きした人たちのコミュニティ。そういう地域の光を再発見して磨き上げることで、地域を元気にしたい。

そう考えて私は20年来、新潟、福島、青森の農山漁村、10年前からは京都の丹後地域──宮津市の養老地域で8年、昨年からは由良地域で、学生と一緒に地域に学び、地域の光を探し続けている。

そこで言えば「たかが学生、されど学生」。学生の力が、地域を活性化する大きな力になる。学生たちが地域に出向いて新鮮な気持ちで話を聴いて感動する。それが地域の人々にとっては、「自分たちの町や村もたいしたものだ」という自信や誇りにつながる。

学生の新鮮な目で地域を見ると、地域の人が何十年暮らしていても気づかなかった宝物に出会う。「ゼンマイ(薇)飛行機」「田舟」「塩づくり体験」……学生は、教室では得られない「大切なもの」を発見し学び取ってくる。私自身、歴史の中でしかお目にかかれないと思っていた「箱膳」が、まだ山村の食卓でそのままに使われていたり。

よそ者だからこそ発見し、感動して伝えられる。地域の人々にとっては空気みたいな存在の自然や生活文化、共同体の温かさ、それらを価値あるものとして伝えていくことが我々の役目だ。

そんな私が今、注目しているのは「マイナーサブシステンス」。サブシステンスは生業だが、マイナーサブシステンスは、本来の生活を支える仕事ではなく、「遊び仕事」「野遊び」。

我々よそ者が地域に出向いても、生業にはそうそうすぐに触れることはできない。しかし「遊び仕事」はちょうど都会の人と地域の人が触れ合うインターフェイス。しかもそれは単なる遊びではなく、自然を熟知し、自然を守り、適度に自然を利用する場でもあった。

海でのタコ・イカ釣りや野原でのトンボとり、草ずもう、草笛──豊かな自然のなかで、タコの習性やトンボの習性、植物の細やかな変化を熟知しているからこそできる遊びが地域にはある。都会の人と地元の人の交流のステージ、あるいは地域の光を観るエコツーリズムや、地域まるごと博物館としてのエコミュージアムのステージ、それが「マイナーサブシステンス」だ。

私自身は地域との出会いでたくさん感動をさせてもらった。ゆったりした時間の流れと自然と共生する生活文化、羨ましいほどの豊かさだ。それを多くの人々に味わってもらいたい。

しかし、この地域の光は今、消滅の危機に瀕していることもまた事実だ。かつて柳田國男が全国行脚したときは、それぞれの地域に語り部がいて、宝物だらけだった。今や伝統的な生活文化を体現する人は高齢化し、今、話を聴いておかないとその「光」は消えてしまう。

だから必要なのは、架け橋としての「インタープリター」。若い人にとって年寄りの話はほとんど異次元の世界。私も含めた団塊の世代がギリギリ昔の生活と今のIT社会の双方を理解する。自然との共生を心の原風景として持つ団塊の世代こそ、インタープリターとしての役割を、使命感を持って果たして欲しい。

かつてレヴィ=ストロースは、西洋のサイエンスに対し、南の第三世界にこそ野生の科学があると主張した。この木の葉が毒消しの薬になるとか。日本では、例えばジネンジョ。地域の人は季節の風を感じて、この風が吹けばあの山の斜面の地中でジネンジョが育っている、と。最先端のインテリジェントビルでコンピュータを操作している人よりももっと複雑な情報を、ダイナミックに、五感を総動員して、自然と対話しその恵みを知っていた。

そんな豊かさを消えるに任せてしまうのではなく、伝え続けていきたい。しかも現代生活に生かすべく、「デザイン」をして。例えば、柿渋を塗った紙の器、ヤマブドウの蔓で織った籠──昔の人の生活を支えてきたものを、単に民芸品にしてしまうのではなく、現代のライフスタイルにフィットしたかたちでデザインする。工業製品は買ってきたときがピカピカだが、地域の人々がつくり続けてきたものは、最初はガサガサでも使い込むほどに鼈甲色の深い色、価値の高いものになっていく。それが古くさいからと見捨てられる前に、現代的価値を与えて、甦らせる。

民俗学や文化人類学は調べることがゴールだとすると、デザインは調べたあと創造的提案をする。地域の光を調査するのは民俗学の世界。その価値をどう磨き伝えるかというところで、デザインが要る。別の言い方をすれば、地域の問題を発見し解決していく仕事がデザインであり、それこそが地域の光をデザインするということだ。

今、由良では、若者たちが自発的にイベントなどをやり始めた。重要な地域資源の一つである「人」が輝き始めたわけで、そういうことが我々の活動成果だとすれば嬉しい限りだ。

「月影のいたらぬ里はなけれども、ながむる人の心にぞすむ」
月の光は世界をまんべんなく照らすが、それを見た人にだけ月が綺麗だとわかる──この法然上人の歌のように、地域には埋もれた光はごまんとあるが、それを見ようとしない限り、埋もれたまま。だからよそ者が地域に出向き、新鮮な目でその価値を発見する。とりわけ自然共生や伝統的な生活文化の価値も分かる、我々団塊世代の使命は極めて大きい。 ■


関連資料

「宮津市の光をデザインする」

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「地域文化」を読み解く10冊



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