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長洲 南海男・日本エネルギー環境教育学会会長;筑波大学教授

2006.02.15
「明日の地球へ、エネルギー環境教育の課題は何か」

長洲 南海男・日本エネルギー環境教育学会会長;筑波大学教授

ながす なみお 日本エネルギー環境教育学会会長;
        筑波大学大学院人間総合科学研究科教授(理科教育学)
1942年生まれ。茨城大学文理学部理学科卒、東京教育大学大学院教育学研究科修了。横浜国立大学教育学部助手、講師、助教授を経て、77年より筑波大学教育学系講師、助教授、95年教授。科学/技術/社会(STS)アプローチ及びエネルギ-・環境教育、米国の科学教育カリキュラムなど研究。監訳「全米科学教育スタンダード」、著書「改訂高等学校学習指導要領理科編」など。筑波大学附属小学校校長を歴任、筑波大学エネルギー教育研究会代表、日本教科教育学会副会長も務める。


筑波大学エネルギー教育研究会>> http://tenergy.human.tsukuba.ac.jp/
日本エネルギー環境教育学会>> http://www.jaee.jp/

学校教育を巡る明治以来の神話が崩壊している。
例えば、学校で学んだ知識「学校知」は社会成功の基である、と言われたが、コンピュータを含めた最近のITなどについて我々世代は学校では学ばなかったし、これら学校で学ばなかった知識や技能を用いて社会で成功する人は大勢いる。従来学校で学べるのは「唯一正解」を得られる知識であり、だからこそ学校の先生は教えることができた。しかし今、現実社会を見ると、先生にわからないことはたくさんある。身近な食品1つとっても、原材料全て言い当てることは難しいし、製造工程も分業化され、つくっている人もわからなかったりする。

かつては真理追究の科学、モノづくりの技術というように科学と技術は分かれていたが、今はクローンにしろ遺伝子組み換えにしろ、どこまでが科学でどこからが技術か、それぞれの境界は不確かである。またこれらは新聞の一面記事になり、密接に社会あるいは倫理と関わっている事実や現象が多い。いわば、現実社会に唯一正解はあり得ず、絶えざる未知との遭遇の連続になる。

環境問題は、英語では「Environment Problem & Issues」と称されている。Problem、問題ならば正解を得られる。つまり解決できる。しかしその場で正解を得られないものがある。現状では正解を得られないが、将来新たな知見や原理などが新しく発見され解決されるかもしれないものは、「Issues(イシューズ)」として、峻別する必要がある。地球温暖化も、CO2との因果関係がわからなかった時代はIssuesだったが、今は解明され、科学的には問題解決できたが、国際政治上はIssuesであり、唯一正解が存在するとは言い難い。

環境とエネルギーは表裏一体の関係である。エネルギー(Energy)、経済(Economy)、環境(Environment)の三者は「3Eのトリレンマ」が指摘されているように、相互に関連しあっていて、あちら立てればこちら立たずと、三者の抱える問題はいずれも1つの解決策はない。

唯一正解がなくなった現在、必要なのは学校教育のパラダイム転換である。 京都議定書も発効し、環境への関心は高まっている。車の広告が象徴するように、昔はダッシュ力など「スピード」を追求してきたが、その後「安全」に移り、現在は安全性のみならず「環境配慮」が1番のセールスポイント。このような社会的背景を受けて、学校教育の現場でも環境教育への取り組みは進んできた。

しかし環境と表裏一体の関係にある、エネルギー教育に関してはまだそこまで至っていない。水が汚れる、空気が汚れるということは感覚的に理解しやすいので、環境を綺麗にしようとなる。しかしエネルギーに関しては、いわゆる「湯水の如く」使っても、使いすぎの実感は乏しい。つまり環境の場合は負荷が五感でわかりやすいが、エネルギーは停電などのリスクが表面化しない限りわかりづらく、人々の意識に上がりにくい。

実は筑波大学は、時代ごとの日本の「エネルギー観」を反映している。30年以上前、エネルギー使い放題の時代に建てた建物は窓が開かない。なぜなら冷暖房を自分でせずに機械的にセントラルコントロールするからである。石油ショックの頃の建物は外装の見栄えが良いとは思えない。その後の時代の建物は外装も比較的良い状態である。いずれにせよこれらの建物はすべてセントラルコントロールで全館冷暖房になっている。しかし、3年ほど前に建てられたものは完全に各室ごとの個別冷暖房となり、それぞれが教員の研究費から光熱費を支払わなければならない。光熱費の使用は自己責任となっており、その背景には使用する資源エネルギーは有限であり、各自に省エネが求められることになった。

今、資源の有限性だけでなく、CO2排出削減のためにもエネルギー消費の抑制が望まれるが、日本でエネルギー消費はまだ伸び続けている。衛星写真で地球を見ると、先進国には煌々と光が溢れている。眩いばかりの電気の照明だ。場合によっては日本海がものすごく明るいこともある。一斉に漁に出ているイカ釣り船の灯りだ。翻って、最近行ったカンボジアは、一歩町を外れると、そこは漆黒の闇である。我々世代は第二次大戦後間もない日本の漆黒の闇を知っているが、現在のコンビニの煌々とした明かりしか知らない今の日本の子供たちには想像もできない。しかし途上国が先進国並みの生活水準を希求することは否定できず、今後ますますエネルギー需給の逼迫と地球環境問題の深刻化が想定される。

このようにエネルギー問題は、次世代、そして世界の人類の生存に関わる点でまさしく教育の問題であり、それを考え行動することが現世代の責務と言えよう。

次世代、つまり子供たちをどうすべきかを考えたとき、子供を教える教師をどうするかということになる。現職教員の教育はもちろん、将来の教員をどう養成するか。それは大学の教育をどうするかという問題であり、さらに教育分野のみならず、理学、工学、社会学──あらゆる分野で現世代が次世代への責務を認識し、エネルギーの重要性を認識し、行動することが必須不可欠と言える。つまりエネルギーや環境イシューズに対しては、工学系、理学系、環境系、社会科学系や教育系等さまざまな分野が上記の「次世代への現世代の責務」という共通の認識のもとに総合的、学際的な取り組みが不可欠で、従来の知識記憶型、唯一正解追求の学校教育からの根本的転換が求められている。

アメリカは20年以上前から「国の根幹は教育にある」という共通認識のもとに、民主、共和いずれの政権も連邦政府が国家戦略として教育を推進している。全米的に教科ごとに全米スタンダード(日本の学習指導要領とは全く性格を異にしている)、科学教育では96年には全米科学教育スタンダードをつくり、その内容にエネルギーに関する内容が含まれている。アイオワ州を除いた各州がこの全米スタンダードをもとに州のスタンダードを作成している。一方、カリフォルニア州のように州としてエネルギー教育を実践しているところがある。また韓国は、環境を選択科目として中学、高校教育に取り入れ、国レベルで環境教育に積極的に取り組んでいる。このように学校教育に組み入れられるかどうかは、結局はソーシャルニーズによる。環境に負荷を与えない、エネルギー消費を抑制しようという認識が社会一般に普及していくことが極めて重要だ。

2002年度から始まった資源エネルギー庁のエネルギー教育調査普及事業は、地域におけるエネルギー教育の研究拠点の構築と、地域の特色を生かしたエネルギー教育に関する実践的な研究を支援することを目的に、公募を通じて選ばれる「地域拠点大学」と「実践校(小中高)」でエネルギー教育に取り組んでいる。現在は、全国約180校のエネルギー教育実践校と10数大学でのエネルギー教育拠点大学を中心に、エネルギー教育の実践活動が全国的に展開されている。このようにエネルギー教育が進展していくなかで、学会設立の気運が草の根的に盛り上がり、2005年9月、「日本エネルギー環境教育学会」が設立された。

学会では、次世代への責務として、教育関係者はもちろん自然科学、技術学、工学、政治学、経済学、歴史学や文化など多様な分野の専門家・業界関係者が集まり、「エネルギー環境教育学」という新領域の創造に向けた、コーオペレーション(協働)とコラボレーション(共創)を進めている。理想は、「エネルギー環境」に関する新しい科目が学校教育の中にできること。そのために持続的・継続的にエネルギー教育を実践し、エネルギー環境へのソーシャルニーズを高めることに努めたい。■


関連資料

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