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森 拓也・すさみ町立エビとカニの水族館館長

2006.11.01
「海洋生物と地球環境──黒潮文化圏・南紀から考える」

森 拓也・すさみ町立エビとカニの水族館館長

森 拓也  もり たくや
すさみ町立エビとカニの水族館館長
1953年三重県生まれ。東海大学海洋学部水産学科卒。鳥羽水族館入社。ミクロネシアのパラオ生物学研究所・自然保護局に研究員として出向。以来、南太平洋を中心に、世界各国で海洋生物の国際共同研究プロジエクトを手がけ、世界で初めてジュゴンの長期飼育に成功したパイオニアスタッフとしても知られるが、97年退社。研究フィールドを和歌山県すさみ町に移し、「自然の語り部」をめざすとともに、99年より「すさみ町立エビとカニの水族館」館長を務める。水族応用生態研究所所長兼任。著書「私、魚の味方です」「クジラ・ウォッチング(共著)」「魚のホントを教えてあげる」「舟と船の物語」「おいしいアジア怪しい食の旅」など。


http://www.aikis.or.jp/~ebikani/index.html

赤、青、黄、オレンジ、エトセトラ……。トロピカルフィッシュ特有の 色鮮やかな体を翻し、南紀・すさみの海にチョウチョウウオの仲間が泳ぐ──。
1年中暖かいすさみの海では、熱帯性の海洋生物をよく見かける。南の海に棲む魚の卵や稚魚が、黒潮に乗って運ばれてくると、ちょうど日本は夏で、暖かい海の中で卵は孵化し稚魚が育つ。チョウチョウウオの仲間をはじめベラやハタ、キンチャクダイの仲間など、ダイバーの目を楽しませてくれる南から来た熱帯魚たちは、やがて秋になり、冬になって水温が下がると、死んでしまう。これが「死滅回遊魚」。ちょっと前まで南方系の魚は、日本で冬を越せなかった。ところが今、冬を越してなおヒラヒラ泳ぐ色鮮やかな魚の姿が見られるようになった。

なぜなら、水温が下がらなくなったからで、地球温暖化の影響が、海にも及んでいるのかもしれない。海の1℃は気温の4℃くらいの感覚。つまり陸上よりも遙かに温度変化の少ない海では、わずかな水温変化が海洋生物に大きな影響を与える。今までいなかった生き物が現れたり、逆に今まであったものがなくなったり。

すさみの海で、なくなったものは海藻だ。昔は海藻だらけで泳ぐのにも苦労した、と土地の古老は言う。しかし今、磯の海藻は激減している。温暖化で水温が上昇し、海藻が育たなくなった。すると、海藻を餌にしていたアワビ、トコブシが痩せてくる。海藻を隠れ場にしていたエビやカニ、産卵場所にしていた魚も減ってくる。海藻は海洋生物たちの餌場、隠れ場、産卵場所であり、海中でCO2を吸収し酸素を出すという重要な役割もある。その海藻がないと、海は死ぬ。だから焼け野原、「磯焼け」と言う。

生態系はみんな繋がっている。
例えばフィリピンのある島では、海の近くで焼畑農業を行い、3年ほど経って土地が痩せると別の場所へ移る。残された土地に雨が降ると、木がないので灰、アルカリ混じりの表土が流れ、海が濁る。水質は悪化し、海藻は枯れてなくなり、そこを餌場にしていたジュゴンがいなくなる。また日本人はエビが好きで、エビの多くを東南アジアから輸入しているが、現地ではエビを養殖するためマングローブを伐る。伐るとCO2を吸収する緑がなくなる。みんな因果関係がある。

地球温暖化をはじめ環境問題への関心は高まる一方だが、世間一般で考えられている環境は、人間中心の環境。人間に悪いものはみんな悪いという考え方。僕はそれは違うと思う。では動物のためかというと、そうでもない。大事なことは、生態系を守るということ。

いろんなところで、生き物たちが環境の変化を訴えている。それに気づいて、早く手を打たないといけないのに、ほとんど何もできていない。

環境問題というのは非常に範囲が広く、何から手をつければいいか、わかりにくいが、一つ環境を知る指標がある。それは自分の目で見るということ。テレビで見たり、本で読んだり、人に聞いたりするのではなく、自分で見ること、それが重要。窓の外の葉っぱ一枚でも、毎日見ていると変化がある。それが環境を知るということ。身近な動植物を毎日見ていると違いがわかる。自分の子供が、赤い顔をしていれば熱があるんじゃないかと、すぐわかるのと同じ。ミミズでも何でもいい。毎日見ていると、それが何を訴えているのかが、わかってくる。難しい環境教育などしなくても、好奇心を失わず、周りを見ていればいい。今年はレモンが不作で、代わりにブドウが豊作だった。なんでやろ? そこから展開がある。

そして変化に気づくと、早急に手を打つ。
わかりやすい例で言えば、絶滅しかけている動物をどうすればいいか。そのままそっとしておくのがいいか、トキみたいに全部捕まえて、人工繁殖させるのがいいか。いろんな方法があるが、結局、トキの場合は捕まえた。僕はあれは正しいと思う。絶滅に瀕しているのは、開発などで棲処や餌場をなくすなど、何らかの形で人間が関わったから。絶滅に追いやった人間が責任を取らないといけない。そっとしておくのは一見かっこいいかもしれないが、それは保護でも何でもない。

僕は海が好き。毎年、船で南太平洋を回り、潜るほど、海が、そして海の生き物が好き。そしてこの町が好き。すさみに移り住んで10年。もともと南紀には明治の頃、アメリカへの移民やオーストラリアまで真珠貝を捕りに行った歴史があり、外へ出る、外から来ることを何とも思わない。野良仕事をしているおばあちゃんが、ハワイ帰りで英語がペラペラとか、娘が連れて帰った夫はアメリカ人とか。排他的でなく、すべてを受け入れる包容力と開放性、この風土は一つの資源であり、なによりイセエビやケンケン鰹、スルメイカをはじめ、珍しいエビ、カニ、ヤドカリ、ウミガメ、クジラなど、黒潮がもたらした豊かな海の生態系は貴重な資源。このすさみの海の生態系を本来の姿のまま次の世代に伝えたい。そう思い、いろいろなことに取り組んでいる。

例えば、「磯焼け」に対する打ち手は、「藻場要る(モバイル)プロジェクト」。海洋生物には藻場が要るからモバイル、という親父ギャグ。地元中学校の総合学習として、3年計画で取り組んだ。1年目は現状を知ろうと古老から昔の磯の様子を聞き取り、2年目は実際に観察しようと水質調査などを行い、3年目に対策を考えさせ、子供たちのアイデアで、海藻の移植を実施。その3年間の取り組みをまとめたものが、日本海事広報協会のジュニア・マリン賞で最優秀、日本一になった。3年間海をやり、今、川をやっていて、次は山を調べようと持っていく。生態系は繋がっているんだから。

そして砂浜の整備。砂浜だって生きている。もともと砂浜は自然の浄化システムを持っている。アサリは水中に浮遊する有機物を食べて海水を浄化しているし、ゴカイは砂に穴を掘って新鮮な海水を奥まで届ける働きをしている。そしてナマコは、砂に混じった有機物を、砂と一緒に食べて、有機物の半分ほどを消化し、砂を糞として出す。だから理論的には、それを繰り返せばどんどん砂浜は綺麗になる。サイパンなどの海岸にはナマコがゴロゴロしているが、あれは海岸を綺麗に保つという大切な役割を担っている。だから、すさみの砂浜の整備にあたっては、ナマコやゴカイ、アサリの稚貝を放流。生きた本物の砂浜の再生に取り組んでいる。

気懸かりなのは、今、あちこちで自然を見直そうという催しが行われているが、本当にそれが地球環境のためになっているか。エコでなくエゴになっているのではないか、ということ。アカウミガメの卵を人工孵化させ、孵化直後の赤ちゃんを放流して、子供たちに行ってらっしゃい、と手を振らせているが、僕は反対。あんなことをしても、生き残るのは1割もいない。あれでは保護になっていない。むしろ、半年なり1年、人間の手で育て、外敵に襲われないようになってから放す。それをすると自然じゃなくなるという人もいるが、もうそんなことを言ってる場合じゃない。3年前、アラスカに行き氷河を見てきたが、かなり溶け始めている。南太平洋のキリバスでも水面が上昇しているし、温暖化は待ってくれそうもない。生態系のバランスが崩れ始めた今、自然に任せても、うまくいかない。人間がここまで追いやったのだから、ある程度人間の手を加えることも必要、と僕は思っている。■


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