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古川 昭雄・奈良女子大学共生科学研究センター長;教授

2006.12.01
「森林の保護と再生へ、温暖化のなかで人間活動のあり方を考える」

古川 昭雄・奈良女子大学共生科学研究センター長;教授

古川 昭雄  ふるかわ あきお
奈良女子大学共生科学研究センター長;教授(植物生理生態学・環境植物学)
1944年生まれ。国立環境研究所地球環境研究グループ森林減少・砂漠化研究チーム総合研究官、生物圏環境部上席研究官を経て、1997年より奈良女子大学教授。研究テーマは「環境変動と植物の生存戦略」。環境変動によって植物の生長がどのような影響を受けるか、熱帯林の研究を長く手がけ、現在は、古来から人の手が入っている紀伊半島や奈良をモデル地域として、物質の循環や生態系を相互関連的に捉える研究も推進。同大学の屋上と、東吉野村の森林内に設置した観測塔、生駒山上でCO2濃度等の計測を続けている。著書「生態学事典」(共著)など。紀伊半島研究会会長。


http://www.nara-wu.ac.jp/kyousei/

植物はCO2を吸収する。
陽の光を浴びながら、葉からCO2を、根から水を吸収し、自らの養分として炭水化物を合成し酸素を放出──つまり「光合成」を行っている。一方で植物は「呼吸」をしていて、酸素を吸収しCO2を放出する。となると、植物がCO2を吸収するのは確かに事実だが、それは生長の旺盛な元気な木の場合。炭素収支で見ると、若い森林は吸収しているが、ある程度年数を経た森林は吸収と放出がほぼ平衡状態。枯れたり倒れたりする木が多いとマイナスになりかねない。

植物の種類や温度によってもCO2吸収量は異なる。一般に温度が高い方が光合成反応は活発で、気温が下がると吸収能力はかなり落ちる。だから熱帯林は年中吸収できる条件を備えているが、四季のある日本では冬場の吸収能力は極めて低い。

だったら暑い方がいいと思うのは早計。暑くなりすぎると今度はCO2を吸収する器官である「気孔」が閉じてしまう。植物は、葉面に1mm2あたり数百から数千個もある「気孔」を開いて大気からCO2を吸収しているが、高温時や乾燥時には「気孔」を閉じて水の蒸散を防ぎ、身を守る。水は根から葉へ、つまり濃度の高い方から低い方へものは流れるという自然の摂理に従って上がっていく。ただ、熱帯の木だと葉の位置がものすごく高いから、水を根っこからずっと充分な量だけ上げていくのは、かなり大変で、晴天の昼間は気孔を閉じてしまう。

だから熱帯の木が必ずしもCO2を吸収する速度が速いわけではなく、かえって日本の落葉樹の方が速かったりする。また落葉樹と常緑樹では、総じて言えば落葉樹の方がCO2吸収能力が高く、常緑樹は低い。但し、年間トータルで見ると、吸収量にさほど差はない。なぜなら落葉樹は冬には葉を落とし、光合成はできないから。

地球温暖化が言われ出してから、国土保全や生物多様性保護等に加え、CO2吸収源としての「森林」にはますます注目が集まっている。

国土の7割が森林という緑豊かな日本でも、ここ紀伊半島は、大台ヶ原など世界でも有数の多雨地域を含み、亜寒帯から亜熱帯まで植生豊かな森林を有している。しかも、いにしえの昔から人間活動が盛んで、人間活動による自然環境の改変を時空間的に解析するには最適な場所。こうした地域の利点を生かし、どのようにして現在の自然環境を維持し、次世代に快適な生活環境を残すかを、具体的・定量的な解析によって提言したい。そう考えて、この共生科学研究センターでは、大学の屋上と東吉野村の森林内に設置した観測塔で、昨年からは生駒山頂でも、CO2濃度から光、温度、湿度、風向、風速などを1分ごとに24時間365日計測している。

観測データを見ると、東吉野が四季を通じてCO2濃度があまり変わらないのに対し、奈良市内は変動が大きい。街なかなので車の排気ガスなども影響し、通勤時間帯はCO2濃度が跳ね上がる。だから街なかの緑はもっと増やした方がいい。街路樹を増やせば、涼しくなるし、何より気分も良くなるといった「緑の効用」もある。

またCO2濃度の経年変化を見ると、ほとんど直線的に上がっており、今や東吉野で370ppm以上、奈良の市街地では450ppmを超えることもたびたびある。同様の計測を、ハワイのマウナロアでは1958年から行っていて、当初316ppmだったのが、今は370ppmを超えている。産業革命以前の約1000年間がずっと280ppmくらいだったことを考えると、この200年で100ppmも上昇しているわけで、こうしたCO2濃度の上昇、つまり温暖化が植物にどのような影響を与えるか、注意深く見ていく必要がある。

さらに森林にとっての受難は、開発による荒廃だ。
環境問題は結局は人口問題だ。地球がどれだけの人口を養えるか。日本は既に人口が減少局面に入っているが、インド、中国、インドネシアをはじめ途上国では爆発的に増えている。だから居住地や田畑を増やすには、どんどん木を伐り、森林を伐り拓くしかない。

一方、日本はまだ緑が多いが、こうした途上国の状況を他人事として座視するわけにはいかない。なぜなら日本の木材自給率は20%以下。日本は東南アジアなどから大量の木材を輸入し、森林荒廃の一因をつくってきたからだ。かつて私がマレーシアを訪れたときにも「日本人はマレーシアの木は伐るくせに、自分の国の木は伐らずに残している」と非難され、返す言葉がなかった。

とは言え、日本の森は必ずしも環境保護のために「残している」わけではなく、むしろ「放置されている」と言った方が実態に近い。日本は戦後の木材需要の増大を受け、各地で杉や檜の植林を進め、人工林が森林全体の約4割を占める「人工林大国」になったが、今はこの荒廃が著しい。私たちの研究フィールドである吉野では、室町中期から「吉野杉」が植えられ、今やほとんど山頂まで、びっしりと植林されている。ところがこの奈良の銘木「吉野杉」も、今や伐り出した木はヘリで運ぶしかなく、搬出コストが嵩み、市場価格は伐採時点のほぼ2倍。結果、安い外材には太刀打ちできず、需要が伸びないという悪循環。伐れば伐るほど赤字が膨らむから、放置されたままの林が多い。

放置されている人工林で間伐を行い、整備していこうという計画もあるが、注意が必要なのは、伐りすぎてはいけないということ。4割伐ると山は荒れる。土砂流出が起きるばかりか、それまで鬱蒼と繁っていた林に急に強い光が差し込むと、乾燥が進み、周りの木も枯れていく危険性がある。そうならないよう慎重に行う必要がある。

森林保全をはじめ、環境対策は一筋縄ではいかない。
今日の地球温暖化も開発による問題も、我々人間の活動がもたらしたもの。となれば、当然ながら、地球環境問題解決の鍵を握るのは、結局は人々の意識の向上。一人ひとりが正しい知識に基づいて意識を高め、行動を変えていくことが、何より求められる。 ■


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