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岡本 勝男・農業環境技術研究所生態系計測研究領域上席研究員

2006.06.01
「気候変動が食と農に与える影響」

岡本 勝男・農業環境技術研究所生態系計測研究領域上席研究員

岡本 勝男 おかもと かつお
独立行政法人農業環境技術研究所生態系計測研究領域上席研究員
1956年静岡県生まれ。静岡大学工学部情報工学科卒、同大学院工学研究科情報工学専攻課程修了。1998年農学博士(岐阜大学大学院連合農学研究科)。1981年ソニー(株)入社、システム・ソフトウェアの研究開発に従事。1988年農林水産省入省、1990年より現職。リモート・センシングとGISを用いたサンゴ礁汚染の評価、作付面積の推定、世界の穀物生産地域の変動などの研究に従事。著書「Satellite Remote Sensing of the Oceanic Environment」「農業リモートセンシング」「土の環境圏」「地理情報システムを学ぶ」「21世紀の食料確保と農業環境」(いずれも分担執筆)など。1998年度Taylor & Francis Best Letter Award (The Remote Sensing Society)、1999年度システム農学会論文賞受賞。


公式サイト>>
http://www.niaes.affrc.go.jp/researcher/200510/okamoto_k_0510.html

個人サイト>>
http://cse.niaes.affrc.go.jp/kokamoto/Okamoto.html

気候変動で食糧生産はどう変わるか。温暖化の進行によって、農業に甚大な影響が出たり、世界が食糧危機に見舞われることが懸念されているようだが、どの程度の影響があるのか?

私は主に東アジア・東南アジアにおけるイネ、コムギ、トウモロコシなど穀物生産について調べている。まず将来に向けたトレンドについて、過去のデータをもとに「生産量=収穫面積×単位面積当たり収穫量」という計算式で国ごとの傾向を見ると、日本のイネは、1970年代前半からの減反政策の影響で収穫面積は年々減少している。単位面積当たりの収穫量は、かつては1ha当たり5t程度だったが、農業技術の進歩で最近は約6.5tに増加。韓国でも同様の傾向が見られる。

中国では、収穫面積は80年頃まで増え続けたが、その後は漸減傾向。単位面積当たりの収穫量は、近年はやや停滞気味だが、長期スパンでは増加傾向にあり、1ha当たり約6tと、日本とほぼ同レベルにまで達している。アジア最大のコメ輸出国であるベトナムは、2000年以降、国際価格が安値で推移しているため、農家の生産意欲が落ちてはいるが、全体としては右肩上がり。収穫面積・単位面積当たり収穫量とも増加傾向にある。

もうひとつ、GDPと生産量の関係を見ると、GDPが一定値以上に達すると、1人当たりの生産量は落ち込む傾向がある。なぜなら、経済が発展して人々の暮らしが豊かになると、肉など副食の摂取量が増え、コメを食べなくなるからだ。実際日本でも、かつては1人当たり年間100kgを超えていたのが、今は60kg程度。中国は、もともと副食を多く食べる国なので、日本以上にこの傾向が早く現れている。一方、ベトナムなどの途上国はまだ貧しいため、GDP・生産量とも、今後もしばらくは増加していきそうだ。

次に気候変動により、世界の穀倉地帯がどう変わるか。現在、世界の穀倉地帯は、アメリカのコーンベルト、東欧・ロシア、中国、オーストラリア、南米ブラジルからアルゼンチンで、その地域は、気温と降水量、土壌に恵まれて「穀倉地帯」と呼ばれるようになった。その3条件と一致する地域を「栽培適地」、3条件のうち土壌は人間がある程度改良できることから、土壌を外して気温と降水量だけで見たものを「栽培可能地域」として、現在と、CO2濃度が産業革命期の2倍になった2060年頃とで、それらがどう変化するかを調べてみた。

そうすると、気温上昇によって栽培可能範囲が高緯度地域にシフトし、全世界における主要穀物の栽培可能面積は、現在の13億3300万haから13億7800万haへ、3%程度増えるとの結果が出た。一方、栽培適地面積は、現在の5億1500万haから2億7900万haと、46%減少する。

ただ、この予測は1995年に発表されたIPCCレポートのデータをもとにしており、その後、温暖化シナリオは少しずつ変化している。近年のもう少し精緻なデータを国や地域ごとの栽培暦──いつ種を蒔き、いつ収穫するという暦に当てはめ、2099年までの栽培適地と栽培可能地域を予測してみた。

例えば、一期作のイネの場合、栽培期間中の積算気温2400〜3500℃が栽培に適した気温、2000〜2400℃、3500〜5800℃が栽培可能な気温。ちなみに日本の東北地方が2000℃くらい。降水量は600mm以上が適していて、400〜600mmが可能な降水量。この条件で各地域の適・不適を見ると、気温・降水量とも栽培可能となる地域は、気候モデルにより多少差はあるが、現在より11%〜19%程度増加する。

一方、コムギのように比較的涼しい地域が適した作物は、アジアでは栽培可能地域が減少するが、ロシアや北アメリカでは増え、世界全体でもかなりの増加が予測される。トウモロコシの場合、人間が食べるだけでなく、家畜の餌にもなる。経済が発展してくると肉類の需要が増えるので、トウモロコシもたくさん必要になり、栽培可能地域が増えるのは望ましい変化だ。

但し、この栽培可能地域予測は、気温と降水量の条件だけを当てはめたものだから、全部が全部、実際に栽培可能とは限らない。例えば、畑にできない山であったり、泥炭土壌やシベリアのツンドラ地帯だったり、気候条件が整ったからといって、そのままでは使えない場所もある。北海道の石狩平野もかつては水はけが悪く、栽培に不向きな土地だったが、客土をしたり、排水路を整備したりして、今では穀倉地帯になった。それと同じように、相当手を加えないと農業生産できない地域も含まれている。

そういう場所でも栽培するかどうかは、経済とのバランス。投資してもペイする価格で売れるなら、開発は進む。実際「世界最北の水田地帯」とされる中国の黒龍江省など、かつては湿地や荒れ地ばかりだったが、政策として開墾を進めた結果、日本と同様の短粒米の一大産地になったし、90年代半ばに穀物相場が急騰したとき、作付け面積は2倍近くにも増加した。それでも中国東北地方の稲作農民の収入は、1カ月500人民元くらい。ここから燃料代や肥料代などを支払わなくてはならないので、一生懸命栽培して、収穫しても、都会のレストランで働くウェイトレスと同じでは割に合わないと、農業への意欲を失う人も多く、これが近年の停滞の一因になっている。食糧生産を左右する要因としては、気候変動よりむしろ経済条件の方が大きいとも言えるだろう。

一方、栽培適地から外れてしまった地域はどうするのかという問題があるが、これはもう、その土地に合う別の作物をつくるしかない。ただ、もうひとつの解決策として品種改良に期待できる。もともと東北や北海道に稲作が広がったのも冷害に強い品種ができたからだし、ここ10年ほどで黒龍江省が一大産地になったのも、夏場短期間で栽培できる品種ができたから。そう考えれば、これから50年、100年のうちに、気候変動に対応した品種改良を行うのも不可能ではないと思う。

このように温暖化が進んでも、食糧生産が直ちに深刻な事態に陥ることはないだろう。とりわけ温暖な気候を好む作物にとっては悪いことではないが、作物によっては、受精期に気温が高すぎると受精しなくなったり、品質が落ちたりするから手放しで喜ぶわけにはいかない。産業革命前に比べ、既にCO2濃度は1.4〜1.5倍になっており、今後はできるだけムダなCO2を出さない努力、可能な範囲で化石燃料に頼らない努力が必要だと思う。

例えば脱化石燃料として期待されるバイオマスエネルギーも、アメリカやロシア、オーストラリアのように広い農地があれば安くつくれるが、1人当たり面積が狭いアジアではどうしてもコスト高になる。各々の地域にあったやり方を行い、グローバルに流通させる仕組みも必要だろう。また風力、太陽光などの自然エネルギー利用も進める必要があるが、それで化石燃料をすべて置き換えられるわけではなく、現実的には廃棄物処理技術の確立を前提に、CO2を排出しない原子力発電も必要だろう。

日本の食糧自給率はカロリー・ベースで40%しかない。今後、人口減少が進むにつれ食糧自給率は少し改善するが、それでも今世紀半ばで50%程度がせいぜいだろう。経済合理的な範囲での100%の自給は不可能だから、自動車や電機製品などを輸出する一方で、食糧を輸入するという国際地域分業をせざるを得ない。そのためにも日本は、周囲の国と良好な関係を保ち、他国の農業生産や食糧事情にも関心を向け続ける姿勢が大切だ。■


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