Insight時代を解くキーワード Presented by 関西電力
| HOME | このサイトについて | メルマガサンプル | 談話室 | 配信申込・解除 | お問い合わせ・ご意見 |
関西電力HPへ
Main Column Break Close up エナジー News Clip 関西電力 講堂(イベント/セミナー)
 

Main Column
 

中谷 ノボル・ストックリノベーター;アートアンドクラフト代表

2006.07.15
「サスティナブルな住まい方──ストック×リノベーション」

中谷 ノボル・ストックリノベーター;アートアンドクラフト代表

中谷ノボル なかたに のぼる
ストックリノベーター;アートアンドクラフト代表
1964年大阪市生まれ。京都工芸繊維大学造形学部建築学科卒。マンションディベロッパー、ハウスメーカー勤務後、94年に一級建築士事務所「アートアンドクラフト」設立。リノベーションしたアパートメントの販売や長屋の再生、オフィスビルや倉庫を住宅へコンバージョン(転用)するなど、ストック(既存の建物)の再生利用を大阪都心部で数多く実践している。「できればハウスボート生活がしたい」というほど水辺が好き。市民ならではの視点から大阪の水都再生を考えたいと、3年前にNPO法人水辺のまち再生プロジェクトも立ち上げた。


アートアンドクラフト>> http://www.a-crafts.co.jp/

「均質化されていない住まい、あたらしい都市居住のスタイル」──これが僕らアートアンドクラフトの理念だ。日本には面白い家が少ない。暮らしのなかで、「衣」も「食」も多様化しているのに、「住」だけはあまりにも均質化したままだ。

とりわけ都心生活者のライフスタイルの多様化に、住宅供給が追いついていない。例えば大阪市など、1世帯の家族数は2.1人なのに、供給されるのは相変わらず4人家族をイメージしたものがほとんど。「お客さまのために」と言いながら、最大公約数的なものばかりつくっている。

そもそも日本の住宅は、寿命が短すぎる。住宅の平均耐用年数は、ヨーロッパで70〜80年、消費大国のアメリカでも40年なのに、日本はわずか25年。30年以上の長期ローンなら完済前に「寿命」を迎え、壊れたわけでもないのに建て替えてしまう。

日本も昔は「三代に一度建て替える」のが常識だったのに、近代化の100年、とりわけ戦後は、急激な人口増への対応とも相俟って、復興から高度成長期へと、スクラップ&ビルドが常態化。それによって経済が回り、多くの人が恩恵を受けたのも事実だが、それは「非常時」の対応。人口減少社会を迎えた21世紀の日本ではあり得ない話だ。

もう一つ、日本では新築住宅に対し、ストックの流通価格は極端に安い。築20年も経てば、集合住宅なら半値だし、戸建ては土地代だけで取り引きされる。こんな国は他にない。日本では新築以外の住宅を「中古」と言うが、諸外国では流通している住宅の大半がストック。だから「中古」なんて言葉はなく、新築の場合だけ「new」をつける。一方、新築が当たり前の日本では、膨大なコストをかけて宣伝をするから、必要以上に新築に誘導されてしまう。

でも逆に言えば、日本ほどストックを手に入れやすい国はない。人口が増えていないのに住宅供給を続けるから、大阪市では全住宅戸数の2割近くが空き家で、新築よりはるかに安い値がついている。だったらこれを生かせばいい。画一的でない家をつくるには、建築家に依頼して注文住宅を建てるとか、集合住宅ならコーポラティブというスタイルもあるが、どちらもお金や時間のある人向きの手法。でもストックを使えば、普通の人がリーズナブルなコストで、ライフスタイルに合った家を持つことができる。

つまり「ストック×リノベーション」。既にある建物を、改修して再利用する。例えば、古いマンションをコンクリートの箱になるまで解体し、全く違う間取りにつくり替えたり、伝統的な木造家屋、長屋や町家を、当時の面影をできるだけ残しながら今風にリノベーションする。あるいは事務所や倉庫として使われていた小さなビルをオフィス兼住居にコンバージョン(用途転用)する。

実際ここ数年、ストック×リノベーションへのニーズは確実に増えている。特に僕が希望を感じるのは、団塊ジュニア世代。この世代は、家はあって当たり前。親が苦労して手に入れたマイホームなんて、35年かけてこの程度。住宅取得に対し、多大な人生のコストを費やすことに疑問を持っている。

それに彼らは親の世代のように「新しいものは古いものよりいい」とは思わない。家具も洋服も、新品か中古か、なんてことにはこだわらず、自分の気に入ったものを選ぶ。住宅に関しても同じ。親の世代は家を持つことがゴールだったから、取得さえできれば何でもよかったが、彼らにとってはスタートにすぎず、そこでどういう暮らしをするかにこだわる。「憧れのマイホーム」はもはや死語となり、住宅に対する眼は確実に成熟してきている。

そして実は、そういう住まい方こそ、環境に優しい。建築業界に身を置く者として、僕たちは、残したいと思える建物をつくってきただろうか。新しいものをつくるとき、「安普請」で仕上げてしまうのではなく、ムリをしてでも金をかけ、時間をかけて、楽しい良いものをつくる。良質の社会ストックを残していくことで、愛着が生まれ、大切に使い、結果的にロングライフになる。それこそが、環境に優しいということだ。

良質のストックを流通させ、活用していくには、消費者への働きかけも含め、市場任せにせず、政策的に進めていく必要がある。

まずはイメージの問題として、「中古マンション」「中古住宅」と呼ぶのは、やめたい。古くても新しくても、良いものは良いという価値観が広がれば、望ましい。市場としては、ロングライフな建材市場の創設。日本では、製品の寿命が短いため、一部が壊れるとすべて取り替えないといけないことが多いが、長く愛されるスタンダードがあることが大事だ。

また、現行の建築基準法により、せっかくのストックが転用できない場合があったり、現在の大学教育では、今のビルを建てることはできても、木造家屋の改修を頼まれてもわからず、担い手が育っていない現状もある。一部、法改正など、変化の動きがあるが、それをもっとスピードアップさせる必要がある。

しかし一番大切なのは、次世代に「残したくなる建築物」をつくることであり、それを実現する社会風土として「使い続ける美徳」を復活させる──それがサスティナブルな社会につながっていく。

戦後60年、勢いだけで突っ走り、建築はスクラップ&ビルド、エネルギーもふんだんに使ってきた。現代日本は、家も街も明るすぎる。夜、家で食事をするときも、食後のコーヒーを飲むときも、風呂あがりのナイトキャップのときも、みんな同じ明るさで、スイッチひとつでON-OFF、なんてあまりにも乱暴。照明はライトコントロールできるものを使い、徐々に暗くしていけば気分が落ち着き、睡眠モードにも入りやすい。また夜の街も、防犯レベルを超えるほど、全体に煌々と明るいが、見せるものと見せないもの、もっとメリハリをつけてライトアップした方が、街は美しいし、省エネにもなる。

近頃は、ヒートアイランドだとか、温暖化とかで、大阪の夏はますます暑くなっている。だからといって遠くのリゾートに出かけるのではなく、街なかで快適に暮らせないか。

都会に住んでいても、夜は暗闇から星を見上げたり、涼やかな夜風を感じる暮らしがしたい。僕らはそういうものを簡単に諦めてきたけれど、どうして両立をめざさないのだろう。大変には違いないが、できないことじゃない。ビルの屋上だけでなく壁面を緑化するとか、河川水のエネルギーをもっと活用するとか、真剣に取り組めば方法はあるはずだ。

昨秋、20年ぶりにインドのムンバイに行ってきた。ビルが増え、エアコンやテレビはもちろんインターネットも普及して、明るく騒がしい都会になっていた。だけど夕方になると、海岸に人々が集まり、みんなで夕陽を眺める習慣は残っていて、無性に羨ましくなった。日本はアジア一の先進国だけど、本当に幸せなのはどっちだろう。科学技術の恩恵を受け、便利さを享受しながらも、何を大切にし、何を残していくのか──サスティナブルな住まい方を、日本人もちゃんと考えないといけない。■


関連資料

「アートアンドクラフトのストック×リノベーション」

関連図書

「住まい」を読み解く10冊



Columnカテゴリ検索
政治・外交
経済・経営
社会・生活
文化・文明
科学・技術
電力・エネルギー
関西
サイト内全文検索
最近のMain Column


Insight時代を解くキーワード
I このサイトについて I メルマガ サンプル I 談話室 I 配信申込・解除 I お問い合わせ・ご意見 I
Copyright (C) 2002-2008 KEPCO THE KANSAI ELECTRIC POWER CO., INC.