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松下 和夫・京都大学大学院地球環境学堂教授

2006.01.01
「いま地球環境問題の論点は?──COP/MOP1後の世界の課題」

松下 和夫・京都大学大学院地球環境学堂教授

まつした かずお 京都大学大学院地球環境学堂教授
(環境政策論;地球環境の政治経済学;環境ガバナンス論;地球温暖化)
1948年徳島市生まれ。東京大学経済学部卒、ジョンズ・ホプキンズ大学大学院修了。1972年環境庁入庁。78〜81年OECD環境局産業環境部。90年国連上級環境開発官として「環境と開発会議92」事務局勤務。92年環境庁大気規制課長、93年環境保全対策課長、95年環境事業団地球環境基金部長。98年地球環境戦略研究機関副所長。2001年11月より京都大学教授。国際協力銀行環境ガイドライン審査役、国連大学高等研究所客員教授、国際湖沼環境委員会理事なども兼ねる。「環境ガバナンス研究会」代表、「脱温暖化2050プロジェクト」メンバー。著書「環境ガバナンス」「地球温暖化読本」「環境政治入門」「地球大異変」、共著「今なぜ地球環境なのか」「環境問題と地球社会」「地球時代の自治体環境政策」「地球環境の政治経済学」、監訳レスター・R・ブラウン「地球白書」など。


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温暖化対策は新たな段階に入った。
2005年12月のCOP11&COP/MOP1(気候変動枠組条約第11回締約国会議&京都議定書第1回締約国会合)は、最終日の朝まで議論がもつれたが、結果としては京都議定書の運用ルールが完全に確立したし、ポスト京都議定書の2013年以降の温暖化対策について、米国も途上国も含め全ての国が対話に参加することが決まり、全体として次のステップに向け勢いができた。

こうした温室効果ガスの排出量削減「ミティゲーション」に加え、もう一つ「アダプテーション」、温暖化被害への適応についても、被害を受けがちな開発途上国側が対応を要望していたが、適応基金など、体制が徐々にできつつある。

今回、議長を務めたカナダのディオン環境大臣は、会議の課題を3つの「I」とした。まず、Implementation、実施。京都議定書を実施するため、マラケシュ合意が確認され、「遵守規定」が採択され、遵守委員会も発足し、これは合格。2つ目が、Improvement、改善。京都議定書と気候変動枠組条約の改善として、CDM(クリーン開発メカニズム)改革や、JI(共同実施)、排出量取引を含めた「京都メカニズム」の確認、「適応」の体制も確立した。3番目がInnovation。革新、創造。2013年以降の取り組みに向け対話の場ができたので、一応合格。

もともと温暖化問題は、科学者が警告して政府間交渉が始まり、各国内で政府間合意に基づいて実施する「トップダウン」。しかし今回モントリオールに行って感じたことは、それが自分たちの生活に関わりが深いと、市や州、産業界が具体的な問題に取り組み国際社会に貢献する「ボトムアップ」へと変わってきた。

例えば米国は京都議定書から脱退したが、州や市、企業では独自の取り組みが進んでいる。カリフォルニア州のシュワルツネッガー知事はブッシュ大統領と同じ共和党だが、2005年6月の世界環境デーの演説で「カリフォルニア州は地球温暖化との闘いで世界のトップに立つ」と宣言。具体的目標として、温室効果ガスを2010年に2000年レベルに戻す、2020年には1990年レベルに戻す、さらに2050年には1990年の80%削減をめざすとし、それを州知事指令として出した。

カリフォルニア州のCO2排出量の56%は自動車から出ており、同州は2009年以降、自動車から出るCO2を最終的には30%削減する法案を通した。連邦政府とは別に独自基準を定めたわけだが、他の州は連邦政府基準かカリフォルニア基準を選ぶことができる。現在、全米自動車市場の1/3にあたる、ニュージャージーやニューヨークなど10くらいの州がカリフォルニア基準を適用する見込み。すると米国で自動車を売るメーカーは、カリフォルニア規制に適合する必要があり、それが事実上全米基準、ということは、いずれグローバルスタンダードになる。

また、シアトル市長が2005年2月16日京都議定書の発効日に、連邦政府が議定書を批准しないなら全米の市で独自に議定書と同等かより高い目標を掲げて取り組もうと呼びかけた。当時の批准国141カ国に対応する141市をめざしたが、結果的に今、ニューヨークやロサンゼルスなど、人口で4000万人以上になる、194の市が参加。アメリカ全体でも随分雰囲気が変わってきた。

だから流れとしては、温暖化対策を地域発展戦略として取り組む動きが、途上国も含めて出てきている。中国やインドでも、国内の発展政策の一環として、省エネルギーや代替エネルギーの開発に力を入れている。政府間交渉は各国の利害が対立して進展しない面もあるが、各地域の取り組みで成功事例が出てきた。技術開発も進み、人々が積み上げてきた努力が蓄積されている。おそらく歴史は後戻りできない。それぞれの地域の人が、企業が、自治体が受け止めて、着実に下から進んでいる。

そういう中で日本は今回、全ての国が参加できる枠組みに向け、途上国や米国への働きかけを行い、国際交渉の場で役割を果たしたが、問題は国内。どうやって議定書目標を達成するか。京都議定書目標達成計画もつくり、メニューは増えたが、具体化する政策的な裏付けが乏しい。例えば企業等のCO2排出量公表制度は一つの前進だが、他に環境面から考えた税制改革や排出量取引制度の整備など課題は多い。

日本発の取り組みとして、メーカーと流通と消費者が連携して環境に配慮した消費行動を行う「グリーン購入ネットワーク」は、韓国や台湾に波及した。そういう個々の成功例はあるし、クールビズやウォームビズも意識を高める効果はあった。

それを一歩進めるには、企業の技術開発と社会のシステム変革が重要だ。例えば自動車の燃費向上も大事だが、自動車に頼らない街をつくるのも重要。ストラスブルグは、街なかへの自動車の乗り入れを規制し、公共交通を整備した。当初は自動車を締め出すと街がさびれると心配したが、結果的には買い物や散策する人も増え、賑わった。社会の仕組み自体をそう変えていく。

日本は温暖化対策では必ずしも先進国ではない。個々の企業はかなり努力しているが、社会システムとして、CO2を減らせば経済的に評価される仕組みをつくらないといけない。モントリオール会議で最後にクリントン前大統領が「温暖化はビジネスになる」と演説したように、単に犠牲的精神でなく、やったことが社会的に評価され、企業収益にも繋がる仕組みを社会全体でつくるべき。

1992年の地球サミット以降、気候変動枠組条約、京都議定書など国際条約は数多くできたし、日本国内でも循環型社会をめざしリサイクル関係の法律もできた。条約や法律など制度は随分整備され、成功事例もできてきた。ただ残念ながら被害のスピードが取り組みを上回っている。温暖化と被害の繋がりは見えにくく、ハリケーンカトリーナもスマトラ沖地震も直接的には温暖化被害と断定できないが、温暖化すればああいう被害が増える。国際会議で議論をしている間に事態はどんどん進んでいる。廃棄物削減やエネルギー利用の効率化、化石燃料に頼らない仕組みづくりなど、スピード感のある対応が必要だ。

現在日本は▲6%という京都議定書の目標達成で精一杯だが、議定書が究極目標ではない。50年後には大気中の温暖化ガス濃度を安定化させないと被害が拡がる。つまり排出と吸収をバランスさせるわけだが、炭素換算で今1人1トン、地球全体で約63億トン排出し、森林や海洋で吸収されるのが31億トン。半分以上は大気中に滞留しており、毎年CO2は増加。温暖化被害を抑える閾値は、産業革命以前、1860年頃と比べ、地球全体の平均気温で2℃程度の上昇。1℃で珊瑚礁の大部分は死滅、2℃だと異常気象や干魃が起き、被害が大きくなる。だから2℃以内に抑える必要があるが、既に0.7℃も上昇しており、2050年以降、地球全体で排出量を半分に抑える必要がある。それも、今後まだ人口増と経済成長中の途上国を考えると、先進国は最終的にはCO2排出量を60%─80%まで削減しないといけない。それだけの努力をすれば、CO2は100─200年で安定化するが、実は気温は今後200─300年上がり続けるし、海面は上昇し続ける。だから将来世代はかなり大変。

このため日本も国際的責任を果たし、2050年には大幅にCO2を減らそうと「脱温暖化2050プロジェクト」を進めている。CO2削減は我慢のイメージが強いが、より人間らしく豊かに自由に、なおかつ環境にやさしい社会をどうつくるかについて、環境学、生物学、工学、経済学など多様な専門家が集まり、地方都市のあり方や住宅、交通、産業のあり方などを研究している。

そして脱温暖化には電気事業の役割は大きい。モントリオール会議では関西電力がブータンの小型水力CDMプロジェクトをプレゼンテーションしていたが、そういう動きを拡げて欲しい。また私は関西電力がフィリピンで建設したサンロケダムを見たことがあるが、ダムを造るだけでなく、学校や住民が働ける養豚場をつくるなど、環境対策や住民対策に配慮していたのが印象的だった。電力会社には、そうした活動はもちろん、CO2の回収・固定化の技術開発や、自然エネルギーの比率向上も望みたい。

人類は制約条件にチャレンジし、知恵と工夫で次のステップに来た。だから温暖化をリスクでなくチャレンジ、新しい機会と捉えて、新しいマーケット、ビジネスをつくる。今、LOHASなど、効率性だけでなく新しい価値観で、自然と調和した働き方、生き方をする人も増えてきた。こうした人々と一緒に温暖化対策を軸にした街づくりなどに取り組めば、新しい展開が生まれると信じている。■


関連資料

「『地球温暖化』の周辺」 関連図書 「『地球温暖化』を読み解く11冊」 


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