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森 俊介・東京理科大学理工学部教授

2006.05.15
「温暖化防止へ──望ましいエネルギー・経済・環境モデルとは」

森 俊介・東京理科大学理工学部教授

もり しゅんすけ 東京理科大学理工学部経営工学科教授;
         地球環境産業技術研究機構(RITE)主席研究員
         (地球環境問題/廃棄物利用技術/エネルギーシステム)
1953年兵庫県生まれ。東京大学大学院博士課程修了。工学博士。東京理科大学助手などを経て現職。地球環境問題に対する統合モデルアプローチ(経済、エネルギー、技術、農業、食糧などを統合的に評価するモデル)、分散型エネルギーシステム開発、ゼロエミッションプロセス、アジア地域のエネルギー・資源・環境モデル、食糧生産ポテンシャル評価、道路交通フローのモデル化、廃棄物利用の技術評価モデル、バイオマスなど研究。政府間気候変動パネル(IPCC)のモデル評価の活動や、ゼロエミッションプロジェクトに参加。IIASA(国際応用システム分析研究所)日本委員会委員、「2050年のサスティナビリティ研究委員会」ワーキンググループリーダー、「RITE PHOENIXプロジェクト」ワーキンググループ主査なども務める。著書「地球環境と資源問題」、共著「エネルギーと環境の技術開発」など。


>>http://iaws-20.ia.noda.sut.ac.jp/Labo/mori.html

「温暖化予測は不確実であてにならない」「そもそも温暖化など起きていない」──最近、気懸かりなのは「温暖化懐疑論」が散見されることだ。学術的な論文にはないが、専ら一般誌やWeb上でそういう主張がなされることがある。

地球温暖化予測には、長期的気候変動(自然科学)モデルと短中期的社会科学モデルが混在する。自然科学的予測は「単一の未来」が存在するとの立場から、いかに正確に未来を再現するかが目的だが、社会科学的予測は人間の意思や行動を踏まえて「複数の未来」を設定し、各場合にどう備えるかを検討することが目的、とそれぞれ異なる。

とりわけ温暖化には、土地利用の変化や人口変動、価値意識など、人為的影響が大きく、どれほど精密な方程式体系を取り入れても、自然科学的な単一未来の予測は望めない。しかしだからといって、それが無意味なわけではない。

例えば、泥棒がいつ家に入るかは、自然科学的な予測対象ではない。しかし「泥棒に入られる可能性」を想定して防犯対策をとるのは合理的な行動だ。このとき、「泥棒に入られる」ことが的中する必要はない。将棋のようなゲームを考えるともっとわかりやすい。「手を読む」のは相手の次の一手を当てるためではない。「相手がどんな手を指してきても自分が不利にならない手を探す」ためだ。当然、相手の出方を複数想定する。

このように、「あり得る将来の姿」をいくつか想定し、不確実な将来に対する合理的な意思決定、という枠組みは、ゲームなど日常生活から企業や政策の意思決定の場でも普通に用いられる。この場合、将来は「不確実」なことが前提であり、そこで想定される「複数の未来図」は、必ずしも的中なり実現させることを目的としない。

この場合の良い予測とは、実現の的中度でなく、「どこまで考えるか」という想定の妥当性。泥棒がミサイルを撃ち込むことまで想定するのは、現代日本ではあまり意味はないが、戦争をしている国では必要だ。我々は一体何に備えるのか。大事なことは、「どの国や地域のどういう状況なら、どこまで考えるのが妥当か」、そして「どこまで金をかけるのが適切か」ということだ。

近年、自然界だけの変動を予測する気候変動モデルの予測信頼性は高まった。もちろん、まだ基本条件を同一にしてもすべてのモデルが一致した結果を出すわけではないが、基本的トレンドとしての温暖化の進行やマクロ分布の傾向としては、見解は一致。的中性を重視する自然科学も、100%当たらなくても行動を決定するには差し支えないところまでの知見は明確になってきた。

しかし未だ温暖化には誤解もある。一つは「温暖化メカニズム」に関する理解と誤解。エネルギー産業や省庁のWebサイトなどでの解説も寄与してか中高生でも正確な知識を持つ人は少なくない。ただ、「オゾン層破壊が温暖化の原因となる」「原子力発電は温暖化を促進する」など、誤解も多い。関心が高まってきたから、途中で半端な理解で誤解をするということだろう。

誤解は専門外の学者でも陥ることがある。例えば温暖化のトレンドを外した残差、つまり大気中のCO2濃度約360ppmのうち1ppm未満の変化だけを捉えて「温暖化がCO2増加に先行している」という主張がある。きちんとデータを見れば間違いだとわかるが、中途半端な理解だと誤解してしまう。また温暖化はCO2が赤外線を吸収することで起きるが、あるデータをもとに「CO2による赤外線吸収はすでに飽和しており、これ以上CO2が増えても温暖化しない」という説がある。なまじ物理学などの知識のある人は、データを見て「あれっ!?」と思うが、実はこれは100年前の主張。確かに地表近くでCO2濃度が上がっても気温は上がらないが、上空で気圧が低く低温の領域ではまだ赤外線吸収は飽和しておらず温暖化は進む。既に50年前に気象学者によって実証済みだが、気象学者以外なかなか上空には目が行かないので、未だに古い誤解が甦ったりする。

もう一つは、「温暖化影響」への理解と誤解。温暖化すると「何が」困るか。例えば海面上昇による高潮が予想されるが、これに対しては堤防を増やせばいいし、マラリアの発生拡大を防ぐには下水道整備が有効。つまり温暖化が進んでも、通常の社会インフラの整備で対応できる場合がある。では「誰が」困るか。海面上昇すれば、大阪だと堤防を増やすことで海水は防げるだろうし、下水が逆流しそうでもインフラが整備されているから、多少臭う程度。それが発展途上国だと、本当に下水が逆流し、衛生面でも大変なことになる。つまり影響を受けるのは低いところに住む貧しい人たちで、山の手に住む金持ちにはほとんど影響はない。インド洋津波やハリケーン・カトリーナのときも同様で、貧しいと逃げられず被害を受ける。その傾向は温暖化でも予想されている。

ところがこの被害を金に換算すると、意外に大したことがないということが起きる。貧しい人たちの資産は、大邸宅とかリゾートホテル、石油プラントなどに比べると微々たるものでしかない。しかし多くの人々の生活環境、生命が奪われることは、決して大したことがないとは言えないし、またその被害の金額で復興できるわけではない。だから温暖化影響を金で評価し、これを絶対視するのはある意味危険だ。金銭評価は、あくまで合理的な対策行動の指針として利用するべきだ。

あるいは生態系影響をどう評価するか。絶滅した種は二度とつくれないが、仮に南米でカエルが絶滅しそうだからといって、それを守るために大金をかけるのかとなると困ってしまう。絶滅しそうな植物に癌の特効成分が含まれているかもしれないが、では人間の役に立たない生物なら滅びてもいいかとなると、それはまた違う。しかし病原菌、エイズ菌まで守るのは了解できない。

一体どこまでなら受容可能か。温暖化影響で困る人困らない人がいるなかで、対策コストを誰が、どの地域どの世代の人が払うかも含め、最終的には政策担当者に価値判断を委ねざるを得ず、我々研究者はできるだけ正確な、温暖化影響と対策モデルを提示しないといけない。

温暖化対策の統合評価モデルは、1990年代に盛んに開発されたが、IPCC第3次報告では、それまでの「抜け」も見えてきた。つまり従来の温暖化対策モデルは、温暖化が進み資源も枯渇した2050年〜2100年を主に扱う「超長期モデル」と、排出権取引や産業政策など2010年〜2020年頃を扱う「短期モデル」であり、その間の2050年頃をターゲットにした「中期モデル」が抜けている。

端境期は難しい。2050年というのは、石油・天然ガス・ウランが枯渇間近で、核燃料サイクルを拡大するのか、拡大するにもFBR(高速増殖炉)でないとムリな状況が見えてきて、次のシステムに切り替えないといけない時期。2050年に切り替えるなら、原子力発電所1基つくるのに20年かかるとすると2030年には計画が具体化して土地探しに着手すべきだし、それに先立つ新しい技術開発に20年かかるとすれば2010年にはスタート──もうすぐじゃないか、となる。自動車も2050年にすべて水素自動車に切り替えるなら、普及率や技術開発を考慮して逆算すれば、どんどん手前になってきて、あまりのんびりしていられない。

世界人口も2050年頃がピークで、その後、高齢化。この高齢化社会が、エネルギー消費が増える社会か減る社会かはわからない。今の高齢者が自動車を使わないからといって、これからの高齢者もそうとは限らないし、単身世帯は確実に増え、それは大家族世帯より1人あたりエネルギー消費は多い。一体どうなるか、既に高齢社会に入っている日本でもわからないし、世界はまだ本気で研究していない。しかし2050年には世界中高齢化する。

IT化の温暖化対策効果も明確ではない。例えばETC(Electronic Toll Collection System)の普及で交通渋滞は減ったが、今度は車の利用者が増え、トータルでのCO2排出量は微減程度。またEコマースで本を買うと環境に優しいかを評価したところ、移動距離の長いアメリカなら有利という結果が出たが、日本では本を買うのに車を走らせる人は少なく、北海道くらいでないと効果はない。ただ、IT化が産業構造を変えているのは明らかで、かつては軽工業から重厚長大を経て情報・サービス産業に移行するのが常識だったが、インドや中国などでは重厚長大をとばしていきなりIT化。実は鉄鋼プラントなどが雇用吸収力が小さいのに比べると、IT産業の雇用吸収力は大きく、わずかな資本でできるし、エネルギー・環境負荷も遙かに小さい。

これらIT化や高齢化、太陽電池や燃料電池等エネルギーシステムの量産効果などについてはまだデータも少ないが、2050年を転換期と見た世界と日本の望ましい温暖化対策の統合モデル開発を、現在、RITE(地球環境産業技術研究機構)のPHOENIXプロジェクトとして進めている。

社会的変化を考慮しながら研究を進めているわけだが、具体的な温暖化対策は今、私の認識では「総論賛成、各論不合意」。反対というより、実施の順序づけに合意がとれていない。温暖化対策はコストゼロではできないし、効果・便益は広く薄く、かつ何世代にもわたり、はっきり目に見える形になりにくい。安全性や危機回避にはそういう面がある。つまり世界でみんなが少しずつ我慢しながら協力し合う構図は実現が難しい。実行可能で、かつみんながWin-Winとなる戦略をまず探り、次いで範囲を徐々に拡げるという手順が必要になる。

そういう状況のなかで、今後の日本の貢献を考えると、クリーンコール技術や省エネルギー技術など、特に電力・エネルギー使用ノウハウは、日本のビジネスチャンスを拡大し、Win-Winの可能性を拡げるものだと言えよう。

数年前の夏、ウィーンの研究機関を訪問したとき、昔は夏でもエアコンは不要だったが、次第にヨーロッパでも夏の気温が上がり需要が増えてきた。そして「日本のエアコンは省エネルギー性が高く高性能なのに、なぜウィーンでは売ってくれないのか」と尋ねられた。ドイツ・オーストリアはゴミ発電やバイオガス化の技術などは定評がある。各国それぞれに強みを持っているわけで、それらが市場性を持ち、互いに交換できるようになることが、Win-Winへの第一歩であり、健全な世界だ。

温暖化対策は何か一つ行えばすべて解決するものではなく、一つのものに頼りすぎるのは良くない。発電時にCO2を出さない風力、太陽光、そして原子力による発電。それぞれの役割を見極めて使うことが健全なやり方であり、この健全というのが正しい考え方で長持ちする。新しい考え方は古びるが、正しい考え方は古びない──持続可能なエネルギー・経済・環境モデル開発には、その視点が不可欠だと思っている。■


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