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伏木 亨・京都大学大学院農学研究科教授

2006.08.15
「温暖化で食文化が変わる?──おいしさのワケと現代人の食」

伏木 亨・京都大学大学院農学研究科教授

伏木 亨  ふしき とおる
京都大学大学院農学研究科食品生物科学専攻教授(栄養化学)
1953年京都府舞鶴市生まれ。京都大学農学部食品工学科卒、同大学院農学研究科食品工学専攻博士課程修了。京都大学農学部助手、助教授、教授を経て、現職。食品タンパク質の消化と吸収機構の解明、食品摂取による膵消化酵素の分泌応答など研究。「おいしさ」を科学的に研究。NTV「世界一受けたい授業」などにも出演。著書「人間は脳で食べている」「コクと旨味の秘密」「うまさ究める」「子供を救う給食革命」「食品と味」「グルメの話 おいしさの科学」「ニッポン全国マヨネーズ中毒」「魔法の舌」など。


http://www.nutrchem.kais.kyoto-u.ac.jp/fushiki/OkotobaMain.html

「おいしさ」を科学的に捉えるのは難しい。同じものを食べても、人によっておいしい、おいしくないの評価は分かれるから、科学的な解明は不可能ではないかと考えられていた。食品化学を専攻する以上、おいしさを解明したい。人によって評価が分かれるのは、おいしさが複数の要因で成り立っているからではないか──そう考え、10年ほどかけておいしさの要因を整理した。

おいしさの要因は4つに分かれる。
1つは「生理的なおいしさ」。喉が渇くとビールがおいしい、疲れると甘いものがほしいといった具合に、生理的な必要性があるときに食べると、おいしい。ビールのつまみは塩辛いものが多いのも、ビールはカリウム濃度が高いため、相対的に身体はナトリウム不足になり、塩分をほしがる。生理的なバランスの崩れを戻そうとして身体が欲求するものは勝手においしい。

もう1つ、先天的なものとして、「栄養素が濃縮されたものはおいしい」。これは脳の中で「快感」を発生させる「報酬系」という経路を刺激する。そのジャンルにあるのが、脂と砂糖とダシの旨み。世の中のおいしいものには、それが2つ、3つと入っている。ケーキには油脂と砂糖、すき焼きには脂と砂糖とダシ。つまり、非常に高カロリーの脂と、脳の唯一の栄養である砂糖(糖)──砂糖には血糖値を上げるという重要な役割があり、脳は血糖しか使わないので、血糖値が下がると脳貧血を起こしてしまう。そしてダシの旨みというのはタンパク質。脂質・糖質・タンパク質という生命維持に不可欠な三大栄養素が濃縮されていればおいしい。おいしさは快感であり、それは本能的なものだ。

あとの2つは後天的なおいしさ。子供の頃から食べ慣れたものはおいしく感じるが、これはいわば「食文化」。私は東京の甘い卵焼きは嫌いだが、東京の人は京都の出汁巻きに違和感を覚えるのではないか。クサヤも鮒鮨も、地元の人はおいしいという。食べ慣れたものは安心であり、安全・安心がおいしいと思わせる。

こうした食文化は地域ごとに異なるが、逆に興味深い共通点を発見することもある。例えば、イタリア料理のベースはトマトの旨みで、何にでもトマトを使うが、あれは昆布と同じグルタミン酸。食材が違うから見かけは全く違うが、実はイタリア人と日本人は、嗜好が同じ「ダシの民族」。一方、フランス料理はこってりした脂っこいソースが特徴で、日本人が毎日食べ続けるのはキツイ。日本で、フレンチからイタリアンへ、ブームが移ったのは、価格だけではないような気がする。

おいしさの要因の4番目は「情報」。動物は栄養価と安全性だけで判断するが、人間の場合、舌からの「味覚信号」に加え、見た目や匂いはもちろん、価格、製造日、産地などの「情報信号」が合わさって、おいしさが判断される。中毒事故を起こした会社のものや賞味期限切れのものをまずいと感じたり、逆にグルメ雑誌で本場の味と評価されたもの、有名人が称賛したものをおいしいと感じたり。情報がおいしさを規定してしまう。つまり、我々はおいしさを「学んで」しまい、情報に依存しすぎて味覚が鈍くなっている。だからおいしさは操作できる。味がソコソコでも、大量に広告を出稿し、クチコミ情報を流せば、「噂どおりおいしい」と引きずられたりする。

これら4つの要因が影響しあい、しかもそれぞれのウェイトの置き方に個人差があるので、「おいしさ」はバラバラに見える。しかし個別には十分科学できる。

例えば、「生理的なおいしさ」に影響を与えるものとして「気温」がある。ソフトクリームが売れるのは夏ではなく、5月。かんかん照りの真夏に、甘いものは食べる気がしない。むしろ真夏は、胃の中にどっと入って、素早く身体を冷やせるドリンク系。暑くなるに従い、ソフトクリームからシャーベット、冷たいドリンク、水へと移っていく。炎天下の甲子園で、甘いジュースよりカチワリ氷が売れるのも、生理的に、甘みのない純粋な水を欲しているからだ。

ビールにしても、日本では、暑いときにキレ(苦み)のあるビールをグーッと一気に飲んで喉の渇きを癒すイメージが強いが、ヨーロッパはあまり冷えてないオールモルトのコクのあるビールを一晩中味わいながら飲んだりする。ここにも気温の違いがあり、暑いときはコクがない方が飲みやすい。実際、喉が渇いているときは、ビールを苦く感じない。

ちなみにネズミの好きなビールはオールモルトのコクのあるビール。栄養価が高く安全なものを本能的に選ぶという実験結果が出ている。ただ、ネズミも喉が渇いていると、選んだりしない。温暖化で暑くなると、コクのあるビールが好きな人も、発泡酒や第3のビールをおいしいと思うようになるかもしれない。

つまり、温暖化で変わるのは味覚、舌の機能ではなく、「生理的必要性」の変化であり、それに伴う「食文化」の変化。今でもアイスクリームやビールなど、気温が1℃変わると売れ行きが変わるが、温暖化が進めば、ソフトクリームが4月に売れたり、身体を冷やすために冷たいものがブームになるなど、食文化が変わることは考えられる。

世界各国に特有の料理があるが、いずれも「気候」に関係して発展してきた。温暖化で日本も暑くなってくると、やはりその気候に適した料理が自然に取り入れられていく。近年、スパイシー料理がどんどん日本に浸透しているが、実は第1次激辛ブームは25年くらい前、京都大学の岩井和夫教授が、「唐辛子を食べるとアドレナリンの分泌が盛んになってエネルギーを発散して痩せる!」という実験結果を報告。女性が七味や一味唐辛子を携帯するほどブームになった。辛み志向は、今やすっかり定着し、数十年のスパンで見ると食文化は変わっている。気候変動により、数十年先に全く違う食文化が現れている可能性もなくはない。

興味深いのは、この「唐辛子」──世界的にはごく寒いロシアや韓国、暑い東南アジアや中南米で唐辛子をよく使う。寒い国では身体を温めるため、暑い国ではむしろ汗を出して熱を発散させ、身体を冷やすために使われる。辛み成分であるカプサイシンによって熱の発散が起き、体温が一時的に下がるが、寒い国では服を着て熱の発散を抑え、暑い国では逆に発散させて体温を下げるというわけだ。真夏に唐辛子を利かせたカレーがおいしいのは、こういう理由がある。そのうち、「温暖化は唐辛子で乗り切ろう!?」なんてことになるかもしれない。

実際、日本は暑くなっている。僕らが子供の頃、夏休みの宿題で気温調べをしたが、せいぜい30℃か31℃だったのに、今や37℃、38℃の日も──最近、唐辛子入りのビールも流行っているが、今はまだ物珍しさが強い。やはり自分の中で理解できるものしか、人は選ばない。日本人が唐辛子入りビールを本当においしいと感じるようになれば、地球はかなり暑くなっているだろう。

暑くなると食欲がなくなる。もともと消化機能は、リラックス状態をつくる「副交感神経」の働きによるもので、イライラしたりストレス状態が続くと「交感神経」が働いて内臓機能は抑えられる。夏の暑いときは疲れるしストレスがたまるから、交感神経が働き、食欲がなくなる。食事を「おいしく」味わうために、もう少し温暖化について考えてみるのもいいだろう。■


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