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勝原 裕美子・兵庫県立大学看護学部助教授

2007.02.01
「病院から社会へ──少子高齢時代の看護サービス」

勝原 裕美子・兵庫県立大学看護学部助教授

勝原 裕美子  かつはら ゆみこ
兵庫県立大学看護学部助教授(看護管理学)
同志社大学文学部卒、聖路加看護大学卒、神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。経営学博士。看護師。国立循環器病センター看護部勤務、1994年兵庫県立看護大学助手、講師を経て、2003年兵庫県立大学看護学部助教授。著書「ビー・アサーティブ!」、共著「看護師になるには」「看護サービス管理」「社会の中の看護」、訳書「コード・グリーン─利益重視の病院と看護の崩壊劇」「臨地実習のストラテジー」「ライフサポート」「困難に立ち向かう看護」など。


「看護」という字は、「手」と「目」で「護」る、と書く。
「手」は実際に自分が手をさしのべて支えるというハートと技術(わざ)の部分、「目」は観察したり考えたりという知識の部分で、それでもって「護」る、と。だから優しさだけではダメだし、知識だけあってもハートと技術がないとダメ。

そして看護の基本的な考え方として、すべて手助けするのがいいわけではない。その人の持つ潜在的な力を引き出し、その人が今の自分の身体や生活を受け入れる過程を助けるのが、看護。病気や怪我などから元の状態に戻すのも仕事だが、必ずしも元に戻るとは限らない。そうなった場合でも自分らしく生きていくにはどうすればいいか。高齢化も進むなか、そんな自分とどう向き合い、家族とどう生きていくか、心理的な面も含めて自立を支える看護の力は、もっともっと必要になる。

ところが今、看護サービスは深刻な看護師不足に陥っている。
病院を取り巻く現状で言うと、まず平均在院日数、つまり入院期間が短くなっている。かつては盲腸でも10日や2週間は入院していた。今は2〜3日で退院する。昔は手術後は安静にして傷口が塞がるのを待っていたが、今は機能が衰えないうちに起きあがってもらう。技術進歩もあるし、病院側としては在院日数が短いほど診療報酬は多く得られるから、早くに退院してもらって次の患者さんを入れる方が収益的にはいい。となると、以前はさほど緊急を要さない検査入院の患者さんや術後安定期に入った患者さんもいたが、今は常にケアが必要な患者さんばかり。看護師の負担は重くなる。

そういうなかで、2006年4月、看護サービスの質的向上をめざし、診療報酬の改定が行われ、「10:1」から「7:1」へ──つまり看護師1人が受け持つ入院患者数を10人から7人に減らし、より手厚く看護師を配置すればより多くの診療報酬が得られるようにした。もちろんこれでもまだ少なく、優秀な病院は自らの負担で5:1とか4:1を実践しているが、ともあれ「7:1」の新設は一つの進歩だ。

ただ、それで起きたのが看護師の争奪戦。手厚い看護をさほど必要としない病院まで収入増をめざして看護師増員を図ろうとするので、地域で本当に必要とされている中小病院に看護師が集まらないという問題が起きている。

いつでもどこでも安心して看護サービスを受けられる社会に向けては、看護師のなり手を増やすことが急務であり、それには処遇・待遇を良くしないといけない。人の命を預かる現場で、ずっと立ちっぱなしで、休憩時間も取れず走り回り、夜勤中に休憩がとれないという状況もある。大卒や院卒の看護師も増えているなかで、激務の割に給料が見合わず、疲弊して辞めていく人も多い。

昔は、ナースは良家の子女がボランタリー精神で行うか、あるいは自立した職業婦人という位置づけだったこともあると聞く。そして、医師の8割程度の給料をもらっていた。ところが戦後、看護師不足の早期解消を迫られたとき、准看護師制度ができ、看護師の仕事までもが単純労働の位置づけにされ、看護界全体の給料が徐々に引き下げられた。だけど今、この高度な医療を支えるには相応の学力を要すること、また准看護師制度がある限り看護師全体の待遇が良くならないという2つの点で、准看護師制度を廃止しようというのが、准看護師自身も含めた看護界全体の望みだ。

ところが今のように看護師不足、看護師の争奪戦が激化すると、准看護師を雇わざるを得ないという悪循環。望ましい看護サービスの実現に向けては、働く側も雇う側も今が踏ん張りどころだと思っている。

実は、看護の視点は、社会のどこでも通用する。今、日本で就業看護師は約80万人いて、その97%が医療・保健・福祉施設勤務──雇用されて働いている。だけど看護が病院を飛び出して力を発揮できる場所は、世の中には至るところにある。

私は常々、駅や百貨店にナースステーションをつくろうと言ってきた。それは私が以前、百貨店に勤めていて、百種類のモノを売っているなら看護を売ってもいいと思ったのが一つ。これはかなり実現してきて、日本看護協会が百貨店やスーパー、郵便局など人が集まるところで「まちの保健室」を開設、無料で健康相談を実施している。

これは看護自体を提供するという考え方だが、私はもう一つ、それぞれの商品に看護の付加価値をつけて売るナースアドバイザーみたいなことができればいいと思っている。手の力が弱まった高齢者でも使いやすい包丁とか、腰痛の人も座りやすい椅子とか、看護は生活のあらゆる領域に入っていけるわけで、百貨店はそれが集積された場所。看護の観点から、ひと言添えてさしあげることで、人々の生活をもっともっと豊かにできるのではないか──。

そう思い、私は今、「看護起業家」を育てるしくみづくりを考えている。
発達障害の子供の支援や、産業保健師など、看護の視点を生かして起業した人がいるわけで、それを紹介することが第一歩。看護が活躍する場は多いのに、看護は見えない。看護を可視化し、看護が培ってきた知恵や経験、技術をもっと広く社会に還元できれば、きっと人々の生活を豊かにできる。だから看護起業家のインキュベータをつくりたい。

そして私の最大の夢は、小学校の科目に「看護」をつくること。
もともと私が企業を辞めて看護の道に入り直したきっかけは、健康教育をやりたかったから。要は病気にならなければいいのに、そのための教育はあまりにも少ない。小学生の時から自分の「手」と「目」で自分自身も「護」るし、互いに「護」りあえるようになれば、病気になる確率も減るだろうし、なったとしても、3年生、4年生になれば人工呼吸もできるし血圧も脈も測れる。そのなかで、将来それを職業にしたいと思った人が看護師になればいいし、ならなくても、人を大事にする、相手を思いやるとはどういうことかを学び、自分の身体を護り、他人の身体も護る──それが習慣として身についていけば、少子高齢社会も、もっと元気で豊かな社会になるに違いない。 ■


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