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大竹 文雄・大阪大学社会経済研究所教授

2007.01.15
「変化に耐える──少子高齢時代の雇用政策・人材戦略」

大竹 文雄・大阪大学社会経済研究所教授

大竹 文雄  おおたけ ふみお
大阪大学社会経済研究所教授(経済学;労働経済学)
1961年京都府生まれ。京都大学経済学部経済学科卒、大阪大学大学院経済学研究科理論計量経済学専攻博士前期課程修了。大阪大学経済学部助手、大阪府立大学講師を経て、90年大阪大学社会経済研究所助教授、2001年教授。著書「日本の不平等─格差社会の幻想と未来」「経済学的思考のセンス─お金がない人を助けるには」「応用経済学への誘い」「スタディガイド『入門マクロ経済学』」「労働経済学入門」「雇用問題を考える」、共著「雇用政策の経済分析」「解雇法制を考える」「経済政策とマクロ経済学─改革への新しい提言」など。


http://www.iser.osaka-u.ac.jp/~ohtake/

少子高齢化というと、特に少子化で日本が衰退するようなイメージがあるが、人口が減ることと豊かさはあまり関係がない。むしろ人口が減る方が、一人当たりの資産は増え、豊かになることの方が多い。

ただし、いくつかの懸念があるのも事実。一つは人口が減るだけでなく高齢化が進むということは、世の中で働いていない人の比率が増えるということ。そうすると働いている人たちは、働いていない人たちを養っていく分、負担は重くなる。

つまり人口が減ることで一人ずつは豊かになる効果があるが、働き手の比率が減って貧しくなる方向もある。結局どちらが勝つかだが、少し頑張って生産性を上げれば、なんとかなるのではないかと思う。生産性を上げるには、一人ひとりの人的資源を、教育訓練によって高めていくことが一番大事で、それでかなり解決するはずだ、と私は思っている。

少子化に関するもう一つの懸念は、人間でないとできない仕事が増えているのではないかというものだ。確かに介護サービスなどがロボットで代替できるようになるまでは、人間の数が足りないと困る面は出てくるかもしれない。しかし世の中にはいろんな仕事があって、機械で代替できるものや外国に任せてよいものも多い。日本人は日本人にしかできない仕事に集中すればいい。

ただ、そうなってくると、機械や外国に仕事を奪われる人も出てくる。仕事がなくなる、仕事を奪われるかもしれないというのは、多くの人にとって大きな不安だと思うが、そういうことはこれまでも常にあった。高度成長期など、どんどん新しい仕事に変わっていった。映画『ALWAYS 三丁目の夕日』でも、冷蔵庫が氷式から電気式に代わり、捨てられた氷式冷蔵庫を製氷屋さんが悲しそうに見ている場面があったが、そういうことは常に起きてきた。

それでも高度成長期は人口構成が若かったので、変化に耐えて新しい仕事に取り組みやすかった。今は日本人の平均年齢が高まったために変化に対応することが難しくなったかもしれない。しかし、長生きになった分だけ、年をとってから新しいことにチャレンジしてもその成果を受け取る時間も長くなっている。変化に耐えて、新しい仕事に挑戦していくことはこれからも必要なのだ。

大事なことは、一人当たりの生産性向上であり、これから必要とされる仕事に移るための教育訓練だ。貧しい時代は機械などの資産が足りないから生産性が上がらなかったが、いくら機械が増えても一人でできることは限られており、増えすぎても効率は良くない。とすれば、たくさんの機械を扱える人間、ITも含め、より高度な機械を使える人間を育てないといけない。

資産が豊かにある半面、働いていない人たちの分まで補わざるを得ない少子高齢社会では、一人ひとりの質を高め、日本全体の人材の質を高める──今まで以上に一人当たり生産性を高める人材戦略、教育訓練が重要になる。

とりわけ義務教育や社会に出る前の教育で大事なことは、その後の変化に耐えられる人材を育てること。その意味で基礎学力は非常に大事である。すぐに役立つ能力は、変化の激しい社会では、すぐに陳腐化してしまう。新しいものを常に身につけられる能力を社会に出る前にしっかり養っておくことが大事になる。

ところが今、そういう教育は、質量ともにまだ足りない。量、つまり授業時間数も減っているし、質についても未だに40人学級があるのは先進国としては恥ずかしい。人数が多いと画一的な教育はできるが、変化に対応できる人を育てるには一人ひとりの違いを見ながら臨機応変な教育が必要で、かなりコストがかかる。

本来、少子化社会では、全体の教育予算が従来どおりなら一人当たり教育費は増える。しかし、現実には浮いた予算は高齢者に回っている。ヨーロッパなどはゆっくり少子高齢化が進んでいるから、少子化で浮いた予算を一人当たり教育費の増額や義務教育年数を増やす形で対応できる。日本は急激な高齢化というハンディキャップがあるにしても、どうも教育軽視の感がある。短期的に見ると高齢者が増えているから高齢者予算を増やせというのもわからなくもないが、もう少し先まで見ると将来に向けた教育投資こそ重要だ。

一方、企業が行う人材育成も問題があり、忙しいときは訓練しない。不況で人材育成予算を削った企業が結構ある。若い人を採用せず、社員は働くばかりで訓練する機会もない状況。すると飛躍すべきときに人がいない。2007年問題で技術が継承されないという話があるが、継承する技術を持つ人は再雇用あるいはアウトソーシングで活用することは可能である。技術を継承できない本当の理由は、団塊の世代がいるときに、訓練する相手を採用してこなかったことだ。そのため継承したくても、継承する人がいない状況に陥っている。

企業が不況期に新卒採用を手控えたのは、大量の団塊の世代の存在がある。中高年の雇用と賃金を守ったために、正規社員の採用を減らし、団塊ジュニア世代がフリーター化し、社会全体として歪みが生じた。

しかし今、少子化が進み人手不足が深刻になると、企業は人事制度を変えざるを得ない。フリーターを長くやっている人とか、随分違う世代を入れる必要が出てきた。そして訓練の効率は、OJTでやるのが一番。何の役に立つかわからないことをしても身につかないわけで、まずは採用し訓練することが必要。ところが中小企業はこれまでも中途採用をしてきたが、大企業は新卒中心で、中途の人を大量に採用するしくみがない。そのしくみをつくらないといけない。賃金制度から全部見直し、うまく新卒以外の人を使えるようになった企業が、これからは伸びていく。

その意味で2007年問題はチャンス。
従来の人事制度の最後に位置する団塊の世代がいなくなれば、むしろ新しいしくみをつくりやすい。働く人が減るわけだから、会社の規模自体小さくなり、企業目標も「規模」より「一人当たり」で考えることが大事になる。規模拡大をめざすより、一人当たり生産性と給料を上げる──企業としてはまず、その発想転換をしないと、変化には耐えられない。

実際、近年、企業でメンタルヘルス問題が深刻化しているのは、変化のスピードが激しくなったから。団塊の世代の時代と今の若い人たちでは、仕事の変化のスピードは全く違う。同じやり方を続けて成長していた時代と異なり、技術革新も激しく外国との競争も厳しいので、プレッシャーも違う。それなのにきちんと訓練せず、責任だけ与えるからおかしくなる。やっぱり苦しいときほどしっかり能力開発、教育訓練をしておかないとあとで困る。いくら苦しくても長期的な視野で人を採用し、変化に対応できる人材育成をしていくことが必要だ。

少子高齢時代──基本的には一人ひとりが豊かになる方向にあるのだから、その豊かさをどう使って将来に繋ぐかを考えるべきで、今までのやり方を維持するために一生懸命やるのは間違い。企業も社会も変わらないと日本全体が沈むという「危機感の共有」を図り、苦しいけれど方向転換していく。個人としては、長くなった人生、気持ちを若く持って再チャレンジを続けていくことだ。2007年問題こそ改革のチャンスだ、と私は思う。 ■


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