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川勝 平太・国際日本文化研究センター教授

2006.03.15
「美しい日本へ──
 地球生態系保全の模範を示すガーデンアイランズを構想する」

川勝 平太・国際日本文化研究センター教授

かわかつ へいた  国際日本文化研究センター教授(比較経済史)
1948年京都府生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒、同大学院経済学研究科経済史専攻博士課程単位取得満期退学、オックスフォード大学大学院博士課程修了。哲学博士。早稲田大学助教授、教授を経て、98年より現職。「海」の存在を歴史の重要なファクターとして捉えた独自の文明論と、スケールの大きい日本文明論を展開。ガーデンアイランズ構想を提唱。著書「『美の国』日本をつくる」「美の文明をつくる─力の文明を超えて」「日本文明と近代西洋」「富国有徳論」「文明の海洋史観」「海洋連邦論」、編著「アジア交易圏と日本工業化」、共編著「海から見た歴史」、共著「敵を作る文明 和をなす文明」「新しい日本のかたち」など。「21世紀日本の構想」総理懇談会・美しい国土と安全な社会分科会座長など歴任。NIRA(総合研究開発機構)理事。


>>http://www.nichibun.ac.jp/research/staff1/kawakatsu_heita1.html

文化は人を惹きつける。
日本の国力を形づくる軸、いわば「ジャパンパワー」の軸は、戦前の「軍事力」から戦後は「経済力」に移り、今「文化力」へと移る過渡期にある。軍事力や経済力が外へ向かって、力で押しつけるのに対し、文化は逆に、美で惹きつける。かつて日本人が憧れたアメリカン・ウェイ・オブ・ライフのように、人を惹きつけた文化は広まる。中心性、磁力を持って、求心力が働くとともに、一方で遠心力が働き普及する。

憧れられる文化は「美の文明」と言い換えられる。
文化の基本にあるのは暮らしの立て方、衣食住。目に見えて美しい、京懐石などの食文化、木造の住文化、浴衣を着たり衣替えをするような衣の文化に加え、価値観や美意識など目に見えない心の文化もある。目に見えるもの、見えないものを含めて生き方が文化。それを美しく魅力あるものにし、磁力、求心力を持たせることが、文化力をつけるということだ。

憧れの対象は、戦前はヨーロッパ、戦後はアメリカに移り、今、日本がその対象になりつつある。文化的伝統を残しながら近代化した国として、世界の憧れになりつつある。美しさにはそれ自体価値がある。訪れた人の目を楽しませると同時に、自分たちの自信にも繋がる。日本人は人を迎える心構えができていなかったが、失われた10年の間に数百の地域で景観条例が制定されており、水・緑・土が暮らしの周囲に回復しつつある。

美の文明へ、日本で価値の転換が起きたのはいつだったか。私はそれを1985年の「プラザ合意」がきっかけになったと見る。日本製品の攻勢に悲鳴を上げたアメリカが中心となって、円高ドル安への誘導を決めたこの合意により、日本は明治以来の、欧米へのキャッチアップを終え、歴史の分水嶺を越えた。

舞台となったプラザホテルは、ニューヨークの都心に拡がる広大な緑の空間・セントラルパークを望むロケーション。異なる宗教・異なる文化を持つ多様な民族が集うニューヨークで、人々はこの公園を散策することにより、ニューヨーカーとしての一体感・アイデンティティを確認する。セントラルパークを歩いていると、人間が還っていく場所は、やはり自然だと思わざるを得ない。

プラザ合意後の89年、冷戦が終結、大量生産・大量消費・大量廃棄のアメリカ文明が地球を覆ったが、92年に、リオデジャネイロで国連環境開発会議「地球サミット」が開かれ、人類は、「生命の星としての地球」を発見した。

そして92年暮れ、日本はユネスコの世界遺産条約を批准した。世界遺産には自然遺産・文化遺産・複合遺産の3カテゴリーがあり、翌年には日本の中で最後まで開発に取り残された地域、地球的自然が残る屋久島と白神山地が、人類の共有財産として世界自然遺産に登録された。

屋久島は、九州最高峰の山が聳える、縦に長い筒のような島。珊瑚の海から陸に上がれば、浜辺にはガジュマル、ハイビスカスやブーゲンビリアが咲き、少し登れば鬱蒼たる照葉樹林、標高500mくらいから樹齢数千年の屋久杉が現れ、さらに登るとシャクナゲ、高山植物、頂上付近には積雪が見られる。下は亜熱帯から上は亜寒帯まで、小さな島に実に多様な生物が垂直分布している。

日本は6,852の島々からなる島国であり、南北に長い日本列島自体、北は亜寒帯から南は亜熱帯まで広がっているので、ある意味、地球生態系のミニチュアと見立てることができる。それがさらに1つの島に凝縮されたのが、屋久島だ。

日本人はこの素晴らしい自然と深く結びついて暮らしてきた。2004年、世界文化遺産に紀伊山地の霊場と参詣道が登録されたが、これには「文化的景観」という言葉が導入された。つまり那智の滝や熊野古道は非常に精神性の高い自然だとして、日本の自然を「文化」と見た。確かに日本人は、八百万とか、石にも木にも滝にも神が宿るとしてきたが、今、そういう自然への畏敬の念が地球全体で共有されてきた。それが「文化的景観」という言葉ではないか。

世界文化遺産である京都の天龍寺が嵐山を「借景」として取り込んでいるように、嵐山を単なる自然ではなく庭の一部と見立てる。「見立て」は日本の文化だ。そこには、自然を、人間が征服するべき野生としてでなく、畏れを抱くとともに愛でるものとして捉える、日本人の自然観が息づいている。

そういうことを前提に、日本の国づくりを考える。6,852の島の国・日本において地球生態系のミニチュアと言える多様な自然を生かせば、「ガーデンアイランズ(庭園の島々)」という国土像が浮かび上がってくる。

日本は先進国だから、先進国並の地域単位を構想し、分権を進める。日本の自然環境に基づく文化風土、暮らしの立て方の共通点を見ていくと、日本は4つの洲に分けられる。関東平野は「野の洲」、関西を含む環瀬戸内・西日本は「海の洲」、木曽路がある中部地方は「山の洲」、北海道・東北は「森の洲」。それぞれがフランス、イギリス、カナダ、またカナダに匹敵する経済規模を持つ洲となる。首都は野の洲と森の洲の境界に位置する那須に置き、これを「鎮守の森の都」と呼ぶ。

生物多様性の原点、そして文化的景観としての森を大切にする時代が始まる。鎮守の森の都の新しい国会議事堂は、47都道府県から20本くらいずつ銘木を集めてつくる。神の依代としての神聖な柱が1000本。野、海、山、森と、多様な自然がある日本列島の中心に、地球的自然そのままの銘木が林立する議事堂──それは地球規模で環境を考える時代において、自然と共生してきた「日本の顔」として、象徴的な意味を持つ「森の議事堂」になるに違いない。

生命の星で、地球を、そして美の文明を体現する日本。
「集まり散じて人は変われど仰ぐは同じき日本の自然」──千年経っても変わらず人を惹きつける、美しい日本でありたいと願う。■


関連資料

「『美の国』日本を知る」 関連図書 「『文明と環境』を読み解く11冊」 


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