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國部 克彦・神戸大学大学院経営学研究科教授

2006.02.01
「社会的責任としての環境経営──議定書目標達成へ企業の役割と課題」

國部 克彦・神戸大学大学院経営学研究科教授

こくぶ かつひこ
神戸大学大学院経営学研究科教授(社会環境会計;環境管理会計;環境経営)
1962年兵庫県生まれ。大阪市立大学商学部卒、同大学院経営学研究科経営学専攻博士課程修了。大阪市立大学助教授、神戸大学助教授を経て、2001年教授。企業の環境経営を促進する手法開発、マテリアルフローコスト会計を中心とする環境管理会計の体系化、環境配慮型業績評価システムの導入モデル開発、環境会計と環境評価の統合など研究。著書「環境管理会計入門」「環境会計の理論と実践」「社会と環境の会計学」、共著「マテリアルフローコスト会計」「環境会計の新しい展開」「IBMの環境経営」「環境報告書の理論と実際」「環境会計最前線」「ソーシャル・インベストメントとは何か」など。国連持続可能開発部環境会計専門会合エキスパートメンバー。(株)環境管理会計研究所取締役、環境省「環境会計ガイドライン改定検討委員会」「環境報告書ガイドライン改定検討委員会」委員、経済産業省「環境会計本委員会」委員長など。


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日本企業が環境を意識し始めたのは1990年代初頭で、1つのピークが環境マネジメントの国際規格ISO14001が発効した96年。翌97年には京都議定書が採択されるなど、90年代後半に環境マネジメントのしくみが、かなり明確になってきた。ただ、環境経営の現状は、環境保全のしくみと経済活動のしくみがうまく結びついていない。京都議定書が発効し、温室効果ガスの削減目標達成への取り組みを一段と進めざるを得ない状況下、「過渡期」のもどかしさを強く感じる。

つまり経済活動と連動して環境経営を動かすしくみがまだ十分発達していない。ISOを取得して、目標を立て、Plan、Do、Check、Actionを回しても、それは企業の経済活動とのリンクが弱く、仮に目標が達成できなくても特に問題はない。環境対策はほとんどの企業で業績評価に繋がっていないから、さほど熱心にやらないし、ISOを取得しても形骸化しているケースも多い。

それを克服するには、環境への取り組みを経済活動と結びつけないといけない。課題は2つ。1つは企業経営のしくみ自体を変えていくこと。もう1つは、それを促す外からのプレッシャーが要るということ。

まず企業経営で大事なのは、目標を立てて実行させるしくみづくり。事業部の業績評価、個人評価と結びつけない限り、頑張りますと言うだけで終わってしまう。例えばリコーでは、事業部トップの業績評価に環境パフォーマンスの値が入っていて、達成度合いを社長自らが評価している。私はリコーの事業所をいくつか回ったが、どこも工場長クラスの環境意識が他の会社に比べて格段に高い。それはやっぱり業績評価に結びつくしくみをつくっているからだ。そして業績評価に結びつけると決めたら、次は結びつけ方。努力しないと達成できない目標にすることが大事であると同時に、努力すれば達成できる範囲に収めることも重要。

また、製造の現場で、経済と環境を両立させる手法をもっと開発しなければならない。例えば廃棄物の発生を仕方ないと思うとアンコントローラブルだが、コントロール可能と見なすと削減の余地がある。環境管理会計にマテリアルフローコスト会計というものがある。今、企業が製造プロセスで行っている原価管理では、仕入れにかかったコストは全て製品価格に反映させるような形。原材料のうち、何がどれだけ製品に使われ、一方でムダに捨てられたか、ほとんどの企業は分けていない。しかし分ければムダが見えてきて、何をどのくらい削減すれば良いかが判ってくる。だからマテリアルフローコスト会計などを導入し、削減プロセスを見つけて実行すると、大きな効果が得られることも結構ある。また製品の環境効率にしても、既に環境負荷の大きさを金額評価するしくみは、かなり精緻化されてきた。例えばLCA(ライフサイクルアセスメント)。ライフサイクル全体で環境負荷の量を総合的に評価して金額換算し、削減効果を経済的価値として計算できるようになっている。

要は、環境対策を実行すれば会社の利益にも貢献するしくみが大事。企業会計にその視点を入れることが、今後の重要な課題になってくる。そして私が強く思うのは、環境経営を標榜しながらも、企業の中で、環境部門を実質的に中核に据えていないケースが多い。環境を企業の中核の1つに据え、そこから利益なりビジネスチャンスが生まれるような形にすれば変わっていく。

ただ、いくつか問題があり、地球温暖化問題で言えば、CO2の価格が低いこと。つまりCO2を1kg排出することによる環境への悪影響の金額はそんなに高くない。今ヨーロッパの排出権取引でも1トン1000円─3000円。同じ量のCO2削減に必要な企業の投資額は約9000円─2万円と、ギャップがある。削減費用が高く見積もられるのは、最初は投資に対し大きな効果が得られるが、次第に効果が小さくなる「限界効用逓減の法則」が働くから。先進企業ほどその傾向が強く、地球環境保全に逆行する意思決定がなされることもある。

だからもう1つ重要なのが、環境経営を促す外からのプレッシャー。企業の自助努力に限界があるなら、排出量に応じて税金をかけるとか、政府による規制が想定されるが、それは企業は反対。環境負荷の削減が短期的には企業にとってあまり利益にならないなかで、企業を動かすのは、経済的効果はともかく、社会的評価の向上。例えば環境ブランドが企業評価に結びつくようにする。

企業の利益には2種類あって、時間的には短期の利益と長期の利益があり、内容的には金銭的な利益だけでなく、潜在的な企業の潜在的競争力の向上も重要だ。財務諸表に表れる利益だけでなく知的資産や人的資産を評価しようという動きがあり、環境への評価もその1つ。企業にとってSRI(社会的責任投資)ファンドやエコファンドに組み入れられるのはステイタスに繋がるし、環境ブランドを打ち出すことで環境意識の高い従業員を採用でき、中で働いている人も誇りに思える。そういう方向に経営者を動かす社会的なマインドが大事だ。

ただ難しいのは、京都議定書の発効も、大半の生活者には他人事。将来、地球がこうなると言われても、根底ではどうしても、あまりにも先のリスクと思ってしまう。もっと説得や教育が必要だし、何より環境保全活動が快適だと思うしくみづくりが大事。将来世代のためが半分、今の自分のためが半分でないと続かない。環境政策で一番欠けているのが、今の生活が環境配慮によりどれくらい豊かになるかという視点。自分のライフスタイルを環境配慮型に変えていくことで、企業の環境配慮を評価するマインドが生まれる。これは時間がかかるが、萌芽は見えてきた。公害問題の時代は環境と言えば森の中で暮らすとか、脱文明的発想だったが、今はLOHASなど、環境に配慮しながらゆとりのある暮らし方のイメージも出てきた。そういうビジョンを普及させていけば、法律で縛らなくても動くようになる。

環境経営の実施に向けて、しくみ的には揃ってきたし、経営者の意識も社内の意識も高まってきた。最初は日本を代表するトップ企業が先鞭をつけ、徐々に拡がり、今は中小企業も環境配慮が課題になっている。そのためのツールは揃ってきたし、使い方も判ってきたが、どうやって使わせるかが、まだ弱い。環境保全を経営に組み込む部分はまだ弱く、そこを強くすることが大事だ。

1つの兆しは、企業のコミュニケーション面で、以前は報告書をつくって出すだけだったが、最近はステークホルダーの意見を聴いて環境保全活動やCSR経営に反映させるしくみができてきた。それは環境報告書がCSRレポートへ進化しつつあることが大きい。というのは環境目標は企業内部で完結するが、CSR、社会的責任となると、社会の人が何を求めているかを知らずに目標は立てられない。だからステークホルダーの意見を採り入れることが重要になってきた。

この、環境からCSR、CSRから環境という流れが大事。実はCSRには実態があまりない。別に目新しい活動をするわけでなく、コンプライアンスの徹底や従業員への各種対策、地域社会への貢献など従来からやってきたこと。それをCSRという観点で統合しマネジメントするしくみができて初めて価値が出る。今はまだ十分とは言えないが、CSRの重点分野の1つである環境は、目標を立てて実行し評価するしくみができてきた。それをモデルにCSR経営を立ち上げるのが望ましい。

CSRへの取り組みは、将来的なリスク低減にも繋がる。最近の例で印象的なのは松下電器で、事故の大きさに比べ松下への批判は少ない。日々のCSR活動で築いた社会との良い関係性が、こういうときに生きてくる。関西電力も美浜発電所の事故などから、社会的信頼回復のためステークホルダーとの対話など熱心に努力している。特に事故のあと、地域の人と会合を持ち、その意見を吸い上げて反映させていくのは、何より重要だ。実は、CSRも環境もローカルが大事。CSRで言うソーシャルは第一義的には近隣社会のことであり、本来CSRはローカルな意思の尊重が基本。ローカルを大事にすれば地域が発展し、会社の事業も経済も発展する。そういう視点から特に電力会社は、地域に根ざした会社としてCSR経営のモデルをぜひつくって欲しい。■


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