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重村 力・神戸大学工学部建築学科教授

2006.12.15
「21世紀、『安全と共生』の都市空間デザイン戦略を考える」

重村 力・神戸大学工学部建築学科教授

重村 力  しげむら つとむ
神戸大学工学部建築学科生活環境計画研究室教授(都市計画;建築計画)
1946年横浜市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒、同大学院理工学研究科建設工学専攻博士課程修了。神戸大学工学部講師、助教授を経て、教授。吉阪隆正に師事。Team Zoo象設計集団設立者の一人。いるか設計集団顧問。文科省21世紀COEプログラム「安全と共生のための都市空間デザイン戦略」(機械、土木、建築、その他工学分野)拠点リーダー。主な作品「出石町ひぼこホール」「弘道小学校」など。主な著書「地域主義」「ブルーノ・タウト」「図説集落─その空間と計画」、訳書ルシアン・クロール「参加と複合―建築の未来とその構成要素」など。Hon.FAIAアメリカ建築家協会・名誉フェロー。


http://www.arch.kobe-u.ac.jp/~en3/
http://sasycoe.eblog.jp/wiki/

「安全」とは何か? 日常生活の安全確保は、家づくり、街づくりの基本だ。外は暑かったり寒かったり、あるいは虫や動物がいて危険だが、屋内に入ることで安らかにいられる。加えてもう一つ、災害からの安全確保。災害には、地震・台風・竜巻・豪雨など「自然災害」と、火事や犯罪といった「社会災害」があり、災害に対し、どう安全を確保するかを考えると、壊れない家、外から侵入できない家をつくればいいという考え方がある。

しかし我々は、ただ外を拒んでいれば暮らせるというわけではない。例えば、台風の風は避けたいが、そよ風は入って欲しい。光も、暑くて強い日射しは避けたいが、十分な明るさ、朝陽や夕陽は観賞したい。人間に対しても、泥棒には入られたくないが、親しい人たちには入ってきて欲しい。安全を保つにしても、こういった要素を拒絶しない方がいい。

むしろ、安全はどう保てるかを考えると、単に住居が頑丈であるだけでなく、近所の人の目が防犯に繋がったり、被災したとき隣人に助けられることもある。台風のとき、川の水が増えないかみんなでチェックしたり、水害にあったときもみんなで助け合うことが「減災」に繋がる。だから安全を保つには、閉鎖的に考えるのではなく、社会と繋がることを考えた方がいい。

「共生」、symbiosisとは、生態学的に多様な生命が相互に連携しあって暮らすことを言う。環境の中で我々が他の個体と一緒に暮らしていることに着目し、社会的な「共生」を考えていくことで、「安全」の質がより高くなる。

もう少し考えると、我々が安全に保つべき都市や地域社会がいつまで続くか、「持続」という問題もある。その持続という観点で考えると、「共生」の方向に立つ方が、より矛盾なく安全が保てる。したがって、社会的共生に加えて、地球環境における共生という観点が、もう一つ必要になってくる。

環境をつくる際、地球に優しい方法、自然の摂理に適う方法をとることが大事であり、しかもそれをみんなが知っていることが大事。例えばジャワ島中部地震の時、地震に対する知識がもう少しあれば、死者を減らせたかもしれない。6000人ほどが亡くなられたが、家の外に出て壁が崩れたり屋根が落ちてきて亡くなった人がいる。日本では関東大震災の時、家の外に飛び出して、瓦でやられた人が多かったから、地震の時は家の外に出たら危ないと言われてきた。

僕らは一人で生きているのではなく、これまでのみんなの知恵が伝承され、人々の助け合いのネットワークの中で生きているが故に、守られている。特に自然の摂理に適う災害からの逃れ方には、自然に対する深い知見やノウハウが必要で、津波が起きればどこに逃げるべきかとか、何を避けるべきかを、みんなが知っていることが大事。みんなの知恵を合わせ、人々が協力することによって、個人のエナジーを超えたシナジーが出てくる。

だから安全について、単に力学的に対応するのではなく、自然のメカニズムの中で解決できること、またより本質的な安全に繋がることがあればそれを選ぶべきだし、我々自身の助け合い、知恵の伝承、一種の環境教育、相互協力、自助や互助といったことをメカニズムに組み込むことによって、より安全な社会ができる。そうやって達成された安全こそ、本質的に高い水準の安全と言えるのではないか。

20世紀の工業社会は部分ごとの目的は達成してきたが、それによって得られた環境は、それ以前の社会が持っていた生活や文化などの総合的な豊かさを犠牲にしたのではないかという疑問がある。だから21世紀社会は、もっと本質的な豊かさ、長期的に持続する豊かさを求めるなら、「安全と共生」という考え方が大事になる。我々の都市空間デザイン戦略は、それぞれの研究にその考えをどう組み込み、どう統合化していくかを意識しようというものだ。

例えば、20世紀がつくったものの一つに、高速道路がある。より速くより多く運ぶという目的で、場所がないので既存の道路の上につくり、なおかつ下の道路が犠牲にならないよう、橋脚を細くした。そこには、「安全」や「共生」というキーワードは入っていない。目的を達成するためにだけ進み、気がつくと環境を壊し、安全も損ね、両側の街を分断することで、人間の社会的共生に繋がる地域社会を壊していた。

高速道路を撤去する動きはアメリカのボストンで始まった。
みんなの頭の中にある都市の共通イメージ、それをつくりあげている要素は非常に大切で、例えば神戸について、みんなが海と六甲山をイメージしていたら、六甲山が見えなくなったら困るし、海へのアクセスができなくなったら困る。ボストンの場合、ボストン茶会事件の舞台になった古い港と、アメリカ独立宣言の草稿をつくったボストン発祥の地、その2つをみんな大事な場所だと思っているのに、間を高速道路で分断していた。だから環境の連続性を確保しようと、高速道路を撤去して、自然に近い姿に戻し、地域社会のベースになっている都市空間をみんなで利用できるように回復した。

お隣の国では大きな実験が始まっている。韓国・ソウルでの清渓川(チョンゲチョン)の復元である。川を埋め立ててつくった12車線の高速道路を全部壊し、川を復元してプロムナードと両側に2車線ずつの道路をつくるというもので、昨年完成した。そんなことをしたら交通渋滞が起きると言われたが、それは起きず、しかもヒートアイランド化していた都心の気温が4℃下がり、都市環境と地区社会が豊かさを回復しながら新しい発展をしようとしている。

20世紀は一つ一つの目的に熱心であるが故に、総合的な人間社会とか地域環境、自然環境が持つ本質的なものを犠牲にしてきた。「安全と共生」という観点でもう一度チェックすることにより、21世紀の都市がつくれるのではないか。バブルの頃は、脱工業化都市とは情報化社会だと言われていたが、そういうものを超えて、より持続的な環境と豊かな地域社会を回復することが、21世紀の都市の目標だ。

我々は「安全と共生」という観点からの研究の重要性を4年間発信し続けており、国際的にも浸透してきた。アメリカとの共同研究も多く、例えば、ハリケーン・カトリーナによる災害で10万人を超す被災者がいて、今も戻れない状況がある。ニューオリンズは海抜0m地帯に街をつくるなど、自然の摂理に適った街づくりをしてこなかった。加えて、都市の中で低所得者層と中所得者層との分裂など、地域社会が断絶し、相互に助け合う関係が薄い状態で災害が起きたため、全米中に被災者が拡散してしまっている。今後、大災害が起きたときには、カトリーナ型ではない解決をしたい。

日本は阪神大震災で10万戸の仮設住宅をつくっており、問題もあるにせよ、カトリーナよりは良い解決ができていると思う。我々の「安全と共生」という考え方には、アメリカの連邦危機管理局や国防省も関心を示し始めたし、ジャワ島でも、僕らの考え方を現地の専門家と共有しながら一緒にやっている。

今後の課題としては、安全と共生の観点に立つ住宅の姿などをそれぞれの学問分野の中で分析していくと同時に、総合像──多様なケースごとに政策や技術を総合し、都市の問題が解決されているという総合像をつくっていく必要がある。20世紀初めには田園都市論や近隣住区論など、のちのモデルになる考えが出てきたが、「安全と共生」も、ケースごとの経験を積み、みんなが使えるレベルに発展させ、モデルにまで高めていくことが大事だと思っている。 ■


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